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第12話 風林火山――

 伊達を攻略すべく高所に陣取ったが何かがおかしかった。


「義元さん、伊達に動きがないですね。もしかして――」


「策を見破られた可能性が高いな。さすが伊達晴宗と言わざるを得ない」


 くそ、カイロ作戦は失敗に終わったのか。せっかく集めた材料が無駄になってしまった。


「こうなれば、米沢城を攻めるしかあるまい」


 義元の顔から落胆が見てとれた。それは俺も同じだ。これが、戦国時代の駆け引きか。





「予測できていましたけれど、伊達は籠城作戦にでましたね」


 これは、小田原城攻めの時と同じだ。騒音作戦で落とせるのか?


「健、お前の考えは分かっておる。だが、北条の一件を知っていれば対策されるのは間違いない」


「やはり、そうですか……」


 もしも、伊達政宗なら現代知識で対策できたかもしれない。だが、今の伊達家当主は伊達晴宗。俺は彼のことを全く知らない。もしかして、俺は義元の役に立てないのか……? いや、違う! 俺にも知識はある。武田信玄に関しての知識が。


「義元さん、武田信玄の『風林火山』に則っては? 『侵略すること火の如く』。守りを堅牢にされる前に、一気に攻め落としてはどうでしょうか」


 提案は、義元に却下された。「我が軍の血が無駄に流れる」と。


「だが、健の一言で策を思いついた。間違いなく米沢城は落ちる。『風林火山』の続きは知っているか?」


「続き……? ありましたっけ、続き」


 義元は言った。「こう続くんだよ、『知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し』とな」


「つまり、伊達に知られずに策を張り巡らせると?」


「ああ、その通りだ。伊達氏が奥州探題になったことをよく思わない武将もいる。奴らを味方につければ兵も増える。そうすれば、ある作戦が使えるようになる」


 俺が「ある作戦」について聞いても「やれば分かる」とひらりとかわされた。





 やっと、ここまでこぎつけたか。俺にとっては数日間が数年のように感じられた。米沢城を包囲する兵は増え続けて一万を超えた。これなら、義元も作戦を教えてくれるに違いない。


「義元さん、そろそろ作戦を教えてくださいよ」


 少しの間をおいて言った。「キツツキ戦法を使う」と。


 キツツキ戦法! そうか、史実では武田信玄が川中島の戦いで使った戦法だ! 囮部隊で敵を城外におびき出し、本命が横から突く挟撃戦術。


「分かりましたよ、狙いが。あとは、実行に移すだけですね」


 その時だった。後方から何かの音が聞こえてきたのは。


「あ、あれは!?」


 そこにあったのは「毘」の字が掲げられた旗。


「上杉謙信! 義元さん、まずいですよ。やっぱり、『大義名分』だけでは、彼を中立に持っていくのは無理だったんです!」


「いや、大丈夫だ。想定範囲内だ。むしろ、これぞ好機!」


 好機……?


「戦とは二手、三手を読んで行うものだ。もしや、米沢城を攻めるだけで終えると思っていたか? 念のために近くには別動隊を配置してある。それが上杉謙信に奇襲をしかければ、散り散りになる。そして、その隙にキツツキ戦法で伊達軍を城外にひっぱりだす。今川軍の力を見せつける時だ!」


 義元の号令で兵が動き出すと、少数精鋭が米沢城に進軍する。


 同時に、混乱した上杉軍が米沢城周囲を逃げ惑う。


 三つの軍が入り乱れている。でも、今川軍は統率がとれている。つまり――上杉と伊達を相打ちにできる!


「さあ、東国統一に向けた大戦の始まりだ!」

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