俺が現代に帰ると、いつの間にか「今川県」という県名が出来上がっていた。
「マジかよ……。今川県、めっちゃ広いぞ」
静岡はもちろん、愛知県、岐阜県、関東は「今川県」になっている。これ、そのうち首都が「今川市」になるんじゃないか?
「おい、今川。すまないが、そこの商品を陳列してくれ。……いや、俺がやっておくわ」
同僚の店員、急に態度が変わった。もしや、俺が今川義元の子孫だからか? これは面白くなってきたぞ!
「次は上杉を攻めると思うから、持っていくものは決まってるな」
俺はカイロを手に取るとレジに通す。ピッという音とともにカイロは戦国時代へ飛んでいく。
「健よ、いよいよ東国を統一する時がきた。これまで以上に激しい戦いになる。ついてくる覚悟はあるか?」
俺は義元の問いに「もちろん」と返す。
「まずは、上杉、伊達を討つのでしょうか。上洛の際に背後から攻撃されては堪りませんから」
「当たり前だ。上杉から攻めるぞ。奴は度重なる信玄との戦で消耗している」
川中島の戦いか。上杉謙信が名将であろうと、連戦はきついに違いない。
「では、伊達はどう攻略しますか? ここに『カイロ』という便利な物があります。体を温めて攻め入りますか?」
「それは面白い。どういう原理だ?」
「鉄と酸素の反応で温かくなります」
義元は「もしや……」と考えた後、部下に「カイロの原料を大量に集めるように」と命じた。
「健のおかげで、伊達攻略のめどが立った」
「え、さっきまでは上杉謙信が先と言っていたように思うんですが……」
急に考えを改めたからにはカイロが何かしらの役に立つに違いないが、伊達を討つ必殺兵器とは言えないぞ。
「伊達は谷におびき寄せて戦をしかける。こちらが高所を取り、カイロと同じ物質を上から落とす。そして――」
「急激に体が温まった伊達軍は混乱すると?」
「その通り。戦に必要なのは、鉄でも火薬でもない。“温度差”よ」
まさか、カイロが伊達攻略の一手になるとは。さすが、俺の先祖。応用力がすさまじい。
「じゃあ、上杉にも同じ手が使えるのでは……?」
「いや、それは難しい。上杉領は東西に長い。どこで戦が起こるか分からない以上、準備が無駄になる可能性が高い。攻め入る前に、中立に持ち込めないか試すべきだな」
義元は部下を呼び寄せると、「大義名分はこちらにあると伝えろ」と言った。
「大義名分とは……?」
俺には「大義名分」になるものが思い浮かばない。
「奴は義を重んじる。むやみやたらに領民を戦に巻き込む男ではない。『天下統一を成し遂げて、戦をなくす』と言えば、伊達を攻める間の足止めにはなるだろう」
人の性格をうまく使うのか。
「さて、伊達討伐に向かおうではないか」
いよいよか。包囲網を破り東国を統一する。今川家にとって大きな一歩だ。そして、戦国の世から戦をなくして平和をもたらす大きな一歩でもある。必ずや、成功させる。どんな困難が待っていようとも。