ヨッシーたちがダンジョンへと足を踏み入れた。すると入り口のすぐそこに正方形に石畳が並んでいた。
一見すると闘技場のようにも思えた。ヨッシーたちが足踏みしていると、女神がその石畳へと進み、クルリとこちらへと振り向いてきた。
さらに女神が虚空から錫杖を取り出した。シャンシャンと錫杖を鳴らす。それとともに女神の身体から神々しさがあふれ出してきた。
次にズシーンと巨大な物体が石畳に落ちる音がした。それは先ほど、空を優雅に飛んでいたガーゴイルたちだった。
奴らは3体いる。「グルル……」と唸り声をあげ、こちらを威嚇しているように見えた。
「はーい! 入場試験を始めるわよー!」
女神が朗らかな声でそう告げてきた。こちらは頭の上にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。
そうであるのに、「ん?」と女神が首を傾げている。自分たちの置かれている状況をいまいち理解できない。そうだというのに女神は察しが悪いわねぇと言いたげにため息をついている。
「えっと……? 入場試験とはどういうことででおじゃる?」
「ん? ダンジョンの入り口に門番がいるのを知らないの? 常識でしょ?」
女神の返答に眉をひそめるしかなかった。横にいるノッブとミッチー、そしてサルと顔を見合わせる。
彼らの表情から察するに、彼らもそんな話、聞いたことないと言いたげであった。ヨッシーが代表して、女神と会話を再開する。
「他のダンジョンで、そのような入場試験は確認されていないでおじゃるよ?」
「あ、あれ? どこのダンジョンでも必ず入場試験があるのよ?」
「え? フリーパスで出入りできているようでおじゃるよ?」
「うそ……でしょ!? 他のゲームマスターは何をしているの!?」
「惰眠をむさぼっているんじゃないのかえ?」
「そんなーーー! わたくしだけ真面目に働きすぎーーー!?」
どうにも女神と話がかみ合わない。ダンジョンの管理者であるゲームマスターなる存在が各地のダンジョンにいることは政府の調査でも確認されている。
だが、その高次の存在が入場試験を実施しているという話は聞いたことがない。おいでませー、楽しんでいってくださいませーと来る者拒まずの状態だ。
「じゃあもしかして……若者が実力に見合わないダンジョンで大怪我を負っているのはゲームマスターたちが本来の仕事をさぼっているからなのかえ?」
ヨッシーたちはジト目で女神を見た。女神が後ずさりした。しかし、こちらは追及の手を緩める気はない。国民の安全に関わっていることだ。
ここはしっかりと説明責任を果たしてもらわねば困る。
「わ、わたくしが管理しているダンジョンじゃないもーーーん!」
「ごまかしやがったでおじゃる!」
「でも聞いて? あなたが管理していない山に山菜取りに行ったひとが迷子とか怪我をしたとするでしょ? その場合、あなたが責任を問われたら、理不尽だ! って言っちゃうでしょ!?」
「うぐっ! そ、それは!」
「ふふっ。どうやら、わたくしの言い分が正しいと理解してもらえたようね!?」
「でも、そちもダンジョンのゲームマスターじゃろ? 他のゲームマスターがさぼっているなら、叱責する立場なのではないのかえ?」
「知りませーーーん。重ねて言うけど、わたくしの管轄外よっ!」
ヨッシーは女神がうらやましく感じてしまう。こちらは総理大臣だ。国内で何か問題が起これば、回りまわって、全て自分の責任にされてしまう。
自分の責任じゃないと言えば、内閣支持率が下がる。自分の責任だと認めれば、内閣支持率が下がる。どっちにしろ下がる。こんな理不尽な立場にいるのが自分だ。
「くぅ! わっちもそのように放言してやりたいのじゃー!」
「ふふっ。総理大臣って大変ね?」
「そう思うのであれば、同僚を諫めてほしいのじゃ!」
「やだーーー。わたくし、そんな面倒なことしたくなーーーい」
"テラフリーダム"
"まあ他所の責任なんて取りたくないのはわかる"
"謝罪と賠償を要求するニダー"
「うっさい。モニターを叩き割るわよ?」
"じょ、冗談でござる"
"ひえっ。この女神、5chのノリが通用しない……"
"もちつけ、おまいら。ここは女神様の側につこうぜ"
"そうだ! 女神様は悪くない! 悪いのはヨッシーだ!"
内閣支持率がまたしても下がった……。国民はヨッシーを裏切り、女神を支持する立場を表明してきた。
「理不尽でおじゃるーーー!」
「まあまあ……ガーゴイルを華麗に倒しましょう。そうすれば、支持率も少しは回復するはずです」
ノッブにたしなめられた。この怒りをガーゴイルにぶつけることにした。女神が「ふふん!」と鼻を鳴らしている。こちらへと錫杖の先端を向けてきた。
女神の所作に連動するようにガーゴイルが1体、こちらへと近づいてきた。あちらはやる気満々のようだ。戦いは避けられない。ならばと腰に佩いた刀をスラリと抜く。
「ゴガァァァ!」
ガーゴイルが吠えた。石の拳をこちらへと突き出してきた。しかし、動きが緩慢すぎる。
「鹿島新當流が一の太刀……でおじゃる」
構えた刀を上から下へと振り下ろした。光が幾重にも煌めく。「ふっ……」と意味ありげに息を吐く。次の瞬間、ガーゴイルの右腕の腕先から肘あたりまでがばらばらになった。
ノッブがパチパチと拍手してくれた。腰に手を当てて、えっへんと鼻を高くしてしまう。
「やっるー! ヨッシー、すごいわね!」
女神も拍手してくれている。ますます鼻が高く伸びてしまいそうになる。
"ヨッシーまじパねえ"
"俺、石像を日本刀で斬るなんて、漫画の世界だけだと思ってた"
"激しく同意"
「わっちの兄、足利義輝は四方から畳で圧死させられたのじゃ。それゆえにわっちは畳だけでなく、石像や石塔を斬りまくって、剣の腕を磨いたのじゃ!」
「本圀寺の変の時に如何なく、その腕を振舞いましたね。さすがはヨッシー。先生はヨッシーに惚れ直しそうです」
「もっと褒めてくりゃれ、ノッブ殿」
「では……」
「おい、ちょっと待つでおじゃる! 近すぎるでおじゃる!」
「ヨッシーの太刀筋を見たら、先生、勃起してしまいました……はあはあ」
「おまわりさーーーん! JC相手に勃起しているロリコンがここにいるでおじゃるーーー!」
ヨッシーは急いで、ノッブから距離を取ろうとした。しかし、第六天魔王からは逃げられない!
ヨッシーは回り込まれてしまった。うっとりとした表情のノッブがこちらの身体をがっちりホールドしてきた。
「ノッブ殿ーーー!」
「ふふ……今夜は寝かせませんよ?」
「そんなことよりも、ガーゴイルがこちらに向かってきてるでおじゃる!」
「ん? うわあ!? まだ戦意喪失してなかったんですか!?」
右腕を切り飛ばされたガーゴイルが次は左の拳をこちらへと振り下ろしてきた。
"グッバイ、俺たちのJCヨッシー"
"おわたおわた……"
ヨッシーたちはガーゴイルにぶん殴られそうになった。だが、すんでのところで大盾を構えたミッチーが間に割って入る。
ガキーンという鉄と石がぶつかり合う音が鳴り響く。ミッチーの身体が少しだけ沈み込む。だが、それ以上、ミッチーの身体は動かない。
ガーゴイルが無理矢理、ミッチーを押し倒そうとした。だが、ミッチーが逆にガーゴイルを押し返してしまった。
ガーゴイルは尻もちをつく格好となった。さらにはミッチーがゆっくりとガーゴイルの懐に入り込む。
「ノッブ様。発砲許可を」
「ミッチーくん。やってしまいなさい」
「はっ!」
ミッチーは自分の懐をまさぐる。そこから拳銃を取り出す。その拳銃の先端をガーゴイルの顔面へと突き出す。
パーーーン! と乾いた音が響き渡った。次の瞬間、鉄の塊が石を砕く音が鳴った。
辺りが静まり返る。ヨッシーたちを見守るマスコミたちも固唾を飲んだ。
"えっと……ミッチーの拳銃って"
"お、おう。本物……だよな?"
"ダンジョンで使っていいのってモデルガンだったよな?"
"おわたおわた。足利政権\(^o^)/オワタ"