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第2話 冒険者って野蛮

「違う! 俺は敵じゃない!!」  


 必死に訴えるが、虚しくも響くことはない。  

 異世界語が理解できないわけではない……はずだが、彼らの発する言葉はまるで暗号のようで、意味をなさない。  


「fTFYR_ZQ-XwwFGPrr_FH!」

「McCWSpWLC--iVtRbb!」 

「TNscTrfBtDMLHusuyZ!!」


 ……ダメだ。  

 通じないどころか、どんどん警戒されていく。  


 手を上げて「降伏する意思がある」ことを示してみるか? いや、それこそ「攻撃の準備」と捉えられる可能性が高い。  


(クソッ……どうすりゃいい!?)  


 焦る俺をよそに、後衛にいた魔法使いが淡々と詠唱を始めた。  

 それに合わせるように、盾を構えた男と両刃剣を持った男が距離を詰めてくる。  


(……マズい。逃げ場がない)  


 どうする?  

 戦うのか? でも相手は5人、こちらは1人。  

 しかも俺は、自分の能力すら把握できていない。  


 それでも……やるしかないのか?  


「BscgLzKfZQSetFephHuT!」


 ──ズバッ!!  


「がぁ!! ぐっ……マジで斬りかかってきやがった……!」


 鋭い閃光が走り、俺の視界が赤く染まる。  


 両刃剣の一撃が俺の体を斬り裂いた。  

 咄嗟に腕を滑り込ませて致命傷は避けたものの、右腕が半分ほど斬り飛ばされてしまった。  


 ビリビリと焼けるような痛みが脳を突き抜ける。  


(……もう、右腕は使い物にならない)  


 血が噴き出し、身体がぐらつく。  

 見苦しく転がるように後ろへ下がりながら、無駄だと知りながらもどうしてこんなことになったのかを考える。  





 ──なぜ俺が、こんな目に遭わなきゃならない? 


 ただ車に轢かれて、気づいたら異世界のダンジョンにいただけなのに──。  


(なんで……こんな目に……!)  


 過去がフラッシュバックする。  


 前世の俺は、ただの弱い人間だった。  

 何の取り柄もなく、ただ「虐げられる側」だった。  


 中学時代、俺はイジメの標的にされた。  

 理由なんてなかった。  

 ただ、そこにいて、そこにいた理由が「気に食わなかった」だけ。  


 誰かに助けを求めたこともある。  

 だけど──  


「気のせいじゃないか?」  

「悪気はないんだろう」  

「お前が気にしすぎなんじゃないか?」  


 そう言われて、終わりだった。  


(……結局、何も変わらない)  


 この世界も、前世と何も変わらない。

 弱い者は、ただ搾取されるだけ。  

 弱い者は、ただ存在するだけで否定される。  


 ──だったら、  


 だったら俺は。  


 俺は、強くなるしかない。  



――――――




(クソが……だったら……)  


 左手に力を込める。  


 右腕は機能しないが、まだ足は動く。  


 ここでただ殴られて終わるわけにはいかない。  

 今度こそ俺は、自分らしく生きるために。  

 自分を誇れるようになるために。  


 決意と共に、前へと踏み出す。  


 その動きを察知したか、左から両刃剣の男が斬りかかってくる。  


(……ギリギリまで引きつける!)  


 ──紙一重。  


 寸でのところで回避し、お返しとばかりに殴りかかる。  


 ガンッ!  


 鈍い衝撃が指先から広がる。  

 しかし──  


 横にいた盾の男が、即座に防いできた。  


「くそっ……想像以上に連携がしっかりしてやがる……!」  


 そして、悪いタイミングで弓使いが矢を放つ。  

 放たれた矢の一本が、背中に深々と刺さった。  


 ……痛みはそこまでないが、これが続けばジリ貧だ。  


(何か仕掛けなければ……!)  




(全員を相手にするのは無理だ。なら──)  


 こういう時の定石は、後衛から潰すこと。  


 弓使いか、魔法使いか。  


(魔法使いからだ)  


 どんな魔法を使うか分からないが、  

 回復魔法なんか持っていたら、せっかく倒してもすぐ立て直される。  


(それだけは避けたい)  


 問題は、どうやって前衛を突破するか。  


 正面突破は危険すぎる。  

 かといって、背を向けて魔法使いに突っ込むのもリスクが高い。  


(……何か突破口を見つけないと)  



 ―――――



 ──10分経過。状況は膠着。


 俺はまだ戦えているが、相手の前衛が徐々に息を荒くしてきている。  


(……消耗戦に持ち込めば、前衛が崩壊するか?)  


 そんな淡い希望が頭をよぎった、その瞬間。  


 ──後方から、強烈な魔力の波動が押し寄せてきた。  


 ゾクリとするほどの威圧感。  

 肌が焼かれるような、強烈な熱量。  


(これは……ヤバい!!)  


「JCpXXyVPQmnhsMuJGMkc!!」


 魔法使いの詠唱が終わると同時に、前衛が一斉に後退する。  


(……マズい!!)  


 視界が歪む。  

 熱気が広がる。  


 次の瞬間──  


『炎上級魔法──《焦土》!!』


 なぜか、その言葉の意味がスッと頭に入ってきた。  

 けれど、理解したところで何の意味もない。  


 ──次の瞬間、この部屋全体が炎に包まれた。  


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