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第6話 魔法も剣術も鍛錬あるのみ

『熟練度が一定に達しました。【魔力操作Lv4】が【魔力操作Lv5】になりました。』


 ──あれから、何時間経っただろうか?  


 魔力を循環し続けた結果、魔力操作のレベルが5に到達した。


 おかげで、最初に比べて一度に扱える魔力量や循環速度が格段に向上している。


 ただ、レベルが上がるほど必要な熟練度も増えているようだ。  

 これでもかなりの時間を費やした。本来なら、もっと時間がかかるはず。 ──だが、この部屋にいる限り、空腹や眠気を感じることはない。思う存分、魔法に打ち込めるってことだ。ダンジョンボスが餓死するなんてありえないもんな。  


「……本当に素晴らしい部屋だ。」 



 魔法書によれば、魔力操作のレベルが5に達したら、次の段階へ進めるらしい。  


 つまり、魔法の実践だ。  


 まずは、魔法発動の手順を再確認しよう。  


 1. 魔力を循環させる  

 2. 発動したい魔法の術式を構築する 

 3. 規定量の魔力を流し込む  

 4. 魔法言語を用いて世界に語りかけ、魔法を発動させる 


 ──これが、魔法発動の流れらしい。  


 術式の構築については、魔法書に記された術式を暗記し、それを宙に描くとのこと。  


「なんかファンタジーな方法だな……!」  


 だが、ある程度使用すると熟練度が上がり、スキルとして獲得できる。

 スキルを取得すれば、術式の構築は自動で行われるようになるらしい。  


「さてと……どの魔法から試してみるか?」  


 手元にある魔法書は、火、風、水、土、雷の5種類。  

 まずは、王道の火から試してみるか。


魔法書火系統グリモア・イグニス】を開くと、最初に載っていたのは──  


『炎初級魔法―――――炎球』  


「やっぱり、炎魔法の基本は炎球だよな!」


 それと、これが術式か……。  


 線と線が幾何学的に組み合わさり、円形のフォルムを作り出している。  

 バーコードのように、この形の違いで発動する魔法が変わるのだろう。  



「よし……やってみるか。」  


 ──心が高鳴る。前世では30歳まで童貞を守らないと使えないと言い伝えられていた魔法が使えるのだ。ワクワクしないほうがおかしい。  


 魔法書の術式を見よう見まねで宙に描き出していく。 


 ……これが、結構難しい。  


 感覚的には──  


「小学校の頃流行った、あの円を使った図柄描きと同じだ……!」  


 ──円の中に小さな円を組み合わせ、空いた穴に鉛筆を差し込んで回転させながら模様を作る、あれだ。  


 ただし、今回は補助器具なしで、一本の鉛筆だけで描くようなもの。 


 数分後──ようやく術式が完成した。  


「……っはぁ、慣れてないとはいえ、これじゃ先が思いやられるな。」  


 次に、術式へ魔力を流し込む。  


 すると、術式を通過した魔力が火へと変化し、球を形作っていく。  


 ──そして、魔法言語を唱えた。  


『炎初級魔法―――――炎球』  


 炎球が生成され、俺の掌から扉へ向かって発射される。  


 ──ズバァァンッ!!  


 炎球は減速することなく扉へ直撃し、燃え上がる。  


 その瞬間、強烈な熱が部屋に充満した。  


「すげぇ……!」 


 火が圧縮され、球状に保たれたことで、前世の火炎放射器よりも威力がありそうだ。  


 ──これが、魔法の力か。




 ―――――――――――――――――――




『熟練度が一定に達しました。【水初級魔法Lv1】を獲得しました。』  


 ──これで、全属性の初級魔法をLv1ずつ習得することができた。  


 どうやら、スキルを獲得するまでにかかった時間で、その人の魔法適性が分かるらしい。  


 俺の場合、適性が高い順に──  

 火 → 雷 → 風 → 土 → 水だった。 


 火や雷の魔法は2、3回で習得できたのに対し、水魔法は何十回も練習が必要だった。  


 ──となると、得意な火や雷を優先して鍛えるのが得策だな。  


 とはいえ、今の魔法のレベルでは発動が遅すぎる。  

 実戦で使えるレベルとは言い難い。  


 なので、剣術の鍛錬も並行して進めるべきだろう。 



 ──だが、問題はどうやって剣術のレベルを上げるかだ。  


 今俺が持っているスキルは──  


【小鬼王剣術 Lv1】


 これは専用スキル、つまり俺の種族特有の剣術なのだろう。だったら、一般的な剣術書を読んでも意味がない。人間の剣術と根本的に異なるものなら、参考にならない可能性が高い。  


 ──どうしたものか?  


「……とりあえず、それっぽい動きをしてみるか。」


 直感的に、体がどう動くのか試してみれば、何か掴めるかもしれない。 



 ──剣を握りしめ、ゆっくりと構える。  


「……それっぽい動き、と言ってもな。」  


 剣術の知識は皆無だが、実際に動いてみれば、何か掴めるかもしれない。  


 試しに、大剣を振り下ろしてみる──  


 ズバァッ!!  


「……おお?」  


 思ったよりもスムーズに動いた。  

 いや、それどころか──体が勝手に動いたような感覚すらある。  


 試しに、踏み込んで横薙ぎに振ってみる。  


 ゴォンッ!! 


 空気が切り裂かれ、剣が唸りを上げる。  

 その重さを感じさせない鋭い軌道に、自分でも驚いた。  


「……なるほど、これは小鬼王剣術の補正か?」  


 確かに、剣術の経験はない。だが、まるで体に刻み込まれているかのように動ける。  


 専用スキルだからこそ、俺の体に最適化された動きが備わっているのだろう。  


「よし、もう少し試してみるか。」  


 何度も構えを変えながら、攻撃の軌道を試していく。  

 すると、あることに気づいた。  


「……ん? なんか、この動き、妙にしっくりくるな。」  


 ただ闇雲に振っていたつもりが、ある特定の動きをすると、妙にしっくりくる感覚がある。  


 ──試しに、それに従って動いてみる。  


 大剣を肩に担ぐように構え、斜めに踏み込んでから一気に振り下ろす。  

 そのまま体を回転させながら、横薙ぎに追撃。  


「……おお、すげぇ……!」  


 まるで技の流れが組み込まれているような感覚だ。  


 俺はこの剣術の使い方を、無意識のうちに知っている……?  


 ──その時。  


『熟練度が一定に達しました。【小鬼王剣術 Lv1】が【小鬼王剣術Lv2】になりました。』  


「……やっぱり、そういうことか。」  


 剣を振るうたびに、この剣術の動きが体に馴染んでいく。  

 まるで、戦うたびに"思い出していく" かのように。  


 つまり、俺の中に眠る【小鬼王剣術】の真価は、まだ完全には引き出せていない。  


「なら、やることは一つだな。」  


 ──もっと剣を振るい、この力を完全にモノにする。  


 そうして、俺はひたすらに剣を振り続けた。

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