アラスカを購入してから数ヶ月。新聞の記事は政府を批判する記事で埋め尽くされていた。アラスカ購入は失策であると。
伊藤博文はこうなることをある程度予測していた。アラスカは不毛の地と言っても過言ではない。だが、天皇陛下が欲しいと言ったと知ったら各社も黙るだろう。買ってしまったものはどうしようもない。
「ひとまず、アラスカ購入が天皇陛下のご意向であることを新聞記事にするよう、各社に指示をしてくれ」
伊藤博文は側近にそう言うと、椅子に深々と倒れ込んだ。ひとまず、これで大丈夫だろう。
アラスカへの物資補給は勝海舟率いる海援隊が頑張ってくれている。勝海舟らには感謝の気持ちでいっぱいだった。
そんな風にあれこれ思案している時だった。先ほど下がらせた側近がドアを勢いよく開けたのは。
「おいおい、ノックくらいしてくれよ。そんなに急いでどうした。まさか、アメリカが攻めてきたのか?」
伊藤博文は最悪の事態を覚悟した。しかし、側近からの連絡はこうだった。
「首相、アラスカにて金鉱および油田が発見されました! 現在、鋭意調査を進めているとのことです」
何を言っているのか、理解できない。伊藤博文の頭はフリーズした。アラスカで金鉱が見つかった? それに油田も?
事態を把握すると、伊藤博文は小躍りした。金に石油! 金鉱から金を採掘すれば、アラスカ購入代など簡単に補えるだろう。これほど嬉しいことはない。まさか、このような形で財政が潤うとは! アメリカへ進出するまでもなかったのだ。そして、石油。これにより我が国で石油ランプが普及するに違いない。そうすれば、国民の生活は豊かになるし、経済も発展するだろう。
新聞各社に「アラスカ購入大成功! 金鉱と油田を発見!」とさきほどとは真逆のことを書くように伊藤博文は側近に伝えた。これで面目が立つ。やはり、天皇陛下のご指示に従って正解だった。伊藤博文は執務室を歩きまわった。
経済が潤ってしばらくすれば、国力は他の国の比ではなくなる。大日本帝国の時代到来だ。伊藤博文が次に考えるべきは、いかにしてアラスカを守り抜くかだった。
そういえば、もうすぐメキシコで選挙が行われると聞いた。候補者は文民派と軍人派。文民派がやや有利と聞いている。もし、ここで軍民派を支援したらどうか。貸しを一つ作れるし、アメリカへのけん制になるかもしれない。
アメリカ北部をどう抑えるか。アラスカと接しているカナダは最近、イギリスから自治権を得たらしいが外交権はない。では、大日本帝国がカナダを国として認めたら? カナダは喜んでこちらの味方になってくれるだろう。
イギリスはというと首相は病気らしいし、ヨーロッパのゴタゴタに巻き込まれつつある。カナダにかまってられるとは思えない。
伊藤博文は決めた。メキシコとカナダを巻き込むことを。