「行くわよっ!」
「行かないっ!」
少女と少年たちが二人、学校から帰る道中、交差点の端で言い争う。
行き交う車から出る騒音に、負けず劣らずの声量でだ。
真夏の暑さと、蝉が鳴き声を上げる中、いったい何を二人は争って言っているんだろうか。
「行くの」
「行かねぇって」
言い争う中学生の男女二人。
一人は黒髪の少年で、もう一人は赤みがかった金髪で長い髪をした少女。
「このヤンキー女、髪は染めてるし、目にはカラコンなんか入れやがって」
「この髪も瞳も元からだって言っているでしょ、あんた何度私が外国から来たって言ったら分かるのっ?」
少年は、悪態を吐き、少女はぶちギレて反論する。
彼と彼女の口喧嘩は、更にヒートアップする。
「どうですかねぇ? 向こうの人だって髪染めたりカラコン入れますからねえ、本当は黒髪黒目なのに外国人だからって染め……」
「しつこいっ! キモ・ゾンビ・オタ引きニート」
ゴンッと頭を叩かれて、うずくまる少年。
少女は彼の頭を拳で、ゴツンと叩いた。
「うぐぅぅ」
「さあ観念して早くしなさい」
少年の黒髪を掴み、引っ張っていく少女。
少年は無理矢理、歩かされて連れて行かれる。
~~と言うより、強制連行されているようにも見える。
もちろん、少年は激しく抵抗して踏ん張るのだが。
「さぁ~~登校の時間よっ!」
「あっちょっと待って嫌だ、学校何か行きたくないっ!」
少女が再び、無理矢理に少年を引っ張って行こうとすると、彼は必死で抵抗するが。
「うるさっ!! あっ猫が車に……」
少女は少年に対して、そう言うが。
ふと道路を見ると、黒い子猫が大型トラックに引かれそうになっていた。
「にゃ………………」
「大変」
「あぶねぇ」
それを見て、少女と少年はもう少しで引かれてしまうと、黒い子猫を心配する。
「助けなきゃ」
ーーと、言いながら猫に向かって、一直線に走っていく少女。
そして、子猫を歩道に投げて助けたが、少女の眼前には白いトラックが。
「あっ!?」
引かれると思う少女。そして少女の前に立つ少年。
これじゃ、僕はしにましぇ~~んじゃねぇかと少年が思った刹那。
二人は目を瞑ると。
(……あれれ……)
(……なんだ……)
目を開いた、少年と少女は見知らぬ、暗く広い洞窟みたいな空間の中にいた。
「どこなの…………ここ?」
彼女は、考えるが答は出ない。
隣の彼に聞いても、答えは同じだろうと思った彼女は、一応質問してみる。
しかし、彼は首を振るだけだ。
「知らない」
と答えた……その後に。
「ひょっとしたら、ここは死後の世界なのかも知れない?」
「死後の世界?」
嫌だ、何で中学三年生で死ななきゃいけないの。
ーーと考えている内に、どこからか何人かの足音が聞こえてきた。
二人が足音のする方を振り向くと。
「ガアァァガアアァァッ!」
「グオオォォォォ」
咆哮を上げるゾンビが現れた。
それも、一体や二体ではない、たくさんのゾンビ達がこちらに向かってくる。
その場に、へたりこみ動けなくなる私。
当然だ……トラックに引かれて死後の世界に来たんだ。
地獄の亡者に喰われるなんて、いったい誰が思うだろうか。
……もう全て終わりだ。
…………と思ったが、彼が言った。
「いけっ! ここは俺がなんとかする」
そう言いながら、彼は勇敢にも石を拾い、ゾンビの群れに向かって投げ始めた。
そして。
「何やっているっ早く行くんだっ!」
「貴方はどうするのっ!!」
彼の言葉に私は、ハッと我に帰り、直ぐに気力を取り戻し立ち上がる。
「何とかするさ、とにかく逃げろ。後から必ず追い付くから」
「わかった絶対よっ! ……絶対ねっ?」
彼の言葉に、私は踵を返し、走りながら逃げる。
その後、直ぐに彼へと振り向く。
彼は、お茶碗くらい大きい石を振り回し、ゾンビの頭を叩いていた。
一、二体ゾンビは倒れるが、まだ沢山のゾンビが後ろにいる。
さらに、奥の通路から、ゾンビ達がどんどんやってくる。
これじゃ彼は……いや、絶対に大丈夫だ。
彼は、後から必ず来てくれる。
今は突っ走らなきゃ、私は走る、どこまでも。
「ハァハァ」
息が切れ、白い息が出る。
さらに咳き込む程寒い。
あれから、かなり走って遠くまで来た。
ここは何かの城かな。
地下道みたいな場所で柱が六本も見える。
そして、
は…………ゾンビだ、はやく隠れなきゃ。
私は、崩れた瓦礫の後ろへと素早く身を隠す。
「アア、アアァァァァ」
ゾンビは一人だけらしく、私の姿を見つけたが、来たときには既に見失っていた。
だから、首を振りながら周り見回しつつ、私を探しているらしい。
正直、はやく他所へ行ってくれないかな……と思う。
それに、私の額からは冷や汗が流れる。
たった数十秒しか時間が立ってないのに、かなり緊張感を感じる。
「アアァァァァ~~~~」
数分後、ゾンビはやっと行った見たいだ。
そう判断した私は、これからはうまく隠れたりしながら、彼と合流することにした。
道は長いし、安心も出来ないだろうが、それでも今の私は行くしかなかった。