『なっ! 何っ! 貴女は・・・いえ、貴女達は?』
シャリルの目の前に突如として、三人のミリカ達が何処からともなく現れる。
『私達、三人はね・・・』
『貴女の血液に入り込んだ・・・』
『アンデッドの血が見せる幻影』
三人のミリカ達は、シャリルの周囲をぐるぐると踊りながら回り、歌う様に説明する。
彼女は、体内に侵入した吸血鬼の血が見せる、三人の幻影達を睨みながら一蹴する。
『立ち去れ、アンデッドよ』
『それは無理よっ!』
『私達は既に貴女の体と』
『意識の中に~~』
シャリルが怒鳴ると。
ミリカ達は妖しい笑みを浮かべながら、彼女をからかい、そして三人は言う。
『貴女のパートナーのアレリオは』
『既に貴女より先にあの世に』
『行きかけているっ!』
『貴女達のせいでしょう、アレリオが死んだのはっ!!』
微笑みを浮かべて騒ぐ、三人のミリカ達は、シャリルを段々と苛つかせる。
『そうねぇーーでも彼を~~』
『もしぃ~~生き返らせれるとぉ~~』
『したらっ! アンデッドになるとしても~~』
『戯れ言をっ! 彼がそんな事を望むわけないでしょう』
アンデッド化すれば、愛しいアレリオを生き返らせる。
それを聞いても、シャリルは動じない。
『そうだよねっ? でも貴女わーー』
『彼に蘇って欲しい~~』
『はずだよねーー』
『そんな事はっ!』
ミリカ達から本心を指摘されたシャリルは、思わず叫んで否定するのだが。
『あるっ♥』
『あっ! 何をっ!?』
ミリカ達の内の一人が、後ろから顔を出し。
シャリルの頬っぺたを突っつきながら反対の手で胸を揉む。
『今貴女の体の中を私達が這い回り~~』
二人目のミリカがシャリルの横に立ち。
わき腹を擦り、もうひとつの手で頭を撫でて、吐息息を吹き掛ける。
『外では貴女の体に闇のエネルギーと魔力が入れられている・・・ちゅう~~・・・でもっ!!』
三人目のミリカが、後ろからシャリルに抱き付き頬にキスをしながら語りかける。
『貴女の体には特別な血液・・・つまり私達が入っている、そのために貴女は・・・』
『通常は、スケルトンやゾンビになる所を・・・貴女がかなりのエネルギーを吸い取ったおかげで』
『より、レアなアンデッドになる、でも貴女にその意志があればねっ!』
ミリカ達は次々と、アンデッド化すれば良いことがあると言っては。
シャリルに畳み掛ける。
『どうする? 貴女はっ! 私達はこのまま貴女を、あるかどうか分からない天国に安らかに行かせることも出来るけど・・・』
『貴女がエネルギーを吸い取り過ぎたせいで彼アレリオの分はないのよ』
『このままじゃあ~~アレリオがあるかどうか分からない死後の国へ行ってしまうわ・・・貴女がアンデッドに成ってエネルギーを口移しで分ければ別でしょうけど・・・』
三人のミリカ達は、シャリルをくすぐったり、撫で回したりしながら語る。
『うううっうるさいっ! うるさいっ! うるさいぃぃ~~~~!!』
シャリルは両手で耳を押さえて、脳内に響く。
心地よい、三人の歌声のように聞こえる話を聞かないようにした。
『さい~~うるさ~~いっ!』
『さあ~~どうするぅ? よいっ! よいっ!』
『どうするっ? よいよい』
『どうしましょっ! よいよいよいっ!』
シャリルは叫ぶが。
三人のミリカ達は彼女の怒鳴り声を気にする事なく体から離れ。
阿波おどりを初める。
『もうやめてっ! お願いっ静かにしてぇっ! えっ? いなく・・・なった』
五月蝿く騒ぎ続ける、ミリカ達に苛立ち。
シャリルは、目を瞑ると顔を真っ赤にして怒鳴り声を散らす。
『ご免なさいねえ、ちょっと煩くしてぇ? でもさっき私が言った通り、貴女がアンデッドに成れば、アレリオは助かるのよっ!』
『それはっ!!』
先程の悪ふざけを謝り、ミリカが二人が助かる方法を告げると。
シャリルは、言葉に詰まる。
『出来ないの? いいわっ無理強いをする気らないしね・・・いいっ! あそこに緑の霧に包まれた赤紫色のどろどろと垂れている魔力の滝が見えるわね?』
『あれねっ?』
ミリカが指差すと、シャリルは彼女が示す、どろどろとした滝に目を向けた。
『あれは現実世界の闇のエネルギーと魔力なのよ、あれを浴びれば貴女はアンデッドに・・・そして彼もアンデッドに変えられる・・・ただしそうなったら私ミリカとジョージの忠実な僕に成るけどね? さあ、どうするの?』
『私は・・・彼といっしょに・・・』
緑色の滝と赤紫色の魔力の滝を指差したミリカの問いに、シャリルはうわ言のように呟く。
『死ぬのっ? それとも、アンデッドに成る?』
『駄目よっ! このままではっ! 二人共人間ではない怪物に・・・でも彼と一所に居られるならっ・・・』
ミリカの誘惑に対して、勿論、シャリルは駄目だっと心の中では強く抵抗するのだが。
もうひとつの願い、アレリオといっしょに居たいと思う願い。
それが闇と魔力の滝に歩を進ませ。
シャリルを滝まで、たどり着かせる。
『さあ早く入りなさぁいそうしたら貴女は私の妹分に~~』
ミリカは、シャリルの両肩を優しく掴み、耳元に吐息を吹き掛けるように囁く。
(・・・いい香り? 何だかこの緑色の霧の匂いを嗅ぐと気分が良くなる・・・まるでこれは吸ってはいけない麻薬のようだ・・・それに? 彼女の吐息も甘くていい香りが漂う・・・)
『あぁっ! 駄目っ! 駄目なのにぃ欲しいっ♥』
口の奥から涎が垂れてきそうなほど、シャリルは闇の滝の魔力を欲しがる。
『うふふっ! 欲しいなら良いのよ? 欲しいって言ってもさぁ~~それに幾らでも浴びて飲みなさぁい♥』
『はいっ欲しいですっ』
もはや、シャリルは頭の中身が蕩けた様に、何も考えられなく成っていた。
『クスッ♥ そうよっ! そうっも~~うっ少しっ!』
ミリカは赤紫色の滝まで誘導すると。
ちゃぷっと音を立てて、シャリルは滝を浴びる。
滝はどろどろ、ぬるぬるすると思ってはいたが。
意外にも、サラサラと清流のようにシャリルの体を流れる。
『ぷはぁっ! おいしいぃっ! 気持ちいいっ♥』
『でしょうーー』
シャリルは闇のエネルギーの滝を体に浴びそれを飲み。
そして、魔力の霧を吸い混む。
それは、体に高濃度の麻薬入りのアルコールを浴び。
更に、それを飲むのと一緒なのだが当人は知るよしもない。
そして、吸い込んだ魔力の霧は鼻の中と喉を、ス~~と通りすぎ脳と肺まで達する。
こちらはシャリルの体を癒して体力を満たし、気分をリフレッシュさせる。
『うぃーーうぅ~~あーーーー何だか気分が良いわあ?』
シャリルは、恍惚の表情を浮かべて、頭はスッキリしているが。
同時に、酒に酔っぱらったように幸せに感じる。
『うんうん、しっかり浴びたわね? じゃあねぇ起きて本物の私とジョージの言うことを良く聴いてねぇーー・・・』
『はぁい~~ミリカ様ぁ~~♥』
すると。
ミリカの血の幻影。
闇のエネルギーの滝。
魔力の霧。
これ等は、だんだん薄くなり、消え失せていった。
それから、シャリルはハッと我に返り、ミリカに言われたことを思い出す。
『早くミリカ様とジョージ様達に、人間からアンデッド生まれ変わらせて頂いたお礼を述べて、アレリオをアンデッドに変えて上げなければっ!』
シャリルはそう思い、ゆっくりと目を閉じて意識を闇の中へと落としたのだった。