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第5話 ボス部屋の隠された仕様

──鍛錬しようにも、何から始めるべきか?


 とりあえず、剣でも振ってみるか?  

 いや、闇雲に振ってもスキルのレベルが上がるとは思えない。 


 だとすれば、魔法のほうを鍛えるべきか……? 


 ──いや、そもそも魔法の鍛錬の仕方が分からない。発動方法すら知らないのに、どうやって鍛えればいい?  


 何か手がかりになるものはないか……?  


「……そういえば、冒険者がマジックバックを落としていったはずだ。」  


 あの中に、何か魔法の手がかりがあるかもしれない。  


 ──そうと決まれば、早速探してみるか。  



「確か、宝物庫の中に──……あった、これだ。」 


 さっき、中身を軽く探った時に、見た目以上の容量があると感じた。  

 やはり、マジックバックの内部はかなり広いようだ。  


 中を漁ると──  


「……うわ、めちゃくちゃ雑に詰め込まれてるな。」  


 どうやら、持ち主は片付けが苦手だったらしい。  


 十数本の小瓶、何やら粉の入った袋、そして何冊もの本。所狭に詰め込まれている。  


 ──小瓶や袋の用途は分からないから、とりあえず本を確認するか。  



 - 【魔法書初級グリモア・ウノ】 

 - 【魔法書火系統グリモア・イグニス】 

 - 【魔法書風系統グリモア・ヴェントゥス】  

 - 【魔法書水系統グリモア・アクア

 - 【魔法書土系統グリモア・フムス】  

 - 【魔法書雷系統グリモア・トニトルス】  


「……これだ。」  


 やはり、魔法使いが持っていたマジックバックなだけあって、魔法に関する本が多い。  


 これで、魔法の鍛錬ができる。  


 ──まずは、【魔法書初級グリモア・ウノ】から始めるのがいいだろう。 


 使い古されて傷んでいる本を慎重に開く。



「なになに……?」  


『魔法とは、魔力を媒介として魔法言語を用いることで、この世界の法則を書き換える術である。』


 ふむ……。  

 つまり、魔法は魔力を使って世界のルールを書き換える技術ってことか。  


『魔法を使えるかどうかは、その人の適性に関連しており、大前提として魔法言語が読める必要がある。』


 ──なるほど。  


 そもそも魔法言語が読めないと、魔法を扱うことすらできないというわけか。  


『ここから先は、魔法言語マギアリグアを用いて記述していく。読めない者はここで諦めるべし。』 


「……へぇ?」  


 何気なくページをめくると──  


 ……普通に読める。  


「ってことは、俺……魔法の適性があるのか?」  


 そういえば、さっきの戦闘を思い出すと、相手の会話は理解できなかったが、魔法を発動する時の詠唱だけは聞き取れた。  


「……なるほど、あの時魔法言語が理解できたのは、俺に魔法の適性があったからか。」 



「よし、そうと分かれば、早速魔法を使えるように練習するか!」  


 ──ここまでの展開は、まさにラノベそのものだ。  

 実は俺、ちょっとだけ……いや、かなり厨二病を引きずってる。むしろ、ラノベ好きな分、人より進行してる自信すらある。  


 今まで、この訳の分からない世界に飛ばされて沈み気味だったが……  


 なんだか、ワクワクしてきた。 




『魔法を使うには、まず自分の体の中の魔力を感じる必要がある。』  


 ──ふむ。  


 魔力を感じる手っ取り早い方法として、「この本に封じ込められている魔法を体に循環させる」といいらしい。  


 書かれている術式に手を置くと……  


「おぉ……!?」  


 ──体中を温かいものが流れる感覚がした。 


 まるで、寒い日に温かい飲み物を飲んだような感覚だ。手を置いた場所から魔力が体の中を巡っていき、やがて──  


 心臓のあたりに辿り着く。  


「……っ!」  


 そこからさらに魔力が噴き出し、ページを辿って循環し始める。  


「なるほど……これが魔力か。」  


 ──ページから流れてくる魔力に、自分の魔力を重ねることで、体の中から魔力を引き出せるようになるらしい。  


 この感覚を掴めば、魔力を自由自在に引き出せるようになるはずだ。 


 それから魔法を発動するには魔力を引き出し練り上げ、その後術式に流し込む必要があるらしい。


 どうやら、術式は別の本に載っているらしい。  


 一緒にあった属性ごとに分かれている本だろう。そっちも気になるがとりあえずこの本を読み切ることにする。  



「ふむふむ……」


『魔力は、一度に放出できる量に限りがある。』  


 ──まあ、それは当然か。  

 だが、鍛錬を積めば、その量を増やすことができるとある。  


 しかし、それでも大規模な魔法を発動するには足りない。  

 だから、何度も魔力を循環させ、練り上げる必要があるらしい。  


「なるほど……魔力の練度によって、使える魔法の規模が決まるのか。」


 だとすれば、まずは魔力を循環させる練習から始めるべきだな。  



 ページをめくると、魔力を扱う際の注意点が記されていた。  


『いきなり大きな魔力を練り上げようとすると、暴発する危険がある。』  


 ──おいおい、それはヤバいな。  

 確かに、いきなり大魔法を使おうとして暴発したら、下手すれば自爆しかねない。  


『さらに、体内の魔力には限りがあり、枯渇するとひどい吐き気や酩酊感に襲われる。普通の人は一日に1時間も連続で魔力を使えばすぐ枯渇する。』


 ……なるほど、魔力切れすると体調が悪くなるってわけか。  


 しかも、魔力を循環させるだけでも微量の魔力が外に流れ出てしまうらしい。  

 だから、1日に何回も練習できるわけではないと。  


「へぇ〜、でも……」 


 ──俺、さっきから何回も魔力を練り上げては外に放出してるけど、  


 全然減ってる気がしない。  


「なぜだ?」  


 自分の中に、とてつもない魔力量を感じるわけでもない。  


 だが、どれだけ使っても……すぐに回復している。  


「……いや、待てよ?」  


 これは、この部屋の仕様なのか?  


 ダンジョンボスは、常に万全の状態で挑戦者と戦うものだ。 


 ゲームでも、ダンジョンボスは毎回体力・魔力が満タンになっていた。  

 もし、この部屋のシステムがそうなっているなら……  


「どれだけ使っても、魔力が減るわけがない……!」 


 ──これ、とんでもないアドバンテージじゃないか?  



 この本によると、魔法の鍛錬は魔力の消費が激しいため、長時間続けることが難しいらしい。それに加え、筋トレと同じで使えば使うほど魔力は増えるが、限界まで追い込めば数日寝込んでしまうこともあるらしい。


 だが──  


 俺は、魔力をどれだけ使っても枯渇しない。 

 つまり、外の魔法使いの何倍もの速度で成長できる……!  


 ──その瞬間、頭の中に声が響いた。  


『熟練度が一定に達しました。【魔力操作 Lv1】 を獲得しました。』  


「……!」 


 ──俺の考えを肯定するかのように、スキル獲得の通知が入った。 

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