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第2話 俺は誰だ、あの子は誰だ?


 …………あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか。


 俺は、今たった一人で暗い洞窟を歩いている。


 ひたすら、ひたすらに歩きながら、ただ歩みを止めない。



 先程の強そうなゾンビ集団からは、完全に一人はぐれてしまった。


 今の時間は、いったい何時だろう。


 そして、ここはどこだろう……相変わらず何も解らない。



 時折、洞窟の土ではなく、煉瓦が積まれた壁や円柱が見える事から推測するが。


 ここは、どこかにある城の地下道か、遺跡内かも知れない。


 しかし、まるで迷路を歩いている気になるな、出口はあるのか。



(……あっ? まただっ! あの子だっ!? あの子が辺りを見渡し警戒しながら進んでいく……)


 そして、俺は取り合えず、彼女に見つからない様に後を着いていく事にした。


 何だか、今度は自分が、ゾンビからストーカーに成ってしまった見たいで気が引けるが。


 とにかく、付いていって見ようと考えながら進んでいると、女の子を見失ってしまった。


 ああーー仕方がない。


 しかし、何故あの子が気になる……どうしてだろう。


 あの子に関することを知っているような、知っていないような。



(……まあいい……それより肉だ、肉が喰いたいなっ? 肉・肉・肉……)


「……ハラ……ヘッタ…………」


 俺は、腹を擦りながら青灰色の煉瓦が、敷き詰められた、狭く長い廊下を進む。



「うわぁーー助けてくれぇーー」


 ゾンビに追われた、誰かが発する悲鳴が聞こえて来たので、そちらに注意を俺は向けた。


 さっきの二人組に居た、剣士かも知れない。


 ならば、殺られた仲間ゾンビの仇を取ってやる。

 俺は、両手を前に出し、身を屈めて身構える。


 すると、向こうから大剣を背負った戦士らしい奴が、此方に向かってくる。


 さっきの奴じゃないな。



「こっちにも、ゾンビッ!? だが一体だけか……向こうよりマシかぁっ! 退けろぉーー!!」


 戦士は、俺にタックルをかまそうと、走りながら左肩を前につき出し、ぶつかって来た。


 だが、俺は怯まず戦士にしがみつき、ヤツと一緒に青灰色の煉瓦が、敷き詰められた廊下を転び回る。



「くそっ! どけっ!」


 戦士が腰から短剣を抜き、俺の胸に突き刺す。


 だが、俺は腕を掴み、戦士の喉元に噛ぶりつく。



「うぎゃあああーー」


 すると、戦士は耳をつんざくような断末魔の悲鳴を上げ、ほどなくして息絶えた。


 そして、不思議なことに突然、俺の脳内に妙な音とともに声が響く。



『スキル獲得、早歩きを覚えました』


 何だこれ……RPGじゃないか、てかRPGって何だっけ、なんか知らんがモヤモヤする。

 まあいいやと思い、次の獲物だ、肉を探そうと暫く歩いていると、ゴブリンが現れた。


 ゴブリンは棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。


 だが、すぐに体を引っつかんで、壁に叩き付けて何度も足で踏みつける。


 そして、弱った所を噛みつき食い殺す。


 その後は、ゴブリン達やスライムと戦いながら奥を目指す。


 あっまただ。


 通路出口に、あの子を見つける。

 三度目だ。


 あそこに見えるは、赤みがかった、金髪ロングヘアーを揺らす女の子だ。


 見ると、女の子はゾンビ等による群れに追われていた。

 先を越されてたまるか。


 俺は早歩きで、女の子が向かった左側に向かった。


 そして、ゾンビ集団は、遂に女の子を行き止まりにまで追い詰めたらしい。


 俺は早歩きしつつ、ゾンビ達が作る群れをかき分けながら、かなり前方に出ると、女の子を見る。


 そして、後ろを向くとゾンビの群れ。


 じゃあな、お前ら。


 獲物は、早い者勝ちだからな。

 今の内に、ご飯にするか。


 肉、肉、肉、と考えながら女の子が居た方に振り返ろうとすると。



「もしかして助けてくれるのっ!?」


 そんな訳ないだろう。

 俺は身をくるりと回し、女の子に襲いかかる。


 噛ぶりつき、血を吸う。


 喉に、首に、頬に、右腕に。


 俺はとにかく肉にかじりつき、女の子を痛めつけ、身体を食い破る。



「痛いっ! 痛いっ! 止めてぇーー!?」


 そんなこと言ったって、止めれる訳ないだろう。

 こっちだって腹が減っているんだから。


 その間も、彼女は叫ぶ。


 彼女の顔は、右目が食い破れ、左目から下は引っ掻きキズから流れでる血によって、涙みたいになっている。


 口は裂けて、喉まで肉が剥き出しになっていた。

 そして、彼女は血を吐きながら言った。



「正気に戻って…………………!?」


 一瞬俺は固まった。

 今のは……コイツは俺を知っていると言うワケか。


 どういうことなのか。


 おい起きろ、駄目だ物言わぬ骸になっている。



 他のゾンビたちは、獲物を俺に取られたことが分かったらしく、どこかへと居なくなっていた。


 俺は、彼女の周りで、じっと待ったり、うろついたりしている。


 十分くらい、立つと彼女がむくりと起き上がった。


 おいと声をかけようとしたが、俺はゾンビだ。

 人間の様には、上手く喋れない。


 彼女も、ゾンビだ。

 お互いしゃべれない。


 なので仕方がない……彼女は、ここに置いて行こうか。


 そう思った時だ。



「アァァァァゥゥ?」


 俺が着ている学生服の袖を、小さな奇声を上げつつ、起き上がった彼女が強く掴んだ。

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