伊藤博文は西郷隆盛と勝海舟を呼び出すと、二人にこう告げた。「長い間、苦労をかけた。まもなく、この世界から戦争はなくなる。戦争が好きな二人には残念かもしれないが」と。
「ちょっと待ってください! 戦争がなくなるのは構いません! でも、どうやって勝つおつもりですか? 『フランスをはじめ、各国が降伏する』と言ったそうじゃないですか!」と西郷隆盛。
「それについては、問題ない。二人とも、アメリカのマンハッタンで、極秘裏に開発中の爆弾は知っているな?」
「ああ、『原子爆弾』と名付けられた兵器ですか。でも、あれは実験さえ行われていません。原理を発見しただけです。脅したとして、各国が簡単に降伏するでしょうか」と勝海舟。
「まあ、もうそろそろ各国から降伏の連絡が来るさ。噂をすればだ」
側近が手紙の束を持って執務室に入ってくる。笑みを浮かべて。
「その様子からするに、手元の手紙は『降伏する』という内容だろう?」
「ええ。『大日本帝国の新兵器の原子爆弾の前では無力である。無条件降伏をする』と」
「おかしくないですか? 手紙だけで存在を認めるはずがありません!」
「勝、これを見てみろ」
伊藤博文は一枚の写真を懐から取り出すと、机に放り投げる。その写真には砂漠と巨大なきのこ雲が写っていた。
「これは、どういうことですか! まさか、我々にも秘密で完成させていたのですか?」
勝海舟は味方に裏切られたことにショックを受けている様子だった。
「まさか。砂漠は精巧なミニチュアさ。そこに小型の爆弾で、きのこ雲を作った。それだけでは信じられないだろうから、原子爆弾の原理も一部を手紙に書いたさ」
「つまり、もともと全世界を相手にするつもりはなかったと?」
「そういうことだ。確かに、我が国には飛行機という新兵器がある。これを使えば、数年後には世界征服を成し遂げていただろう。だが、その間に戦争で何人の国民が亡くなると思う? 大勢の犠牲者の上に成り立つ世界征服など、天皇陛下は望まれないだろう」
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いよいよ、この時が来た。
「天皇陛下、ご存じかもしれませんが、この地球上すべてを我が国が支配下におきました。つまり、陛下は全世界の覇者ということになります」
「果たして、どうかな?」
「と、言いますと」
明治天皇はそばにあった地球儀を手に取ると、南に指をやる。それは、南極大陸の位置だった。
「まだ、ここが残っている」
なるほど、確かにそうだ。これはまだまだ首相を辞められそうにないぞ。伊藤博文はそう思った。