私は、自分たちのテントの場所へと戻ってきた。
朝の光が木漏れ日になって揺れていて、少しだけ暖かい。
「おはよう。」
シイナさんが、私が歩いてくるのに気づいて、軽く手を挙げて挨拶してくれた。
「うん、おはよう。」
私も同じように手を振って、笑顔で返す。
少しずつだけど、敬語じゃないことにも……慣れてきた気がする。
「どこへ行ってたんだ?」
「ダンジョンを見つけて……ちょっと、中に入ってみたの。」
言った瞬間、シイナさんの手から何かが落ちた。
ガタッと、地面に硬い音が響く。
「な、なんだって??」
目が見開かれたまま、こっちをじっと見ている。
「エレンがね、私の護身のためにも戦闘の訓練が必要だって言って……。
少しだけ潜って、様子を見てきたんだ。」
私はできるだけ落ち着いた声で説明した。
シイナさんが心配してくれてるのは分かっているから。
「……なるほど。まあ、無事だったならよかった。
でも……今度は俺も一緒に行こう。心配だからな。」
その言葉が、胸の奥に少しだけ温かく染みる。
そんなやり取りをしながらテントへ戻ると、先に戻っていた三人が迎えてくれた。
「おっ、戻ってきたか!」
「待ってましたよぉ〜!」
「おかえりなさい。」
軽く手を振ってくれるその様子に、自然と肩の力が抜ける。
「お前たち……片付けは終わったのか?」
シイナさんが、グレンさんとミストさんに詰め寄るように言った。
「一人だけ本を読んでるサボりなんて許されねぇよなぁ!?」
「そーだそーだぁ!!」
ふたりが息ぴったりに責め立てる。
「俺は遊びで本を読んでるわけじゃないんだが!??」
シイナさんが慌てたように声を上げる。
……多分、研究所関係の資料でも読んでたんだろうな…。
(グレンとミストのせいで、シイナの胃が壊れなければいいが……)
エレンが、どこか同情するような声でそう呟いた。
(そうだね……)
私も苦笑混じりに返す。
「はぁ……」
シイナさんが深くため息をついた。
お疲れ様、シイナさん……。
──
テントの片付けを終えた私たちは、再びナヴィス・ノストラへと向かって歩き始めた。
「シイナさん。」
「ん? どうした?」
「ナヴィス・ノストラまで、この辺りからあとどれくらいかかるの?」
私はその地名を知ってはいたけれど、この場所からの距離まではわからなかった。
「そうだな……あと四日はかかるだろう。」
シイナが地図を見ながら、穏やかに答えてくれる。
「ありがとう。」
そう会話を交わしていたとき――
視界の先、小さな集落が見えてきた。
「ここは……」
シイナが再び地図に目を落とし、確認する。
「ソレアという、穏やかな小さな町のようだな。」
風に乗せるように、みんなに聞こえる声でそう教えてくれた。
「ソレア いい響きですね!」
「それぁそうだ!!!」
え゛っ゛…?
(………。)
グレンさんが、今とてつもなく所長さんネーミングに近い言動をしたような…そんな気がする…。
気の所為かな…?
私の疲れ…??
(エレナ…現実逃避は…良くないぞ…。かく言う私も精神的ダメージを負ったからな。)
とエレンが淡々と言う。
「驚きましたぁ…グレンさん…貴方、いま氷属性を作り出してしまいましたね…。見てくださいよ…この私達の雰囲気…。」
まさに、直で吹雪を浴びたような顔を――
シオンさんがしてしまっていた。
それはもう、魂ごと冷え切ったような……そんな顔だった…。
「そんな酷かったか!??」
グレンさんが困ったように言うと――
「二度と聞かせないでいただきたい。」
シオンさんが一切の迷いなく、真顔でそう返した。
「あはは……」
私は、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった…。