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 真っ暗な。

 どこか広い空間に、長尾は横たわっていた。四肢は重く鉛のように沈んで動かない。声を出そうにも喉を震わせることができない。

 暗闇を見つめている。…… いや、違う。

 長尾は、暗闇の中に蠢くものがあることに気づいた。影だ。

 いくつかの長い影が、長尾の周りを囲んでいた。


「…… さん、…… ろさんが」

「…… ちいさな、…… よわいが、いまは」 


 ぼそぼそと、影の方から喋る声が聞こえる。自分とは別の意識を持つ存在のようだ。

 影は長尾を見下ろしながら、触るでもなく話し続けていた。


「しろさんにはかなわん」「だがまだちいさくよわい」「おんみしかまもれない」「いや」「このおとこをまもった」「しろさんのかごの」「かごのはんいにあった」「おおきくなる」「あれは」


「おおきくせねば、つかいものにならん」


 その言葉の数々が、長尾には自分の隣にいた者を指している気がした。

 長尾は無理やりにでも身体を動かそうともがくと、さあっと影が音もなく退いた。

 自分の様子に気づいたのかと思った。だが、違う。

 長尾の傍らに光があった。

 視線を動かすと、長尾の視界に納まったのは小さな白い足だ。子どもの滑らかな白い足。

 光はその内側から零れているように見えた。

 柔らかな光を見て、長尾はホッと安堵した。この安心感を、自分はずっと知っていた気がするのだ。

 小さな足は踵を返すと、影と同じ音もなく暗闇の向こうへと歩いて行ってしまった。

 長尾はその光を見送ると、もう一度瞼を伏せた。


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