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全国のお茶の間に速報として次のような放送が流された。いつもはどんなニュースが流れようが、平然とアニメ放送を続けるTVなんとか東京すらもアニメ放送を打ち切り、特番を始めた。
「ここで臨時ニュースです。本日、先ほどのことです。現内閣総理大臣がJC最高! と言いながら、姫武者JCアバターを手に入れたようです」
「コメンテーターの何某ヒロシです。これは……犯罪?」
「何某ヒロシさん。あくまでもダンジョンを探索するためのアバターです。これはぎりぎり犯罪ではありませんね」
「しかしながら、次の国会では義昭総理はこのJCアバターの件で野党からの追求は免れないでしょう。そこはJDにすべきではなかったのかと」
「はあ……JDもJCも違いがないのでは?」
「違います! 全く違います!」
「あの、血管が切れそうなほどに顔を真っ赤にしなくても……」
日本中、どこのテレビ放送でもJDとJCの違いを熱く語る論客たちが言い争った。のちの世では、これを【JD-JC抗争の始まりの日】と呼ばれるようになる。
▼足利義昭
義昭たちのアバターの設定が終わったあと、女神から改めて、このダンジョンの説明を聞かされることになった。
「ここのダンジョンは7階層になっているわ。そして、それぞれの階層にボスがいるの」
「なるほどでおじゃる。その辺りは他のダンジョンと変わらないのじゃな?」
「そうね。でも、ここは危険度SSランク。あなたたちが何を求めてきたのかは知らないけど、無理そうなら第1階層を適当に散歩して、帰るといいわよ」
「ひどいのじゃ! わっちにはちゃんとした目的があってここに来たのじゃ!」
「ふーーーん? ちなみにどんな目的?」
「えっと……駄々下がりの内閣支持率を上げるためのレアアイテムとか取りに……」
女神がにっこりとほほ笑んでいる。さらにはこちらにサムズアップしてきた。義昭もサムズアップを返そうとした。
だが次の瞬間、女神は手首をくるりと回して、親指を地面へと向けた。
「帰れ。政治目的にダンジョンを使わないでほしいわ」
「そんなーーー!? 各地から調査報告があがっておるのじゃ! ダンジョンには今の日本を救うアイテムが眠っている可能性が高いと!」
「確かにそう……かもね。でも、大人のさらに政治家のためにダンジョンが存在するわけじゃない。若者に夢と希望を与える。それがダンジョンよ?」
「でも、ダンジョンに挑んだ若者たちの7割近くが再起不能の大怪我をしておるようじゃが?」
「……あっ、あんなところににUFOがーーー!」
女神が話をごまかした。女神が指差しているのはUFOではなく、石でできたガーゴイルの群れだった。
ガーゴイルたちは呑気に「カーカー」と鳴いている。女神は「えへへ……」と言いながら、手を下ろし、こちらへと身体を向けてきた。そして、「こほん……」と小さく咳払いした。
「そ、それは実力に見合わないダンジョンを選んだとかそういうのでしょ!?」
「確かに、そういう調査結果も出ているのじゃ。一概にそちらの責任と言えないのじゃ」
ダンジョンは世界中に存在した。その中でも日本には47カ所も存在した。若者たちにとって、新しいアトラクションのように見えたのであろう。
しかし事故が絶えず、ついには足利政権は国内のダンジョンを封鎖した。
その政策は地方の若者たちから非難された。ついには足利政権の失策のひとつとまで言われるようになってしまった。
それゆえ、7つのダンジョン以外は一般に解放されることになった……。
「思い返せば……なんで、わっちが非難されるでおじゃる!? 信長殿、教えてほしいでおじゃる!」
「いやまあ、田舎の娯楽と言えば、イオンとパチンコしかありませんからね。それを力づくで奪えば、反感を買って当たり前だと思いますよ」
「しょうがないでおじゃる! 出雲大社ダンジョン、宇佐神社ダンジョンといい、極めつけに伊勢神宮ダンジョンじゃ! やんごとなきあの御方にもご迷惑がかかるというものじゃ!」
日本各地の地方でダンジョン化したうちの8割近くが有名な神社仏閣であった。その中でもやんごとなきあの御方が関係する7つのダンジョンを禁止区域に設定し続けた。
明治神宮ダンジョンを封鎖しても、東京都民は隣の千葉県に巨大娯楽施設と代替のダンジョンがある。
むしろ、東京一点集中が少しでも緩和されたので、良い判断だと言われる始末であった……。
「偶然ってあるのね? あなたたちが禁止区域に設定した7つのダンジョンのゲームマスターって、実はわたくしよ? 狙ってやったのかしら」
女神が首を傾げている。しかし、その仕草がこちらのいら立ちを掻きむしってくる。義昭は声に怒気をはらませるしかなかった。
「そちらが狙って伊勢神宮など、やんごとなき御方に関係する場所をダンジョン化したのではないのでおじゃるか!?」
「わたくしはただ……この島国で神聖なパワーを大量に放つ場所だから、利用しただけよ?」
「世が世なら不敬罪でおじゃる」
「ふふふ。陛下にはすでにご挨拶を済ませているわよ?」
「なん……じゃと!? 総理大臣のわっちには宮内庁からそういった伝達はされていないのじゃが?」
"そりゃすぐに失脚すると思われてるからだろJK"
"なんたって今や内閣支持率1%未満だしな"
"てか、ダンジョンを封鎖するとか国の損失だろ"
「義昭様。ほら、マスコミたちがこちらに向けているモニターに国民の声が」
「なんじゃとー!? 批判だらけではないかーーー!」
スキンヘッドのドワーフと化した光秀がこちらの視線をそのモニターへと誘導してくれた。マスコミたちは国民の声が義昭総理に直接届くようにと100インチモニターを用意してくれていた。
5ちゃんねるとYチューブへの書き込みがそのまま、モニターに映し出されている。
「うっきー、うきうき、うきー」
「秀吉殿。何を言っているか伝わってこないのじゃ」
「えっと、エルフパワーでサル化した秀吉くんの声を聞きました。義昭のばーかばーか! と書き込んでやったぜ! だそうです」
「うきーーー!?」
「こやつ! なんという不敬じゃ!」
義昭は激昂する。だが、信長は手乗りサルを肩に載せて、その場から逃げていく。義昭は腰に佩いた鞘から日本刀を抜き出し、ブンブンと振り回して、信長たちを追い掛け回した……。
「はーーーい。おふざけはそこまで。そこのグラサンちょんまげ。あんまりヒトを虚仮にしないっ」
「すみません。前世の頃から義昭くんをおもちゃにするのは楽しすぎて……」
「むがーーー! ちっとも反省してないのじゃーーー!」
「シャラーーープ、義昭。いえ、よし子ちゃん。そのアバターを取り上げるわよ?」
せっかく手にいれたJC姿を取り上げられるのはたまったものではない。大人しく、女神の言うことを聞く。
「オープン・パラメーター」
「おお。ゲームみたいにパラメーターが見える!?」
「ふふふ。現代ダンジョンらしくていいでしょ?」
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名前:足利義昭
統率:23
武力:91
政治:87
知力:56
義理:3
野望:100
スキル:鹿島新當流、呪いLv3
列伝:足利幕府の最後の将軍。以下略
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女神が手に持つタッチパッドから光が放射状に空へと放たれている。その空中で光が集まり、スクリーンと化した。そこに義昭のパラメーターが表示された。
「これが能力値で、スキルも色々と……ん? スキル欄に呪いLv3っていうのがあるのじゃが……これは何でおじゃる?」
「え? 呪い? ちょっとどういうこと?」
女神の顔色が唐突に変わった。義昭の目はそれを見逃さなかった。女神が慌てふためきながら、スクリーンとタッチパッドを交互に見ている。
「え? もしかして……女神様も把握してない? ちょっと、貴女が設定したのじゃろ!?」
女神があちゃーーーという顔に変わった。そして、こちらに手を合わせてきて、さらには頭をぺこりと下げてきた。
「ごっめーーーん! なんかバグっちゃったみたい」
「バグった?」
「うん。ダンジョンのラスボスを倒さないと、そのアバターの姿から元にもどれないみたーーーい」
「ちょっと待つのじゃ! わっち、JCのままでおじゃるのか!? ダンジョン内のことだけだから、許されるのであって!」
「えへへ……」
「えへへじゃないでおじゃるーーー! このままの姿で外に出たら、それこそおまわりさん案件なのじゃー!」
女神を問い詰めようと、一歩前に出た。しかし、信長がこちらの肩をガシッと掴み、こちらの動きを制止してきた。
「いえ、大丈夫そうですよ。国民はその姿のままのほうが良いみたいです」
「ぐんぐん内閣支持率が上昇しているでおじゃるーーー! そんなにわっちの元の姿が憎らしかったでおじゃるかー!」