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第4話 ステータスってなんだかワクワクするよね

──やっと、倒し切った。


 辛勝、といったところか。  


 酷い有様だ。

 半分程ちぎれていた腕は魔法によって吹き飛び、体は炎によって炭化している。

 このままでは、次に来る冒険者に対抗するのは難しい。  


 ……今後も戦いが続くことを考えると、何か対策が必要だ。  


「はぁ……」  


 そんなことを考えていると──  


 頭の中に、何か声が響いた。 


『敵を倒しました。経験値が得られます。  

 経験値が一定に達しました。レベルが5アップしました。

 ダンジョンボスとしての仕事を完了しました。 報酬としてスキルを得ることができます。  

 体に損傷が見られます。損傷した部位の修復に入ります。』


「おおおおお!? なんか重要な情報が流れてきたぞ!!」  


 ──まず、敵を倒したことで経験値が得られるらしい。  

 ゲームのような仕組みか?  


 それによってレベルが上がったと。  


 さらに、ダンジョンボスとしての仕事を完了したことで、報酬としてスキルが得られる。  


 スキル、か……。  


 情報を整理していると──  


 突然、体が発光し始めた。 


「お、おい……!?」  


 光が収まる頃には──  


 ──俺の体は完全に修復されていた。  


 右腕も元通りに生えている。  


「す、すげぇ……!」  


 これはヤバい。  

 どれだけ怪我をしても、次の戦いに響かない。 


 ……いや、考えてみれば当然か。  


 ダンジョンボスが、瀕死の状態で次の挑戦者と戦うわけないもんな。


「……それにしても、本当にゲームみたいな世界だな。」  


 こんなRPGみたいなシステムが実在することに違和感はある。  

 ……が、今さらそんなことを考えても仕方がない。  


 モンスターがいて、魔法やスキルがある世界なんだ。  

 だったら、受け入れるしかない。受け入れて生き抜くために強くなるしかない。 


 まずは現状を把握することが最優先だ。  


 俺は一体、何者なのか?  

 どの程度の力があるのか?  


 自分の力を把握しきれないと強くなるにも何から始めればいいか分からない。


 だいたい、こういう時は「ステータス」があるのが普通だが……  

 どうやったら見れるんだ?  


 試しに、「ステータスオープン」と唱えてみる。  


 ──すると、頭の中に情報が流れ込んできた。  


 ――――――――――――――――――――


『ステータス』  

 種族: ゴブリンキングLv6

 職業: 迷宮守護者ダンジョンボス  


 専用スキル: 小鬼王剣技 Lv1  

        眷属支配  


 汎用スキル: 


 ――――――――――――――――――――  


「なるほどねー、ますますゲームっぽいな。」


 けれどHPやMPなどの表記はないようだ。あったとしてもそれが周りと比べて多いのか少ないのか、はたまたどの程度減っていくのか分からないから使い道もないが。


 俺の種族はゴブリンキング。  

 ……まぁ、見た目通りだな。 


 だが、職業が【迷宮守護者ダンジョンボス】ってなんだよ!?  


「ダンジョンボスって、職業だったのかよ」  


 まぁ、いいか。  

 たぶん、さっきの報酬や自動回復は、この職業の特典なのだろう。  


 スキルを確認するか 


 専用スキルは二つ。  


【小鬼王剣技】Lv1  

【眷属支配】 


 小鬼王剣技……  

 たぶん、あの大剣を振るっている時に何かしらの補正が入っていたのだろう。じゃなきゃ、ただの受験期の高校生が転生しただけで剣を使って戦えるわけがない。


 眷属支配は……  

 俺がゴブリンキングだから、格下のゴブリンを支配できるってことか?  


 ……今のところ、周りにゴブリンはいないから、使い道はなさそうだ。  


 そして、汎用スキル。  


 取得可能と書かれていて、文字が光っている。  


 ──これは、さっきの報酬に値するものか?  


「さてさて……何を選ぶか。」 


 ──取得可能なスキルの一覧は表示されないらしい。  


 どうやら、「こんなのが欲しい」と思い浮かべると、それが取得可能かどうかを教えてくれる仕組みのようだ。 



 色々と試してみたが、最終的に選んだのは【万能翻訳バベル】だった。 


 このスキルを選んだ理由は、いくつかある。


 この世界について知るためには、言語の理解が必要不可欠だ。あの冒険者は魔法を使っていたがそれを学ぶにも言語が分からないとどうにもならない。  



 それに、俺はモンスターだから、人間と交流するにしても言葉が通じなければ何もできない。  

    まぁ……そもそも会話が可能かどうかは分からないが、


 とはいえ、現実問題として、俺は「見つかり次第襲われる側」だ。 

    ダンジョンボスとしてこの部屋にいる限り、平和的交渉など不可能だろう。 

    そうなると、生き残るためには鍛えることが不可欠だ。  


 ──スキルを選んだ直後、頭の中に何かが流れ込んできた。  


『汎用スキル【万能翻訳バベル】 を取得しました。』  


 これで、言語の壁はなくなる……はずだ。  





 その後、部屋をいろいろと調べてみた。 


 だが、やはり外へ繋がる扉は一つだけ。  

 そして、俺はそこから出ることができなかった。  


 ──つまり、俺はこの部屋に縛られている。ダンジョンボスとして、この空間から離れられないのだろう。  


 いつかは脱出する。  

 それは確定事項だ。  


 だが、それまでは……  

「おとなしく、ダンジョンボスとしてのお勤めを果たすしかない」ということか。  



 部屋の奥には、宝物庫のような場所があった。  

 中を覗くと──  


 さっきの冒険者たちの武器や防具、そしてマジックバッグらしき鞄が入っていた。  


 なるほど、ここで死んだ冒険者の持ち物は、この宝物庫に蓄積される仕組みらしい。  


 そういえば、戦闘後に頭の中で響いた声に気を取られていたが……  

 いつの間にか冒険者たちの遺体は消えていた。おそらく、彼らはダンジョンに取り込まれたのだろう。


 ──戦闘が終わったというのに、気持ちが落ち着かない。 他のことを考えて気を紛らわせていたが無視できそうだ。 


 確かに、俺は自分が生き残るために戦った。  

 相手が先に襲ってきたのも事実だ。  


 だが、それでも──  


 俺は、人を殺した。  


 その感触が、手に残っている。  

 刃が肉を裂き、骨を断つあの不快な感触が、まだ消えない。 死ぬ間際の絶望や悔しさが滲んだ顔が頭から離れない。 


 ……気持ち的にも、身体的にも、疲れた。  


 このまま、何もせずに寝転がっていたい。  


 だが──  


「また、いつ冒険者が来るか分からない。」  


 今、ここで休んでしまえば、次は俺がやられる側になるかもしれない。もう決めたんだ、自分らしく生きるために強くなるって


 ──鍛錬するなら、今からやるべきだ。 



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