目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
レジ打ち義元伝〜コンビニ商品で戦国無双〜
レジ打ち義元伝〜コンビニ商品で戦国無双〜
雨宮徹
歴史・時代戦国
2025年04月16日
公開日
2.1万字
連載中
主人公の健は今川義元の子孫。だが、貧乏学生としてコンビニでレジ打ちをする日々。 「お前、あの間抜け武将の子孫だろ?」とバカにされ続ける毎日。 「今川義元は、間抜けじゃない……!」 その想いが、戦国時代への扉を開く。 レジで通した物資だけを頼りに、今川義元を天下統一へ導け!

第1話 今川義元は間抜けじゃない

「お前、今川義元の子孫なんだろ? あの間抜け武将の。息子から聞いたぞ」


 酔っ払いが絡んでくる。手に持つのは缶ビール。まだ飲むつもりか……。


 それはいい。ただし、先祖である今川義元をバカにするのは許さない。いや、許してはならない。


「……。義元は間抜けじゃない!」


「へえ、面白いこと言うなぁ」


 これ以上、酔っ払いに付き合っても無駄だ。さっさと店を出てもらおう。


「お客様、成人であることを確認しますので、身分証明書をご提示ください」


 落ち着け、冷静になれ。


「おいおい、見りゃ分かるだろう? 年齢確認が必要なら、桶狭間の戦いで義元が死んだ年でもいれておけ。もし、分かればだけどな。ガハハ」


 こいつ、俺が知らないと思っているのか? テンキーを素早く叩く。「1560」。あとは、レジを通すだけ。バーコードを読み取ると――ビールが消えた。え、消えた?


「お前、何をした? 手品を見に来たんじゃないぞ!」


 そう言われても、何が何だか分からない以上、平謝りするしかない。


「申し訳ございません……」


「それで、いいんだよ。頭を下げるのが相応しいんだ」


 それだけ言うと酔っ払いは満足げに立ち去っていく。


「~♪~~♬~~♪」


 自動ドアが客の出入りを告げる音楽が流れる。


 ビールが消えた。それは、紛れもない事実だ。では、どこへ行ったのか。そして、何が起きたのか。


 何が起きたのか分からなくては今後の業務に支障が出る。もし、また同じことが起きれば、店に一銭も入らないのに商品が消えるという事態になりかねない。ここをクビになるわけにはいかない。


「ひとまず、レジを通すか」


 近くの棚にあったおつまみのバーコード読み取る。しかし、何も起きない。


「あれは、幻だったのか……?」


 あの時は、テンキーを押してからレジを通した。テンキーが鍵なのか? それとも、今川義元のことを考えることか?


「1560と」


 ピッ。


 目の前からおつまみが消えた。消えた!? これは、ビールの時と同じだ。そして――俺の前からレジが消えた。代わりに現れたのは家紋だった。それも、うちの一族の。


「お主、何者だ!」


 まげを結い、和服を着た人物。そこには我が家の家紋が描かれている。どこかで見た覚えがある。


「あなたこそ誰ですか? 人に名前を聞くなら、先に自分から名乗るべきでは?」


 至極当然のことを言った。が、目の前にきらりと輝くもの――刀が振り下ろされた。命を刈り取るに相応しい刃先が。


「まさか、殿を知らぬのか!? いきなり現れたお前はどこかの間者か?」


元信もとのぶ、斬り捨ててしまえ」


「おう、もちろんよ」


 死にたくない! まだ、やり残したことがある。そうだ、これは悪夢だ。そうに違いない!


「待て!」


 殿と呼ばれた人物がストップをかける。


「そやつ、今川家の家紋をつけているぞ」


 ああ、そういえば胸に家紋のついたピンバッジをつけていたな。戦国時代マニアだからではない。


「これは今川家の一族であることの証です。そして――俺が唯一誇れることだ!」


「この怪しげな服の若者が、義元様の一族?」「間者の言い訳に違いない」「今川家の家紋をつけるとは、殿を愚弄する気か!」


「違う!」


 和室にピりついた空気が漂う。


「もし、これを外せと言われても外しはしない。誇りを捨てることだけは決してしない!」


 いくら先祖が間抜けだとバカにされようと、それだけはしない。


「……面白い。実に興味深いぞ、


 未来人だとバレている!? どうしてだ? そうか、こんな服装を見れば一目瞭然か。義元のような人物が、過去にこんな服はないことを知っていて当然。それならば、未来人だという結論を出してもおかしくない。この数分で、そこまでたどり着くのだから間抜けではない。後世の人間が勝手に作り上げた義元像なんだ。


「すべてお見通しですか。では、一つ申し上げます。あなたは、桶狭間での戦で命を落とします。織田信長の手によって」


「尾張のうつけに負ける? 殿が?」


 元信と呼ばれた武将は愕然としている。当然だ、主君の死は部下にとって一大事なのだから。


泰朝やすとも、どうする? 出陣を取りやめるか?」


「それも選択肢の一つだが、それでは士気が下がるのは間違いない」


 岡部おかべ元信もとのぶ朝比奈あさひな泰朝やすともか。


「二人とも、悩む必要はない。未来人よ、お前が何とかせよ」


 何とかしろ!? いや、一市民ができることは限られている。桶狭間で命を落とすという知識しかない。もし、現代の兵器が使えれば。たとえば戦車があれば、間違いなく勝てる。戦車とはいかなくても、何かあれば……。現代に戻れさえすれば。そう現代に……。


 次の瞬間、周りがぐにゃぐにゃと歪みだす。これは、現代に戻る予兆か?


「そういえば、名前を聞いていなかったな」


「俺はたける。今川健だ!」


「では、頼んだぞ。健よ」


 もちろんだ。今川義元を盛り立てて天下統一に導いてみせる。そして、「間抜け」というイメージを覆す。彼のためにも。そして、自分のためにも。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?