…………あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
俺は、今たった一人で暗い洞窟を歩いている。
ひたすら、ひたすらに歩きながら、ただ歩みを止めない。
先程の強そうなゾンビ集団からは、完全に一人はぐれてしまった。
今の時間は、いったい何時だろう。
そして、ここはどこだろう……相変わらず何も解らない。
時折、洞窟の土ではなく、煉瓦が積まれた壁や円柱が見える事から推測するが。
ここは、どこかにある城の地下道か、遺跡内かも知れない。
しかし、まるで迷路を歩いている気になるな、出口はあるのか。
(……あっ? まただっ! あの子だっ!? あの子が辺りを見渡し警戒しながら進んでいく……)
そして、俺は取り合えず、彼女に見つからない様に後を着いていく事にした。
何だか、今度は自分が、ゾンビからストーカーに成ってしまった見たいで気が引けるが。
とにかく、付いていって見ようと考えながら進んでいると、女の子を見失ってしまった。
ああーー仕方がない。
しかし、何故あの子が気になる……どうしてだろう。
あの子に関することを知っているような、知っていないような。
(……まあいい……それより肉だ、肉が喰いたいなっ? 肉・肉・肉……)
「……ハラ……ヘッタ…………」
俺は、腹を擦りながら青灰色の煉瓦が、敷き詰められた、狭く長い廊下を進む。
「うわぁーー助けてくれぇーー」
ゾンビに追われた、誰かが発する悲鳴が聞こえて来たので、そちらに注意を俺は向けた。
さっきの二人組に居た、剣士かも知れない。
ならば、殺られた仲間ゾンビの仇を取ってやる。
俺は、両手を前に出し、身を屈めて身構える。
すると、向こうから大剣を背負った戦士らしい奴が、此方に向かってくる。
さっきの奴じゃないな。
「こっちにも、ゾンビッ!? だが一体だけか……向こうよりマシかぁっ! 退けろぉーー!!」
戦士は、俺にタックルをかまそうと、走りながら左肩を前につき出し、ぶつかって来た。
だが、俺は怯まず戦士にしがみつき、ヤツと一緒に青灰色の煉瓦が、敷き詰められた廊下を転び回る。
「くそっ! どけっ!」
戦士が腰から短剣を抜き、俺の胸に突き刺す。
だが、俺は腕を掴み、戦士の喉元に噛ぶりつく。
「うぎゃあああーー」
すると、戦士は耳をつんざくような断末魔の悲鳴を上げ、ほどなくして息絶えた。
そして、不思議なことに突然、俺の脳内に妙な音とともに声が響く。
『スキル獲得、早歩きを覚えました』
何だこれ……RPGじゃないか、てかRPGって何だっけ、なんか知らんがモヤモヤする。
まあいいやと思い、次の獲物だ、肉を探そうと暫く歩いていると、ゴブリンが現れた。
ゴブリンは棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。
だが、すぐに体を引っつかんで、壁に叩き付けて何度も足で踏みつける。
そして、弱った所を噛みつき食い殺す。
その後は、ゴブリン達やスライムと戦いながら奥を目指す。
あっまただ。
通路出口に、あの子を見つける。
三度目だ。
あそこに見えるは、赤みがかった、金髪ロングヘアーを揺らす女の子だ。
見ると、女の子はゾンビ等による群れに追われていた。
先を越されてたまるか。
俺は早歩きで、女の子が向かった左側に向かった。
そして、ゾンビ集団は、遂に女の子を行き止まりにまで追い詰めたらしい。
俺は早歩きしつつ、ゾンビ達が作る群れをかき分けながら、かなり前方に出ると、女の子を見る。
そして、後ろを向くとゾンビの群れ。
じゃあな、お前ら。
獲物は、早い者勝ちだからな。
今の内に、ご飯にするか。
肉、肉、肉、と考えながら女の子が居た方に振り返ろうとすると。
「もしかして助けてくれるのっ!?」
そんな訳ないだろう。
俺は身をくるりと回し、女の子に襲いかかる。
噛ぶりつき、血を吸う。
喉に、首に、頬に、右腕に。
俺はとにかく肉にかじりつき、女の子を痛めつけ、身体を食い破る。
「痛いっ! 痛いっ! 止めてぇーー!?」
そんなこと言ったって、止めれる訳ないだろう。
こっちだって腹が減っているんだから。
その間も、彼女は叫ぶ。
彼女の顔は、右目が食い破れ、左目から下は引っ掻きキズから流れでる血によって、涙みたいになっている。
口は裂けて、喉まで肉が剥き出しになっていた。
そして、彼女は血を吐きながら言った。
「正気に戻って…………………!?」
一瞬俺は固まった。
今のは……コイツは俺を知っていると言うワケか。
どういうことなのか。
おい起きろ、駄目だ物言わぬ骸になっている。
他のゾンビたちは、獲物を俺に取られたことが分かったらしく、どこかへと居なくなっていた。
俺は、彼女の周りで、じっと待ったり、うろついたりしている。
十分くらい、立つと彼女がむくりと起き上がった。
おいと声をかけようとしたが、俺はゾンビだ。
人間の様には、上手く喋れない。
彼女も、ゾンビだ。
お互いしゃべれない。
なので仕方がない……彼女は、ここに置いて行こうか。
そう思った時だ。
「アァァァァゥゥ?」
俺が着ている学生服の袖を、小さな奇声を上げつつ、起き上がった彼女が強く掴んだ。