「違う! 俺は敵じゃない!!」
必死に訴えるが、虚しくも響くことはない。
異世界語が理解できないわけではない……はずだが、彼らの発する言葉はまるで暗号のようで、意味をなさない。
「fTFYR_ZQ-XwwFGPrr_FH!」
「McCWSpWLC--iVtRbb!」
「TNscTrfBtDMLHusuyZ!!」
……ダメだ。
通じないどころか、どんどん警戒されていく。
手を上げて「降伏する意思がある」ことを示してみるか? いや、それこそ「攻撃の準備」と捉えられる可能性が高い。
(クソッ……どうすりゃいい!?)
焦る俺をよそに、後衛にいた魔法使いが淡々と詠唱を始めた。
それに合わせるように、盾を構えた男と両刃剣を持った男が距離を詰めてくる。
(……マズい。逃げ場がない)
どうする?
戦うのか? でも相手は5人、こちらは1人。
しかも俺は、自分の能力すら把握できていない。
それでも……やるしかないのか?
「BscgLzKfZQSetFephHuT!」
──ズバッ!!
「がぁ!! ぐっ……マジで斬りかかってきやがった……!」
鋭い閃光が走り、俺の視界が赤く染まる。
両刃剣の一撃が俺の体を斬り裂いた。
咄嗟に腕を滑り込ませて致命傷は避けたものの、右腕が半分ほど斬り飛ばされてしまった。
ビリビリと焼けるような痛みが脳を突き抜ける。
(……もう、右腕は使い物にならない)
血が噴き出し、身体がぐらつく。
見苦しく転がるように後ろへ下がりながら、無駄だと知りながらもどうしてこんなことになったのかを考える。
──なぜ俺が、こんな目に遭わなきゃならない?
ただ車に轢かれて、気づいたら異世界のダンジョンにいただけなのに──。
(なんで……こんな目に……!)
過去がフラッシュバックする。
前世の俺は、ただの弱い人間だった。
何の取り柄もなく、ただ「虐げられる側」だった。
中学時代、俺はイジメの標的にされた。
理由なんてなかった。
ただ、そこにいて、そこにいた理由が「気に食わなかった」だけ。
誰かに助けを求めたこともある。
だけど──
「気のせいじゃないか?」
「悪気はないんだろう」
「お前が気にしすぎなんじゃないか?」
そう言われて、終わりだった。
(……結局、何も変わらない)
この世界も、前世と何も変わらない。
弱い者は、ただ搾取されるだけ。
弱い者は、ただ存在するだけで否定される。
──だったら、
だったら俺は。
俺は、強くなるしかない。
――――――
(クソが……だったら……)
左手に力を込める。
右腕は機能しないが、まだ足は動く。
ここでただ殴られて終わるわけにはいかない。
今度こそ俺は、自分らしく生きるために。
自分を誇れるようになるために。
決意と共に、前へと踏み出す。
その動きを察知したか、左から両刃剣の男が斬りかかってくる。
(……ギリギリまで引きつける!)
──紙一重。
寸でのところで回避し、お返しとばかりに殴りかかる。
ガンッ!
鈍い衝撃が指先から広がる。
しかし──
横にいた盾の男が、即座に防いできた。
「くそっ……想像以上に連携がしっかりしてやがる……!」
そして、悪いタイミングで弓使いが矢を放つ。
放たれた矢の一本が、背中に深々と刺さった。
……痛みはそこまでないが、これが続けばジリ貧だ。
(何か仕掛けなければ……!)
(全員を相手にするのは無理だ。なら──)
こういう時の定石は、後衛から潰すこと。
弓使いか、魔法使いか。
(魔法使いからだ)
どんな魔法を使うか分からないが、
回復魔法なんか持っていたら、せっかく倒してもすぐ立て直される。
(それだけは避けたい)
問題は、どうやって前衛を突破するか。
正面突破は危険すぎる。
かといって、背を向けて魔法使いに突っ込むのもリスクが高い。
(……何か突破口を見つけないと)
―――――
──10分経過。状況は膠着。
俺はまだ戦えているが、相手の前衛が徐々に息を荒くしてきている。
(……消耗戦に持ち込めば、前衛が崩壊するか?)
そんな淡い希望が頭をよぎった、その瞬間。
──後方から、強烈な魔力の波動が押し寄せてきた。
ゾクリとするほどの威圧感。
肌が焼かれるような、強烈な熱量。
(これは……ヤバい!!)
「JCpXXyVPQmnhsMuJGMkc!!」
魔法使いの詠唱が終わると同時に、前衛が一斉に後退する。
(……マズい!!)
視界が歪む。
熱気が広がる。
次の瞬間──
『炎上級魔法──《焦土》!!』
なぜか、その言葉の意味がスッと頭に入ってきた。
けれど、理解したところで何の意味もない。
──次の瞬間、この部屋全体が炎に包まれた。