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第5話:入場試験(2)

 ヨッシーたちをカメラで撮っているマスコミたちはざわついていた。そうであるのにミッチーが続けて拳銃を発砲する。パンパンパーンと乾いた音が響いた。


◆ ◆ ◆


 お茶の間のテレビには『テッテレテテー!』という音が流れる。今まで放送していた番組を一時中断する放送局が続出した。


「ここで臨時ニュースです! 織田焼討党の3役のひとりである明智光秀氏が拳銃を発砲しています!」

「コメンテーターの何某ヒロシです。うーん。ダンジョン内で本物銃火器を使うのは禁止されているはずなのですが……」

「そうですよね? きっと魔法銃のはずです」

「そのへん、どうなんでしょう? 現場のショージみつ子さん、光秀氏のコメントを拾えますか?」


 テレビ放送の場面がダンジョン内に変わる。現場実況を20年続けている名物キャスターが明智光秀へと近寄り、彼にマイクを突き出した。


『こちらショージみつ子です。光秀さん。それ、モデルガンですよね?』

『え? 本物のコルトパイソン357マグナムですが?』


"放送事故すぎるだろwww"

"何してんのこのひと……"

"ダンジョンではモデルガンを魔法銃として使えるってのに……"

"テラカオス"



▼足利義昭


「今宵のコルトパイソン357マグナムはよく吼える! 穿て! 我が敵を!」


 ミッチーはこれでもかとガーゴイルの顔面に実弾を叩きこみ続けた。ガーゴイルの顔はヒビだらけになっている。さらには涙目だ。


 ヨッシーはひくひくと頬を引きつらせた。ミッチーは弾倉が空になると、手慣れた手つきで弾丸をリロードする。


「ひゅぅ~。さすがは鉄砲を使わせたら織田焼討党一番ですね。でも、ミッチー……本物を使ってはいけませんよ?」

「ちっちっち、ノッブ様。魔法とかそんな面妖で不確かなものに頼るのは愚の骨頂! って、どこに電話をかけているでござる!?」

「あーもしもし、警視庁ですか? この場合、ミッチーは……ああ、今回だけは見なかったことにすると。ミッチー。次回からは魔法銃にしてくださいね」

「ふぁーくふぁーくふぁーーーくっ!」


 ミッチーが地団駄を踏んでいる。彼を止めてくれたノッブには感謝したい気持ちになる。


 ミッチーが発砲をやめたことで、こちらの一挙一動をカメラで収めているマスコミたちも次第に落ち着きを取り戻しはじめた。


 それよりも熊も殺せるコルトパイソン357マグナムの直撃を受けているというのにガーゴイルはまだ生きているようであった。。


 ガーゴイルが尻もち状態から立ち上がる。苦々しい表情となっているのがわかる。右足を大きく振り上げる。サッカーボールキックでこちらを遥か彼方まで蹴り飛ばす気満々だ。


「ふっ。先生の出番ですね。ヨッシー。濡れる準備はできましたか?」


 ノッブが立ち位置を変え、こちらを守るようにガーゴイルの前へと進み出ていく。心臓がどくんと跳ねあがってしまった。


「何を言っているのでおじゃる!? 本気でわっちを抱くつもりでおじゃるか!?」

「先生の極大魔法を見れば、惚れるに決まっています。まさに無問題!」


 そう豪語していたノッブがガーゴイルに蹴られてしまった。ノッブはクルクル回りながら、どこかへと飛んでいく……。


 キラーンという音が鳴った……。ノッブは空のお星さまとなる。


"グッバイ、ノッブ……きみの雄姿は忘れない"

"さすがは難易度SSのダンジョン"

"さっそく一人目の犠牲者でたぞ……"


 しかしながら、マスコミのカメラが捉える。空から流れ星が落ちてきた。それはガーゴイルの頭上でピタッと止まる。


 ヨッシーもまた、その流れ星に注目した。アロハシャツにビーチサンダルのノッブが宙に浮いている。


「ノッブ殿! そのまま死んでくれても良かったでおじゃるよ!」

「ふっ……第六天魔王は何度でも蘇る!」

「チッ。しぶといでおじゃる」

「何か言いました?」

「い、いや。無事なようで何よりでおじゃる!」


 ノッブがサングラス越しにこちらを睨みつけてきた。そんな彼から視線を外し、ガーゴイルを指差してやった。


 ノッブの視線がこちらの所作に誘導されていくのがわかる。空中に浮かぶノッブが右手をガーゴイルに突き出す。


 さらには彼の右手の先に魔力が集中していく。思わず「おお……」と声を零してしまった。


「前口上中に攻撃をしかけてくるのはご法度です。覚悟はできていますか?」


 ノッブがガーゴイルを脅している。ガーゴイルはガクガクブルブルと震えた。次の瞬間、哀れみを乞うポーズを取りだした。


 だが、ノッブは空いた左手を動かし「チッチッチ」と口ずさむ。


 ノッブの右手から巨大な炎球が放たれた。ガーゴイルの全身を炎が包み込んだ。石で出来ているというのに、ガーゴイルが溶けだす。


「ウゴアアア!」


 ガーゴイルは断末魔を上げた……。ノッブがドロドロになったガーゴイルに背を向けながら、ヨッシーの近くへと着地する。


 ノッブはさらに両腕を広げている。まるでこちらを抱擁してあげると言わんばかりのポーズだ。


「えっと……? ここはノッブ殿の腕の中で涙を流す場面なのかえ?」


 後ろに控えるマスコミに聞いてみた。彼らはコクコクと頷いている。ひくひくと頬を引きつかせるしかない。


「わっちのノッブーーー! 無事だったでおじゃるか!」


 とりあえず、ノッブの腕の中へと飛び込んだ。ノッブがよしよしとこちらの頭を撫でてくれる。怖気が走って仕方がない。


 だが、マスコミから見れば、絵になる構図だったのであろう。モニターに映る内閣支持率の数字がほんのり回復した。


"英雄の帰還。そして、姫武者ヨッシーを抱き寄せる。完璧だな"

"さすがはノッブ。俺たちのノッブ"

"俺、今からヨッシーの盾になってくるわっ!"

"やめとけ。ガーゴイルに蹴っ飛ばされて無事なのノッブだけ"


 ヨッシーですら死を感じたガーゴイルのサッカーボールキックだった。実際、ノッブは空の彼方のお星さまになった。


 だが、今のノッブはぴんぴんとしている。どうして、無事だったのかをノッブに聞いてみた。


「ふふ。蹴られる直前、サルに守ってもらいました」

「え……? 秀吉殿?」

「はい。先生が蹴られる寸前、サルが間に割って入ったのです。目で追いきれませんでしたか?」


 ノッブにそう言われてもピンとこない。マスコミがカメラにその瞬間を捉えてくれていた。彼らはモニターにその場面をスローモーションで流してくれた。


「ふむ。秀吉殿が確かに割って入っているのじゃ……でもこれ、放送事故じゃ」

「キレイに頭が破裂してますね?」

「秀吉殿ぉぉぉ!」

「大丈夫ですよ。ね? 女神様」


 ノッブが女神に顔を向けた。女神がこちらへとサムズアップしてきた。


「うん。ノッブの言う通り、あのサルは数分後には元に戻るわ!」

「へーーー。って、この映像通り、ぐちゃぐちゃになったのでおじゃるか!?」

「そりゃそうよ。でも安心して? 入場試験で受けたダメージで死ぬことはないわっ。あくまでも実力を計る場所ですもん!」


 女神の説明がしばらく続いた。自分たちは難易度SSのダンジョンに入場する資格があるか、女神に審査されていた。


 その審査過程において、どれだけのダメージを負おうが女神パワーによって回復できる。そして、女神の言葉通り、数分後、サルがひょっこりとこの場に戻ってきた。


 ノッブがサルを抱きかかえ、よしよしと頭を撫でている。


「サル、大儀であったぞ」

「うききー!」

「いや、そこは喜ぶところではなくて……じゃな」

「ん? 主君の盾になれるのは武士の誉れでしょ?」

「いや、おぬしたちがそう納得しているのなら、それでいいのじゃが……」

「よしよし、ご褒美にヨッシーのお尻を揉んでいいですよ!」

「うききーーー!」


 サルがノッブの手から離れ、地面へと着地する。そして、わきわきと両手をいやらしく動かしている……。


 ヨッシーは逃げ出した。だが、何度も言うが第六天魔王からは逃げられない! ノッブはヨッシーを取り押さえた。


 さらにはサルがこちらのお尻に突撃してきた。


「やめるのでおじゃるーーー! お嫁にいけなくなるのでおじゃるー!」

「うきぃ~~~」

「ふふ……サル。揉んでいいのは1分間だけですからね?」

「こんなことになるなら、JCになるのではなかったでおじゃるーーー!」


 ヨッシーの絶叫が辺りにこだました。だが、ヨッシーを助けてくれる者など、この場にはいなかった。


 JCならではの固めのお尻を1分間、じっくりとサルに揉みほぐされることになった……。



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