俺は現代に戻るとすぐに店長に聞いた。「今川義元は信長を負かした偉大な武将ですよね」と。
「お前、何言ってるんだ? うつけの信長を倒しただけだろ?」
どうやら、信長に勝っても負けても、義元の評価は変わらないらしい。くそ、本当の義元像を知っていれば、そんな評価にはならないのに!
「そういえば、この前ゼリー飲料を爆買いしていたが、何かあったのか?」
まずい、何か理由が必要だ。
「えーと、友人が野球で対抗戦に出場したんですよ。その差し入れです」
なおも疑いの目で見てくるが、追及はなかった。商品が売れれば問題ないのだろう。
しかし、義元を盛り立てるのも大変だ。先行投資でお小遣いが尽きかねない。こそっと財布を見ると、見たこともない量のお札が入っていた。どうやら、過去を変えたことで、うちも裕福になったらしい。
「さて、次に持っていくのは、これで決まりだな」
消毒液。これがあれば、兵士たちの死亡率を下げられる。ゼリー飲料と違って、戦国時代でも簡易版を作れるだろう。財布を痛ませずに済む。
「義元さん、戻りました」
戦国時代に来たのに「戻りました」は変かもしれないが、第二の故郷になりつつあるのだから問題あるまい。
「それで、どうですか? 桶狭間の戦いの後は」
「順調だ。周りの武将は我が国へ攻め入るのを諦めたらしい。小者とはいえ、三段構えの戦法が効いているらしい」
よかった。他の武将にも「義元は戦略家だ」というイメージが根付けば、簡単に手を出してはこないだろう。その間に、領土を拡大できる。
「殿、次はどういたしますか? 上杉と戦っている武田を叩くという手もあります」
泰朝はこほん、と咳をすると「元信はまだ若いな」とやんわりと叱責する。
「我らは三国同盟を結んでいる」
「三国同盟?」
俺にはさっぱり分からない。
「今川と武田、北条で同盟を結んでいる。もし、同盟を
なるほど、実利よりも名誉を優先するのか。戦国時代らしい考えだ。
「そうなると、しばらくは領民のために尽くすことになりますな」
義元は満足そうに笑みを浮かべている。
戦ばかりがすべてではない。領民の支持がなければ、年貢を納めなくなるかもしれない。民が潤えば徐々に戦力も上がる。「急がば回れ」だ。
「殿! 一大事でございます!」
「どうした、そんなに慌てて」
「の、信長が裏切って、美濃の斎藤と手を組みました!」
歴史は繰り返す。たとえ信長に勝っても、斎藤家と手を組むという歴史は変わらないのか。これが、修正の力というやつか。
「ほう、それは面白い。しかし、予想の範囲内だ」
義元は余裕そうだが、大丈夫なのか?
「しかし……」
「問題ない、時が解決する」
俺は思い出した。信長との密談後の義元の不気味な顔を。