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11 男友達と名前と


ある日のこと。

前の席の男子が話しかけてきた。


「なぁ、平岡!平岡って部活してんの?」


と話しかけてきたのは、バスケ部でイケメンで背の高い、宝条ほうじょう 隆ノ介りゅうのすけである。

陰キャの僕でも1年の頃から知っていた、イケメン君である。

前の席で、背が高いので黒板が少し見えづらいのである。

そのイケメン君がなぜ僕に話しかけてくるのか。


あー、部活の勧誘かー。

それなら絶対お断りだ。


「えっと、部活はしてないし入る気もないよ。」


「そっか。バスケ、興味ない??」


「ない、かな。」


「そーなのかぁ。」


「なんで?バスケ部、人足りてないの?」


「いや~、俺、バスケ部辞めるからさ、誰か代わりにって思ってさ!」


「なんで辞めるの?180cmくらいある君の代わりなんて早々いないと思うけど。」


「いや〜怪我しちゃって強制的にできなくなったんだよ!ははは!ばかだろー!」


「それは・・・軽率なことを聞いてしまった、ごめん。」


「いいよいいよ、別に!それに元々辞めるつもりだったし。」


「そうなの?」


「うん。もうやりたくないっていえば嘘になるけど、他にやりたいことがあるし。」


「他にやりたいこと?」


「そう!将来、絵描きになりたいんだー!!」


今日初めて喋った男子に、これまた唐突なカミングアウトだ。


「どんな絵、描くの?」


「漫画っぽいものも描くけど、水彩画とか油絵とか!」

「なに?見たい??」


見たくないとは言えない。


「あ、うん。見たい。」


「それは興味ない顔だ!」

「ほれ!こーんな感じ!」


ノートを見せてくれた。

左上には数学の公式が途中まで書いてあるが、そんなことよりも。

絵はそんなに詳しくないが、これは才能を感じる。


ノート2ページいっぱいに描かれた1枚の絵。

SFっぽい町並みにアニメのキャラクターのようなものまで、細かく描かれている。

これは。


「このサイバーパンクな感じの絵は油絵でも描くの?」


「おぉ!よくサイバーパンクってわかったな!」

「んー。そういえば油絵では描いたことなかったかなー。」


「描ける?」


なぜだか食い気味に聞いてしまった。

彼に興味が湧いたのか。彼の絵に、か。


「あぁ、どうだろ。自身はないけど、描いてみよっかなー。」


「描いたら見せて。」


「お、おう!任せろ!!」

「平岡!お前意外と喋るんだな!これからもよろしくなっ!!」


「あー、うん。よろしく。」


「よかったらマイン、交換しよーぜー!」


「まぁ、いいけど。」


なぜかマインを交換してしまった。

アプリを入れてはいたが、友達追加するのは初めてだな。

友達・・・友達なのか?


「なぁ、下の名前なんて言うんだ?」


「周祥(ちかよし)だよ。」


「ふむふむ。それじゃー、よっしーな!」

「よろしく!よっしー!」


ゲームのキャラクターのようなあだ名を付けられた。


「あ、うん、よろしく、宝条君。」


なんだか意外な友達?ができた。

まさか男子と仲良くできる日が来るとは。


というか、さっきからすごく視線を感じる、ような。


「ど、どうしたの?入野さん?」


「いやー、なんでもー。ばーか!」


なんで馬鹿って言われたんだ???

何かしたか?

どういうことだ?

なんなんだーーーーー!!



ーお昼休み



「宝条と仲良くなったんだぁ~。」


「うん、なんとなく、流れで。」


「ふ~ん。それでマインまで交換して下の名前までー。」


「あーうん。なんか、流れで・・・。」


「あたしが先に友達になったのにー!!なんか悔しー!!」

「もう!あたしも交換してよ!マイン!!」


「うん、もちろんだよ・・・。」


これはあれだな。嫉妬というやつかな。

でもなんで僕なんかに?


「しかもよっしーってあだ名までつけられて!!」

「なんだか先を越されたーー!!」


「まぁまぁ落ち着いて!」

「入野さんの下の名前は、えーっと、せな、かな?」



あれ?反応がない。


「入野さん?」


あれ、僕まずいこと言ってしまったか?

女の子の名前を呼び捨てにしたから??

なんで反対向いてるんだろう?


「入野さーん?」


「はっ、うん、そうそう、世楠せな、あたしの名前、ね!」


「よかった、あってて!」


なんだか様子が・・・変?


「さっきからどうしたの?」


「いやぁ!!!なんでも、なんでもないよー!!」

「あっあたし、先教室戻ってるね!」


と言ってすごい速さで立ち去った。

突然どうしたんだろう。



ーその日の夜


ピコンッ!


あ、マインだ。誰からだろ。

入野さんだ!

ウサギのアイコンかぁ。


なんだろ、このスタンプ。

燃えがってる「漢」って感じのスタンプ。

どういう感情だこれ?


〈こんばんは、入野さん!どうかしたの?〉


〈マイン、送ってみただけー!〉


〈なんだそりゃ。〉


〈漢気スタンプ〉

〈これ、かわいいでしょー?〉


〈あー、うん。かわいいー。〉


〈絶対思ってないっしょ!!〉


〈そ、そんなことないよー。〉

実際かわいいかはよくわからない、漢気スタンプ。


〈そんじゃーまた明日ねー。〉


〈うん、また明日。〉


〈おやすみ。〉


〈おやすみなさい。〉


なんだかドキドキする。マインってこういうものなのか。

おやすみ、なんて言われたのは初めてだった。

なんだかよく眠れそうだ。


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