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第2話 解き明かされた古文書

 夏の終わりの午後、大学の考古学部の薄暗い研究室で、私は長いテーブルに広げられた褪せた羊皮紙を見つめていた。前日、早瀬教授から突然の電話があり、

「重大な発見だ。すぐに来てほしい」と言われたのだ。


「これを見てください」

と早瀬教授は、白い手袋をはめた手で古文書の端をそっと持ち上げた。彼の顔には昨晩から眠っていないことを示す疲労の色が浮かんでいた。

「私のキャリアの中で最も重要な発見かもしれない。しかし...解読するには二人の目が必要だ」


古文書は奇妙な文字で埋め尽くされ、所々に謎めいた図形が描かれていた。エジプトのヒエログリフにも似ているが、明らかに異なる文字体系だった。


「どこで見つけたのですか?」

と私は尋ねた。


教授はため息をついた。

「南米のある洞窟内部だ。現地の案内人たちは、その場所に近づくことすら拒んでいた。『悪魔の住処』と呼んでいたよ」


「いつ頃の文書だと?」


「初期の炭素年代測定では約9000年前。文明の記録よりはるかに古い」

彼の声には不安と興奮が混じっていた。


数時間が過ぎ、私たちは文書の解読に少しずつ進展を見せていた。パターンを見つけ、単語らしきものを特定し始めていた。しかし、文書の内容が明らかになるにつれ、私の背筋に冷たいものが走った。


「これは...儀式の記録ではないでしょうか」

と私は呟いた。


教授は顔を上げた。

「そう見える。だが、どんな儀式だろうか?」


夕暮れが窓から差し込む頃、私たちは文書のほぼ半分を解読していた。


「教授、これは人身御供の記録です」

私は震える声で言った。

「でも、単なる儀式ではない。何かを...封印するための」


早瀬教授の表情が硬くなった。

「続けてくれ」


「ここには、『天から落ちてきた者たち』について書かれています。彼らは『星の間から来た』と...そして人々は彼らを神として崇めた。しかし...」

私は次の部分を読み進めながら息を飲んだ。


「しかし何だ?」

教授は身を乗り出した。


「しかし彼らは神ではなかった。彼らは人間の姿を借りたが、その内側には『言葉にできないもの』が潜んでいた。そして彼らは『眠りにつく』前に、将来のために『道しるべ』を残したと」


「眠りにつく?封印された?」

教授は眉をひそめた。


「はい。文書によれば、彼らは自ら封印されることを望んだようです。特定の星の配列が整うまで。そして...」

私は次の段落を指さした。

「教授、この図は星座の配置を示しています。天文学者に見せれば、この配置がいつ起こるのか特定できるかもしれません」


「すぐに手配しよう」

教授は立ち上がり、電話に手を伸ばした。


その夜遅く、大学の天文学部の山下博士が私たちの研究室に駆けつけた。彼は古文書の星図を見るなり、顔色を失った。


「これは...」

彼は計算を始め、すぐに結果を出した。

「この星の配置は、来月の満月の夜に起こります」


一瞬の沈黙が部屋を支配した。


「文書には他に何が書かれている?」

早瀬教授が尋ねた。


私は残りの部分を読み進めた。そして最後の段落に辿り着いたとき、私の手は震えていた。


「彼らが目覚める時、世界は変わる。人間は再び彼らに仕える。地上に新たな秩序が生まれる」

私は声を絞り出した。

「そして最後に...『彼らの封印がある場所を探す者に警告する。目覚めの儀式は既に始まっている』」


「どういう意味だ?」

山下博士が尋ねた。


早瀬教授は窓際に立ち、暗い夜空を見上げていた。彼はゆっくりと振り返り、その顔には私が見たことのない恐怖の色が浮かんでいた。


「意味は明白だ」

彼は低い声で言った。

「私たちが発見した洞窟...あれは単なる洞窟ではない。彼らの封印された場所だ。そして私たちは...」


「私たちは封印を解いてしまったのですか?」

私は恐る恐る尋ねた。


「そうかもしれない」

教授はため息をついた。

「私が洞窟で見つけたのはこの文書だけではない。奇妙な石版も持ち帰った。今朝から...動き始めているんだ」


「動いている?石が?」


「振動しているんだ。そして熱を帯びている」教授は研究室の奥にある金庫を指さした。

「中に保管してある」


私たちが金庫に近づいたとき、部屋の電気が一瞬ちらついた。そして、金庫の中から微かな唸り声のような音が聞こえた。


「開けるべきではないかもしれない」

モリソン博士が囁いた。


ディアス教授は私の目を見つめた。

「どうする?私たちには選択肢がある。この発見を封印し直すか、それとも...」


「それとも?」


「それとも彼らが何を望んでいるのか、直接確かめるか」

教授の目には決意の色が宿っていた。


金庫からの唸り声は次第に大きくなり、部屋の空気が重くなっていくのを感じた。私たちの前には、人類の歴史を永遠に変えうる選択が横たわっていた。

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