ここはどこだろう、体がだるい、めまいがする。
だだっ広い空間に俺はいた。
ここはどこだ。
再び考える。
だが分からない。
分かっている事実は、今居る場所が暗く、広い洞窟の中ということだけだ。
ん……何だか、肉の腐ったような臭いがするが、それに左目も見えない。
俺は自分の体を見ると。
シンプルなデザインの黒い服とズボン、確か学生服を着ていた。
少しボロくなっているが。
だが、それより重要な俺の体は……身体中全身が腐りきっていた。
頬をさわってみると、顔も体も全てボロボロ。
特に、顔の右側から鼻と口にかけては特にひどい。
頬から口の右半分は裂けていて、中に生えている歯が剥き出しになって見えていた。
頭部左側は、額に切り傷が出来て、脳が少し肌の間から見えていた。
右目は、瞼の当たりが傷付いていたが、どうやら失明はしていないようだった。
俺は今………ファンタジーゲーム&ホラー映画のモンスターであるゾンビになっているのか。
『ガタッ!』
物音が、音の方向に目を向けると、ゾンビが二体現れた。
とっさに身構えるが。
どうやら、同じゾンビ同士なのか分からないが、こちらには攻撃して来ない気らしい。
そうだ……話かけようとしたが俺は喋れない、何故なら口がボロボロになっていたからだ。
困った。
どうするべきか、取り敢えず二人について行こう。
右は、灰色に塗装された、中世の鎧と兜を纏った騎士ゾンビ。
左側に居る奴は、黒い尖り帽子と、緑のローブを纏った女性の魔法使いゾンビだ。
今さらだが、ここはファンタジーの世界なのか、何だか元いた世界と違うような気がするが。
そう考えるていると、女性魔法使いのゾンビが勝手にノロノロと動き出す。
「ああぁぁぅぅぁぁぁぁああ」
掠れたような声を上げ、何処かへ向かおうと歩き、それに続く騎士のゾンビ。
自分もついて行こう。
暫く歩いていると前方から人影が現れた。
一人だ。
よく見ると、それは人間、それも僧侶だ……まだ若い。
「ひっ!?」
向こうは、こちらに気づいたのか、杖を握り呪文を唱えようとしてくる。
そこに、騎士ゾンビが腕に噛みついた。
「ガああぁぁっ!」
「ぎいあぁぁぁぁ~~やめろぉーー!?」
騎士ゾンビに噛まれた僧侶は、洞窟中に響く程の大きな悲鳴を上げる。
そんな、泣きわめく彼へ更なる追い打ちを掛けるように。
「ああぁぁあぁぉ」
魔法使いゾンビが僧侶の左足に絡み付き、そして腹に噛じりつき内臓を食べる。
腹から血が吹き出した僧侶は、口からもゴボゴボと血を吐き出し、喉に垂らす。
「神よ……お助け……を…………」
「ああおぅっ!」
僧侶が血を吐き出しながら、苦し気に呟くと、最後に俺が奴の喉に噛みついた。
数分後、僧侶を食うのに飽きた俺たちは、ブラブラと僧侶の体の周りを彷徨いていた。
すると、僧侶の死体が突然、起き上がり出す
かつて、僧侶だった死体は口を開く。
「ヴオォォ~~」
奴も、仲間になった。
次は四人で進む。
すると、少し赤みがかった金色で、長い髪を揺らす女の子が歩いている姿を見つけた。
どうやら、警戒しながら歩いているらしい。
女の子が、こちらに気づき目が合った。
「そんなっ! 何でっ!?」
そんな……一瞬だけ俺の脳裏に、こいつを知っているような感じがした。
だが、それは直ぐに食欲に掻き消された。
だが、女の子は素早く走るから、直ぐに逃げられた。
しまったっと思うが、そこに新たな人間が二人現れた。
一人は焦げ茶色の癖っ毛髪で、南欧風をした顔立ちに、カーキ色に塗装された鎧を纏う。
もう一人は、若い女性で明るい金髪のウェーブパーマヘアで、肩から髪を垂らす。
青と白い法衣を纏う服装から、彼女は僧侶のようだ。
「下がってくれっ! シャル」
「アレリオ、貴方も前に出すぎて油断しないでっ!」
剣士と女僧侶はそう言って、ゾンビの群れを前に武器を構え。臨戦態勢を調える。
「ああ、わかっているって」
そう言うと、剣士は十字長剣で、騎士ゾンビの首を勢い良く切裂き、撥ね飛ばす。
首を跳ねられ、崩れ落ちる、騎士ゾンビ。
そして、女性僧侶が更なる攻撃を繰り出す。
「神の裁きをっ!」
女性僧侶が叫び、メイスで魔法使いゾンビの頭部を潰す。
そして、僧侶ゾンビが二人にかかっていく。
「ああぁ」
「雑魚ゾンビが邪魔だあーーどけっ!!」
剣士は、襲い掛かる僧侶ゾンビを蹴り飛ばし、女性僧侶が追い討ちに魔法を放つ。
「元は同じ神の信徒とはいえ、今はゾンビ……やっつけなければこちらが殺られる、愚かな魂よ安らかに眠りたまえ、サンダーショット」
『ガシャッ!』
一瞬の内に光が飛び、派手な音が僧侶ゾンビにあたる。
そして、僧侶ゾンビは黒焦げになり後ろに倒れる。
次は俺が光を浴びる番だなと思い、覚悟を決め腹を括る。
その時、奇跡が起きた。
『ガラガラッ!!』
右側にある壁が派手な音と共に崩れ、新たなゾンビが数体も土煙の向こう側から、ノロノロと歩いて現れる。
「くっ! 音と臭いで集まってきたか? 逃げるぞ、シャル」
「ええっ! 行きましょう」
剣士と女僧侶は、ゾンビ達に囲まれる前に素早く撤退して行ったので、助かったと俺は思った。
だんだん小さくなっていく二人。
カーキ色に塗装された鎧の剣士&青と白い法衣を着る女性僧侶たち。
その後ろ姿を眺めながら考える。
いつか、必ず今日の復讐を。
よくも、俺のゾンビ仲間を。
今度見つけたら、丸噛じりにしてやると俺は胸に誓った。