俺たちは熟練の冒険者だ。
幼馴染同士で、そのまま冒険者になった。
今はC級冒険者だが、いつかはA級になりたい、その思いで、日々依頼をこなしている。
今回は依頼ではなく、新しく発見された迷宮の攻略だ。新しい迷宮は調査がされていないので危険が大きいとされるが、新しい迷宮は階層数も少なく強いモンスターもいないので楽に稼ぐことができる。
迷宮の一階層から十階層は広い草原が広がっていて、そこにいるのはゴブリン、スライム、スケルトン系の弱いモンスターばかり。
俺たちはここまで難なく進むことができた。
今まで出てきたモンスターの種類から
だからこそ、俺たちは
だが──
「おい、まだ倒れないのか!? 俺の体力もキツイぞ!」
盾役のサイモンが、疲労困憊の声を上げる。
「分かってる! あと少し待ってくれ!メアリーが大魔法を準備している! 完成するまで耐えるんだ!」
サイモンの負担は限界に近い。
前衛でずっと相手の攻撃を一身に受けているのだから当然だ。
でも、あと少しだ。
魔法さえ完成すれば──
このゴブリンキングは、今まで戦ったモンスターと全く違った。
最初は戸惑っていたようで、簡単に片腕を斬り飛ばせた。
だが、その後すぐに立て直してきた。片腕一本のくせにこちらの攻撃を読んでいるかのように嫌なタイミングで攻撃してくる。ゴブリンキングといえども所詮はモンスター、知能はそこまでないはずだ。
それなのに―――
まただ、ジムの急所攻撃をギリギリで回避してくる。弓の攻撃も、急所だけは避けてまるで効いている様子がない。
それどころか、俺たちの連携の隙を狙って後衛を攻撃しようとしてくるほどだ。
そのせいで、サイモンの負担はさらに増している。
「クソ……俺の剣技は溜めが大きすぎて、前衛を張ってる限り撃てない。」
「そうなると、メアリーの魔法に頼るしかない……! まだか!?」
「……あと少し、待ってください!」
メアリーの方から、魔力の高鳴りを感じる。
──魔法とは、魔力を媒体として、この世界の法則に干渉する技術だ。
魔法言語を理解することで、世界の法則に語りかけることができる。発動できれば戦況を変える大きな一撃になりえる。
「……できました! 下がってください!」
「!! 分かった! 発動は何秒後だ!?」
「30秒後です!」
後方から、肌を焼くような魔力の高まりを感じる。
──さすがメアリーだ。
これほどの魔法は、"大魔法" に分類されるもの。そんな魔法をこの短時間で準備するなんて……!
「よし、引くぞ!!」
「おう!!」
ゴブリンキングがついてこないように思いっきり蹴り飛ばし後ろに大きく下がる。
次の瞬間―――
『炎上級魔法――――――焦土』
メアリーの魔法が発動し、目の前の地面が炎に包まれる。
地面から吹き上がる炎が、空間ごと焼き尽くす──大規模範囲魔法。
これなら、きっと倒したはずだ。
……はずだ、が──。
――――――――――――――――――――
──危ねぇ。マジで死ぬところだった。
体中が炭化している。
痛みがひどいが、なんとか生きている。
──咄嗟に前へ飛び込んだのが功を奏した。
相手の魔法は、味方を巻き込まないように調整されている。
だから、前に出れば魔法の範囲外に逃れることができると考えた。
結果、ギリギリ生き延びた。
目の前の冒険者たちは、大魔法が効かなかったことに呆然としている。
このまま攻め込むのも手だが、俺もダメージが大きすぎる。このまま無策で突っ込むのは危なすぎる。
だから、一旦距離を取る。
魔法使いがいるときに距離を取るのは下策だが、今は別だ。大魔法を使った直後の魔法使いは、今にも倒れそうなほど消耗している。
体中が痛い。だが、その痛みのおかげで冷静になれる。 こんなところで死にたくないという思いで倒れそうになる体に鞭を打つ。
──部屋の奥まで大きく下がると、足元に剣の柄のようなものがあることに気づいた。今まで椅子の影に隠れてよく見えなかったものだ。
この戦いを好転させる鍵になるかもしれない、その思いで引っこ抜くとそこには大剣があった。
片刃剣で、反り返った禍々しい刀身。
吸い込まれそうになるほど不気味に光っている。自分の体と同じ位の長さだが重さは全く感じない。
むしろ──
この大剣から、「力」を感じる。
──これなら、勝てると思わせるほどの力だ。
このまま突っ込んでしまいたくなるが、一旦戦況の整理だ。
俺に致命傷を与えられるのは、両刃剣使いと魔法使いの二人。
だが、魔法使いはしばらく大魔法を撃てない。
となると、脅威は両刃剣使い。
けれど、あいつは盾使いに守られていて攻撃が通りにくい。
だから、狙うのは──別の相手だ。
──よし、方針が決まった。
俺は距離を詰める。
すると、相手も盾使いと両刃剣使いが迎え撃つために突っ込んできた。
両刃剣使いを狙って大剣を振り下ろす。
──が、その間に盾使いが割り込んでくる。
今までと同じ攻防。
だが──
──俺は、大剣を持っている。
今までとは一撃の重さが違う。
「……ッ!?」
盾使いは衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされそうになる。 その隙に両刃剣使いに斬り込む。
──だが、それでも両刃剣使いは強い。俺の大剣をバックステップで避けて斬り込んでくる。
依然として、突破することはできない。
──その時、背後から殺気がした。
──やはり、来たか。
短剣使いが、急所を狙って攻撃してくる。
「だが、何度も同じ手にやられると思うなよ!!」
俺は短剣使いの進路に大剣を滑り込ませる。
──ズバッ!
短剣使いは、頭から両断された。
俺の狙いは、最初からこれだった。
短剣使いは、いつも俺の死角から急所を狙ってくる。だから、出てくるタイミングさえ分かればカウンターが取れる。
──これで、一人。
「KDsKwiUwasQfmb_!!」
「RmmjShdeQBSDedVFiCjB!!」
短剣使いの死に、両刃剣使いが逆上する。
無理やり距離を詰め、大振りの攻撃を繰り出してきた。
……その隙だ。
俺は攻撃をかわし、返す刃で首をはねる。
──これで、二人。
魔法使いが焦り、無理やり魔法を詠唱しようとする。
だが、俺は盾使いに密着し、魔法を放てないようにする。
魔法は強力な分、味方を巻き込む危険がある。だから、簡単に撃つことはできない。
魔法使いがどうすればいいかと一瞬戸惑う。
──その「迷い」が、命取りだ。
俺は一気に盾使いを抜き去り、後衛へ斬りかかる。
──ズバッ!!
まずは魔法使いの首をはねる。
──ズバッ!!
次に、弓使いの首をはねる。
──残るは、一人。
盾使いが、最後の抵抗を見せる。
剣を抜き、飛びかかってくる。
──だが、無駄だ。
俺は、その剣ごと、盾使いを両断した。