ある日のこと。
前の席の男子が話しかけてきた。
「なぁ、平岡!平岡って部活してんの?」
と話しかけてきたのは、バスケ部でイケメンで背の高い、
陰キャの僕でも1年の頃から知っていた、イケメン君である。
前の席で、背が高いので黒板が少し見えづらいのである。
そのイケメン君がなぜ僕に話しかけてくるのか。
あー、部活の勧誘かー。
それなら絶対お断りだ。
「えっと、部活はしてないし入る気もないよ。」
「そっか。バスケ、興味ない??」
「ない、かな。」
「そーなのかぁ。」
「なんで?バスケ部、人足りてないの?」
「いや~、俺、バスケ部辞めるからさ、誰か代わりにって思ってさ!」
「なんで辞めるの?180cmくらいある君の代わりなんて早々いないと思うけど。」
「いや〜怪我しちゃって強制的にできなくなったんだよ!ははは!ばかだろー!」
「それは・・・軽率なことを聞いてしまった、ごめん。」
「いいよいいよ、別に!それに元々辞めるつもりだったし。」
「そうなの?」
「うん。もうやりたくないっていえば嘘になるけど、他にやりたいことがあるし。」
「他にやりたいこと?」
「そう!将来、絵描きになりたいんだー!!」
今日初めて喋った男子に、これまた唐突なカミングアウトだ。
「どんな絵、描くの?」
「漫画っぽいものも描くけど、水彩画とか油絵とか!」
「なに?見たい??」
見たくないとは言えない。
「あ、うん。見たい。」
「それは興味ない顔だ!」
「ほれ!こーんな感じ!」
ノートを見せてくれた。
左上には数学の公式が途中まで書いてあるが、そんなことよりも。
絵はそんなに詳しくないが、これは才能を感じる。
ノート2ページいっぱいに描かれた1枚の絵。
SFっぽい町並みにアニメのキャラクターのようなものまで、細かく描かれている。
これは。
「このサイバーパンクな感じの絵は油絵でも描くの?」
「おぉ!よくサイバーパンクってわかったな!」
「んー。そういえば油絵では描いたことなかったかなー。」
「描ける?」
なぜだか食い気味に聞いてしまった。
彼に興味が湧いたのか。彼の絵に、か。
「あぁ、どうだろ。自身はないけど、描いてみよっかなー。」
「描いたら見せて。」
「お、おう!任せろ!!」
「平岡!お前意外と喋るんだな!これからもよろしくなっ!!」
「あー、うん。よろしく。」
「よかったらマイン、交換しよーぜー!」
「まぁ、いいけど。」
なぜかマインを交換してしまった。
アプリを入れてはいたが、友達追加するのは初めてだな。
友達・・・友達なのか?
「なぁ、下の名前なんて言うんだ?」
「周祥(ちかよし)だよ。」
「ふむふむ。それじゃー、よっしーな!」
「よろしく!よっしー!」
ゲームのキャラクターのようなあだ名を付けられた。
「あ、うん、よろしく、宝条君。」
なんだか意外な友達?ができた。
まさか男子と仲良くできる日が来るとは。
というか、さっきからすごく視線を感じる、ような。
「ど、どうしたの?入野さん?」
「いやー、なんでもー。ばーか!」
なんで馬鹿って言われたんだ???
何かしたか?
どういうことだ?
なんなんだーーーーー!!
ーお昼休み
「宝条と仲良くなったんだぁ~。」
「うん、なんとなく、流れで。」
「ふ~ん。それでマインまで交換して下の名前までー。」
「あーうん。なんか、流れで・・・。」
「あたしが先に友達になったのにー!!なんか悔しー!!」
「もう!あたしも交換してよ!マイン!!」
「うん、もちろんだよ・・・。」
これはあれだな。嫉妬というやつかな。
でもなんで僕なんかに?
「しかもよっしーってあだ名までつけられて!!」
「なんだか先を越されたーー!!」
「まぁまぁ落ち着いて!」
「入野さんの下の名前は、えーっと、せな、かな?」
あれ?反応がない。
「入野さん?」
あれ、僕まずいこと言ってしまったか?
女の子の名前を呼び捨てにしたから??
なんで反対向いてるんだろう?
「入野さーん?」
「はっ、うん、そうそう、
「よかった、あってて!」
なんだか様子が・・・変?
「さっきからどうしたの?」
「いやぁ!!!なんでも、なんでもないよー!!」
「あっあたし、先教室戻ってるね!」
と言ってすごい速さで立ち去った。
突然どうしたんだろう。
ーその日の夜
ピコンッ!
あ、マインだ。誰からだろ。
入野さんだ!
ウサギのアイコンかぁ。
なんだろ、このスタンプ。
燃えがってる「漢」って感じのスタンプ。
どういう感情だこれ?
〈こんばんは、入野さん!どうかしたの?〉
〈マイン、送ってみただけー!〉
〈なんだそりゃ。〉
〈漢気スタンプ〉
〈これ、かわいいでしょー?〉
〈あー、うん。かわいいー。〉
〈絶対思ってないっしょ!!〉
〈そ、そんなことないよー。〉
実際かわいいかはよくわからない、漢気スタンプ。
〈そんじゃーまた明日ねー。〉
〈うん、また明日。〉
〈おやすみ。〉
〈おやすみなさい。〉
なんだかドキドキする。マインってこういうものなのか。
おやすみ、なんて言われたのは初めてだった。
なんだかよく眠れそうだ。