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山の中腹部に位置する小さな広場。
長年使われていない建物がそばにある。もちろん昔は何かに使われていたのだろうけど、今は大した手入れもされておらず廃墟のようだ。
時刻は夕方頃。とは言っても七月なのでまだまだ明るい。
しかし、この時間から山を登ろうと言う登山者はいないので人気がない。なので、俺にとってうってつけの場所だ。
※19/
都市から車で二時間ほど離れた郊外。高い山々が連なっていて家もぽつぽつと建っているだけなので、もう田舎と言っても良いだろう。
大した手入れもされていない山道を登る。
――本当にこんな所に『不死殺し』がいるのか?
だが、不死殺しは存在が知られていても実態は明らかではない。わざわざ依頼者をこんな山中に呼び出してもおかしくないか。
それに、あの『不死者』であるガキの言うことを疑うわけでもない。
俺は気が触れているらしいから何度も行っているが、不死者とは言え自分の首を掻っ切るのは覚悟がいる。それを、あのガキは俺の目の前でやってみせた。
『同じ不死者として頼みたいの』
俺の名前は出ていないが、存在はニュースで大々的に報道されている。しかし、どこからか俺の居場所を知ったあのガキは俺に懇願してきた。
〝正義の味方〟である俺に『不死殺し』を殺して欲しいと。
俺を警察に突き出すのではなく、不死者として共通の敵である不死殺しを殺すために、あのガキは奔走していたらしい。一般人もマスコミも見つけることができない不死殺しを見つけて来るぐらいなんだから、俺の居場所を知るぐらい容易かっただろう。
俺自身が不死者と気づいてから半年ほど経った。
俺は子供の頃からいじめや差別が大嫌いであった。だから『不死者が迫害されるこの世は間違っている』という思いも当然持っていた。そんな俺が迫害される立場になってしまったのは、ある意味予感のようなものだったのかもしれない。
やはり俺は特別な人間だったのだ。
その特別な俺は〝正義の味方〟となった。
そして、今日。
謎に包まれている不死殺しを殺すことによって、さらに俺を語るページが増える。
例え、国家指定ではない不死殺しであったとしても、その手で何人もの同胞を殺したのは確かだ。迫害され死を選ぶことしかできなかった不死者。そんな同胞を減らすためにも、不死殺しの数を減らしておかなければならない。そうすることによって迫害を受けた者たちが安易な死を選ばなくなり、俺の仲間となってくれるはずだ。そうして仲間を増やしていけば、やがてはこの国の根幹を変える大きな力になる。
それを導くのが俺の役目。
〝正義の味方〟であり、不死者たちの〝英雄〟となることが、特別な人間である俺に与えられた使命なのだ。
♢
そして、山の中腹部にある広場に到着する。
そこ居たのは中学生か高校生ぐらいのガキだった。
「こんにちは。ご依頼された方ですか?」
はっ、まさかこいつが不死殺しか。
それを見極めるためにも話をしなければならない。
「ええ、そうです。お若いようですけど、本当に〝あなた〟なのですか?」
「ははっ、よく言われます。でも、使いの者でもなく確かに〝本人〟です。ご依頼内容が『特別隔離地区に移送されるので殺して欲しい』とのことでしたので、俺が直接出てきました。機関から発行される証明書をお持ちとのことですので、それを確認でき次第、実行させて頂きます。証明書を拝見しても?」
証明書とは俺が不死者である証明をするためのものだ。あのガキの不死者によると、不死者であることを証明するものがないとすぐには不死殺しは動かないらしい。どうやらあのガキも長年不死者をやっていることだけあって、相手を欺くのが上手いらしい。事実としてこうして目の前に不死殺しがいるのだ。見た目は幼い女だが、参謀として俺の下に置いてやっても良いぐらいだ。
「はい、後ろポケットに入れてますので今出します」
そう言い、俺は背中腰に手を回しながら不死殺しに近づく。
間合いに入ったところで、俺は鞘からサバイバルナイフを抜き取って突き出した。