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第14話 無敵のタッグ

「久しぶりの現代。どうなっているかな」


 懐かしのコンビニ……ではなかった。いつの間にか規模が大きくなり、駐車場も満車に近い。そこらのスーパーより利益がすごいんじゃね?


「ということは、品ぞろえも良くなったに違いない」


 これは、戦国時代に持っていく商品に幅ができた! と、思いきや品ぞろえには変化なし。しいて言えば、百均コーナーが広がったくらい。そううまくはいかないか。


「今回は何を持っていくかな。お、これいいんじゃね?」


 俺はライトを手に取る。戦国時代ではたいまつが普通だったはず。オンオフできるライトは便利に違いない。在庫が少ないのが問題ではあるが。


 いつものごとく、バーコードを読み取ると、瞬時に戦国時代へと送られる。そして、今川義元を強く想う。ぐにゃりと周りの景色が歪む。


 これをあと何回すれば、今川義元を天下人にできるのだろうか。そして、成し遂げたとき、俺はどういう選択をするのか。まだ、その答えは分からない。でも、近いうちに決断しなくてはならない。それだけは確かだ。





「健、よくぞ戻った」


 目の前には見慣れた顔。


「ここはどこですか? 伊達領ではなさそうですが……」


「浅井・朝倉連合の近くだ。奴らを倒せば上洛を成し遂げられる」


 いつの間にか滋賀近くまで進軍したのか。やっぱり、タイムトラベルをすると、状況把握が難しい。


「織田、上杉など各地の武将を従えてはいるが、簡単には攻略できまい。今回は、未来から何を持ってきた?」


 簡単にライトについて説明すると、隣に控えていた山本勘助が何か思いついたらしい。表情がガラリと変わった。


「殿、このライトなるものですが情報伝達に使えるのでは? つまり、オンの時間が短ければ『接敵あり』というように」


 まるで、モールス信号のようだな。瞬時に別の使い方を思いつくのは、さすが名軍師としか言いようがない。


「なるほど、その案を採用しよう。問題は、どうやって連合を倒すかだ」


 義元はうーん、と唸っている。


 俺も何か案を出さなければ。未来から道具を持ってくるだけでは、単なる運び屋でしかない。


 この近くには小山が多い。必然的に高所に布陣することになるだろう。地の利を活かせば勝ちがグッと近づくはず。


「高所から丸太を転がしては? 攻めのぼる敵を一掃できます」


 我ながら名案だ。


「健の案は不採用だ」


 俺の提案はあっさりと却下された。いや、今の提案はいい線をいったはず。戦国時代で鍛えられた発想力は、まだまだなのか?


「だが、おかげで策を思いついた。決して無駄ではないぞ」


「それで、義元さんの作戦はどういったものですか?」


 俺の問いに「今に分かる」とだけ義元は答えた。





「慌ただしくなってきたな……」


 いよいよ戦というタイミングだから、当たり前だろう。


「義元さん、本当にここに布陣して良かったんですか?」


 ここは平地で小山の上ではない。高所に陣取るのが普通ではないのか?


「いいんだ、ここで。今回の作戦はここだからこそ威力を発揮する」


 その時、小山の方でキラリと何かが光る。短い光。つまり、「接敵あり」の合図だ。浅井・朝倉連合は、高所に陣取りをしようとしているに違いない。


 向こうの合図に対して、陣のライトはオンオフを三回繰り返す。あれ、こんな信号あったか?


「義元さん、まずいですよ! 小山のライトがつきっぱなしです!」


 なぜだ? 使い方は分かっているはずなのに!


「これが我が策。連合は高所を取ろうとするだろう。それを加速させる。ライトがオンならば、そこに誰かいると考えるはず」


「もしかして、平地に布陣したのは、山という逃げ場のない連合を麓から攻めるためですか?」


「その通り。山頂の兵には安全な経路を用意してある。無駄な血が流れることはない」


 ライトで敵をおびき寄せる。まるで、深海魚みたいだ。山本勘助の知恵に今川義元の策略。この二人がタッグを組んだのだから、浅井と朝倉が負けるのも無理はないな。


「進軍といくぞ! 上洛し、この世から戦をなくすために!」


 今川軍は山頂目指して駆けあがる。まるで、破竹の勢いで戦国時代を統一しつつある俺たちのように。





 小山をのぼると、不意を突かれて逃げ惑う連合軍の姿があった。


「今が好機! 攻め続けよ! 最後まで気を抜くな。敵将も名将だ。一瞬でも隙を見せれば、こちらが負ける」


 義元の号令によって今川軍はさらに勢いが増す。


 これならいける。押し切れば勝てる!


 不意に敵兵が現れ、こちらに切り込んでくる。


「義元、その首もらった!」


 まずい!


 義元が刀を一閃すると、ズブリと鈍い音がして敵兵は倒れこんだ。


「敵ながらあっぱれ」


 さすがに焦った。だが、これで分かった。義元が知略だけでなく武芸にも秀でていたことが。


「殿! 敵将の姿が見えました!」


 傷を負わせずに捕らえられれば、戦力が大幅にアップする。何か策はないか? 俺にでもできることが。


 その時、懐から短刀を取り出すと、腹部に突き立てようとする。


「そうはさせない!」


 勢いよくライトを投げて頭部に直撃させる。


「健、でかしたぞ。こいつは朝倉義景だ」


 この人物が、あの名将朝倉義景か!


「捕まるよりも切腹を選んだか。天下統一のために欠かせない人材だ。丁寧に運べ。浅井も首をはねずに連行せよ! 奴も失うには惜しい」





「ようやく終わりましたね、戦が」


 夜が明け、ライトの存在力も薄れ始めてている。長かった。これが、浅井と朝倉の力か。俺は吊るしていたいたライトを手に取ると、懐にしまう。


「だが、これで上洛への道筋が見えてきた。六角は浅井と三好との戦で弱体化してる。上洛最後の障害は三好だ」


 三好か。確か、四国の一部と近畿付近を領土にしていたはずだ。


「殿、三好長慶は弟の十河一存が急死しております。戦力が落ちた今、障害になるでしょうか?」


 部下の一言に「敵を甘く見るな」と義元が一喝する。


「三好のことだ。何か仕掛けてくるはずだ」


 その時だった。喉元にきらめく短刀を突きつけられたのは。


「貴様、何者だ!」


「名乗る筋合いはない。未来兵器さえなければ、東国の覇者の攻略もたやすい」


「もしや、三好の者か……」


「ばれても問題はない。殿の先見の明がお前を上回ったのだ」


「でも、義元さんには知略もある。お前たちの負けは見えている!」


「未来人は口をはさむな」


 短刀の柄が襲い来る。


 しかし、短刀は弾かれた。俺が懐から取り出したライトによって。


「くそ!」


 作戦が失敗に終わった三好の兵は、ひらりと今川軍の間を抜けて走り去る。


「確かに三好は強敵。だが、未来兵器だけがこちらの武器ではない。各地の武将を倒した実力、見せつけてやろう」


 先見の明のある三好と知略の義元。どちらが勝つか。間違いなく激しい戦いになる。上洛前の最終戦は。

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