「……ここが、新しくできたダンジョンか。」
目の前に広がるのは、黒々とした石造りの入り口。
ひんやりとした空気が漏れ出し、まるで中へ入る者を誘い込むかのような雰囲気を醸し出している。
「ええ、最近発見されたばかりでまだダンジョン自体そこまで成長していないと思われてるみたいよ。」
俺たちは魔法都市ゼラストラの冒険者ギルドの職員だ。
魔法都市ゼラストラは魔法研究の中心地であり、地方から魔法を学ぶために人が集まる活気のある都市だ。
新たに発生したダンジョンは、最寄りの都市のギルドが責任を持って管理する。
危険なものであると同時に、国にとって重要な資源でもあるからだ。
──とはいえ、ダンジョンの発生メカニズムは未だ解明されていない。
いつ、どこで、なぜ出現するのか、誰にも分からない。
ただ一つ分かっているのは──
ダンジョンは、時間が経つほど
一説によると、内部で死んだ人間を吸収して成長するとも言われている。
そして、ダンジョンの中には魔物、宝箱、希少な鉱石など、人間を惹きつけるものが溢れている。
まるで、人間を誘い込むための"餌"のように……。
「生まれたばかりのダンジョンとはいえ、中に入った二組の冒険者パーティーが帰ってきていない。細心の注意を払って進むべきだ。」
「それもそうね。でも、大丈夫。私たちなら、よっぽどのことがない限り帰れるわよ。」
──そのよっぽどのことが起きるかもしれないのがダンジョンなのだが。
俺たち二人は、もともとソロの冒険者として活動していた。
ランクはB級まで上がり、経験もそれなりに積んできた。
──だが、上位の冒険者というのは、どいつもこいつも常識がない奴ばかりだ。
無鉄砲、自己中心的、あるいは金に目がくらんだ連中。
そんな中、俺たちは比較的品行方正だった。
そのおかげでギルド長に目をかけられ、職員としての道を選んだ。
「それじゃあ、早速入るか。」
「ふふっ、いつでもダンジョンに入る瞬間ってワクワクするわね!」
「はぁ……あまり羽目を外すなよ。これは仕事なんだぞ。」
ウキウキとした様子で先に進む同僚の姿を横目に、俺は門番にダンジョン入場の手続きをする。
──二組の冒険者パーティーが行方不明になったダンジョン。
嫌な予感がする。
……だが、これも仕事だ。
やるしかない。
──俺たちは、細心の注意を払いながら未知のダンジョンへと足を踏み入れた。
ダンジョンの中に足を踏み入れると、そこには広大な草原が広がっていた。
「……やっぱり、ダンジョンって不思議なものだな。」
外から見たダンジョンの門は、せいぜい数メートル程度の大きさだった。
それなのに、中には想像もつかないほど広大な空間が広がっている。
──まるで、別世界にでも飛び込んだような気分だ。
「早速モンスターのお出ましね!」
前方に、小柄な影が7体、こちらに向かってきていた。
「おい、これはダンジョンの調査なんだから、好き勝手していいわけじゃないぞ。」
「分かってるわよ♪ ちょっと遊ぶだけよ!」
──現れたのは、ゴブリンだ。子供くらいの背丈に緑色の肌、顔はとても醜悪で口にはニヤニヤとした薄ら笑いが浮かんでいる。
ゴブリンは世界各地に広く生息している最もメジャーなモンスターだ。
単体の力は弱いが、知恵を持ち、群れると厄介な相手になる。
だが、単体であれば成人男性でも簡単に倒せるため、危険度はE級に分類されている。
──今回現れたのは7体。
しかし、この程度ならルミナ一人で瞬殺だろう。
ルミナの得意技、それは"魔法剣技"。
魔法剣技とは、剣に魔力を纏わせ、威力を飛躍的に向上させる技術だ。
魔法と違い、術式を必要とせず、発動に時間がかからない。
しかし、魔法の適性と剣の才能、両方を兼ね備えていなければ使いこなせない。そのため、使える者は限られている。
「ゴブリン程度が7匹とは……舐められたものね。斬り裂いてあげるわ。」
そういいながら好戦的な笑みを浮かべ、腰に下げている直剣を鞘から引き抜いた。
ルミナが動いた瞬間──
ゴブリンたちが、彼女を取り囲むように動き出す。
だが、そんなものお構いなし。
──ルミナは一瞬でゴブリンとの距離を詰めた。
ゴブリンの視点では、ルミナが目の前から消えたように見えただろう。
──ザシュッ!!
一撃で首を刎ねる。
そこから、止まることなく流れるように動き、次々とゴブリンを斬り伏せていく。
「……相変わらず、見事な剣さばきだな。」
普段はだらしないルミナだが、腐っても元B級冒険者。
戦いになれば、これほど頼もしい存在はいない。
気づいた頃には、地面には胴体と首が綺麗に分かれたゴブリンの死体が転がっていた。
「……腕はなまってないみたいだな。」
「当たり前よ。毎日ギルド長の目を盗んで鍛えてるんだから。」
「……なるほどな。」
──こいつ、普段から仕事をサボって鍛錬してたのか。
帰ったらギルド長にチクってやろう。
「やはり第一階層はE級のモンスターばかりだな。」
「そうね。さっきからゴブリンにスケルトン、スライムばかり……正直、飽きてきたわ。」
第一階層は違和感を感じることや強力なモンスターが出現することもなく、ほぼ消化試合だった。
「……次の階層に進むか。」
ダンジョンの進み方は基本的に、探索しながら次の階層へと続く階段を探すことになる。
俺たちは階段を下り、次の階層へと進んでいった──。