義元にはどんな策があるんだろうか。信長が裏切っても、この余裕なのだから秘策があるに違いないが。
「殿、まずは兵を集めて尾張を攻めるべきかと。桶狭間の戦いで信長は弱っています。斎藤道三が死んだとはいえ、美濃の斎藤家は依然勢力を保ってますから」
重鎮である泰朝が進言した。
彼の言う通りだ。まずは、信長を叩く。そして、今度こそ首をはねる。歴史を大きく変えなくては、現代での義元の評価は変わらないはず。うつけである信長を倒しただけでは、評価が変わらなかったのだから。
「よし、分かった。では、一万の兵を率いて攻めるとしよう。その役は、元信に任せる」
指名された元信は困惑していて、「それでは、士気が上がらないのでは?」とつぶやく。
確かに、トップである義元が指揮をとらなくては、武士の士気は上がらない。最悪の場合、戦に負けて元信が討ち死にしかねない。義元は、元信が死んでもいいという考えなのか? さすがに、先祖がそんな考えの持ち主だとは思いたくない。
「では、義元さんはどうするんですか?」
真意を確かめなくては、泰朝や元信からの信頼が失墜しかねないぞ。二人が離れれば今川家は崩れさる。今川家を盛り立てて現代で裕福になるならば、今川家が滅亡すれば俺の存在が消えかねない。それだけは勘弁してほしい。
「
なるほど、尾張への進軍と同盟の強化。理にかなっている。しかし、一万の兵で信長と斎藤家を制圧できるか、怪しいぞ。まさか、信長たちを甘く見ているのでは?
「健、そう心配するな。万事うまくいく」
義元はにこやかに、自信を持った表情だ。戦略家の彼だから、信じてみるか。
「それでは、元信よ。早速、尾張に進軍せよ。ただし、この封書通りに動いて欲しい。封を開けるのは、尾張との国境に着いた時だ」
「封書……?」
元信は困惑しながらも受け取った。
開けるタイミングが重要に違いないが、ここまで策を巡らせる必要はあるのか?
「健には会談に着いてきてもらう。未来人としての知識が活きるに違いない。さて、今川家の繁栄をかけて行動の時だ!」
この時、俺は思いもしなかった。今後の歴史を変える大きな分岐点に立ち会っていることに。