奇襲とキツツキ戦法で入り乱れる兵たち。そして、着実に勝ちに近づく今川軍。
「この戦い、勝ちましたね」
「健、油断は禁物だ。まだ戦は終わっておらん」
確かに終わってはいないが、時間の問題じゃないか?
「『勝って兜の緒を締めよ』ではだめだ。勝ちが近づいたとき、思わぬ反撃で負けるかもしれん」
知略に冷静さ。これが天下統一を目指す者に求められる資質なのか。キツツキ戦法で誘い込まれた伊達軍は殲滅され城門はがら空きだ。
「さて、最後の仕上げだ。両軍の大将を叩く。みなのもの、かかれ!」
「やっと終わりましたね、大戦が」
あたりには兵の亡骸が多数あった。これだけの犠牲者が出たのだから、彼らのためにも戦国の世に平和をもたらさなくてはならない。何が何でも。
「牢に閉じ込められている者たちを解放だ。終わり次第、上杉、伊達と話をつけるぞ」
その時、隻眼で足が不自由な人物を見かけた。どうやら、自力で牢獄を脱出したらしい。もしかしたら、幽閉中に辛い目にあったのかもしれない。
「おい、そこの者。どこかで見覚えがある。名を言え」
「名乗るほどの者でもない」
隻眼で足が不自由……? もしかして――。
「あなた、山本勘助さんでは?」
俺の知識が正しければ、その可能性がある。
しばらくの沈黙の後に「ああ、その通りだ」とつぶやいた。
史実では武田信玄の軍師だったはず。まさか歴史が変わったことで、ここにも影響が出ていたとは。
「信玄公を退けたと聞いている。そして、天下統一の夢を託したとも。戦場に立てぬ主君・信玄公のためにも、力になることを誓おう」
三つ巴の戦は思わぬ結果をもたらしたのか。名軍師を味方につけるという戦果以上の成果を。
「さて、上杉に伊達よ。戦は我らの勝利で終わった。だが安心しろ。領土は取らない。そして、首をはねることもしない。代わりに天下統一のために尽くしてもらいたい」
この懐の深さがあれば、誰もが慕うのもうなずける。子孫として誇らしい。
「もちろんだ。この世を平和にするために力を貸そう。それが『義』だ」
伊達晴宗も「もちろんだとも」と続く。
「殿! 浅井と朝倉が手を結んだとの報が届きました!」
襖の向こうから兵が告げる。
「やはり、そうなるか……。名門をどうねじ伏せるか、腕の見せ所だな」
史実では姉川の戦いで信長が連合軍を破っているが、果たしてどうなるのか。上洛への道をこじ開けるためにも、勝たねばならない。
俺は誓った。「亡くなった者たちのためにも、必ず今川義元を上洛させる」と。