白銀の髪がふわりと揺れ、赤い瞳が静かに輝く。
───
――そこは、ベルノ王国の中央闘技場。
天空にまで届きそうな高壁に囲まれたその舞台は、
かつて古代建築を参考に建造されたとされる“円形闘技城”。
外周の壁は白石を基調にした荘厳な造りだが、
その至る所には魔導細工によって浮かぶ紋様が刻まれている。
夜になると、それが淡く光を灯すのだという。
そして――私がこれから立つ“試合の舞台”。
そこは、魔導石によって強化された床が敷かれた、地面に設置された円形の戦闘フィールド。
赤茶色のレンガが隙間なく敷き詰められ、まるで古代剣士たちの“戦いの祭壇”のようだった。
観客席からは、その舞台全体を見下ろせるよう設計されており、
どんな一手、どんな呼吸も――すべてが視線に晒される。
剣がレンガを擦る音さえ、観客の鼓動と共鳴するように響き渡る。
まさに、“見られる戦い”。
それが、この闘技場だ。
「ふふ……どうやら、さっそく私の出番らしいな」
初戦の相手は、炎を操る騎士見習い・グレン。
“見習い”とはいえ、その実力は折り紙付き。油断はしない。
私はゆっくりと、闘技場の中央へと歩み出た。
⸻
「さぁさぁ!魔法闘技のルールを説明するぞぉぉ!!」
実況の声が、空間を割るように響き渡る。
「選手には“透明化する祝福の鎧”を装備してもらう! 舞台から場外になったり、鎧が破壊されたら即・敗北!」
「ぶった斬られても大丈夫! 治癒の祝福付きで大怪我は最小限!」
「さらに、気絶も即負けだ! 以上ッ! あとは純粋なバトルを楽しんでくれェェ!!」
観客席が揺れる。
歓声、足踏み、爆ぜるような興奮。
まるで大地そのものが沸き立っているようだった。
以前はこういう見世物には興味がなかった。
だが今は違う。
“強者と剣を交える”――それだけで、胸が騒ぐ。
(……楽しそうだね、エレン。わかってるよね?)
(ああ。抑えるさ。だが――)
(だが?)
(予想以上に……良い目をしている)
私の返答に、エレナは少し黙った。
⸻
そして。
対面に現れた青年が、まっすぐこちらを見据えていた。
逆立つ金髪が太陽のように輝き、立ち上げた前髪の下から、オレンジがかった眼差しがギラリと光る。
着ているのは、白を基調に赤いラインが走る王道の騎士服。
斜めに入ったスリットが、動きやすさを重視した設計で、まさに“情熱”と“正義感”をそのまま纏ったような出で立ちだ。
「アンタが“S級剣士”エレン……ってやつか?」
「ああ。よろしく頼む」
「女だったとはな……けど、容赦はしねぇぞ?」
軽口のようでいて、目に宿るのは侮りではない。
“見極め”の視線だ。
(いい反応だな……だが、試してくるなら――それなりの覚悟がいる)
「ふふ。おうとも。全力で来い」
「……へぇ。俺の噂、あんま聞いてねぇみたいだな?」
彼が腰の剣を抜いた、その瞬間。
私も静かに、刃を引き抜いた。
視線が交差し、火花のように空気が張り詰める。
──ゴォォォーーン!!──
王国の鐘が鳴った。
それが、“開戦”の合図。
私は迷いなく地を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、胴へ鋭く一突き――!
「っ……うぉっ!?」
咄嗟に防がれた。
火花が弾け、金属音が空に響く。
ガキィィン!!
「やるじゃねぇか……! なら、こっちの番だ!!」
グレンの剣に炎が灯る。
燃え盛る魔力が刃に集い、そのまま振り下ろす――!
私は一歩、左に跳び、同時に剣を振り抜いた。
「ぐっ……!」
鋭い斬撃が、彼の鎧を斬り裂く。
硬質な音と共に、体勢が崩れたその瞬間――
私は踏み込んで、迷いなく蹴りを放つ。
ドガッ!
「……ッ!」
身体が弾かれ、グレンは尻もちをつく。
そのまま地面に手をつき、驚愕に染まった表情でこちらを見上げていた。
「ま、まじかよ……!」
刃を交えた一瞬で、体勢を完全に奪われた衝撃。
その動揺が全身からにじみ出ていた。
そして――
「エレン!!エレン!!エレン!!」
観客席から湧き上がる、地鳴りのような歓声。
興奮と賞賛が波のように押し寄せる。
私は静かに、剣を構え直す。
(まだ……満足には程遠い)
燃え上がるのは、会場ではない。
この“剣の感覚”――それこそが、私を熱くするのだ。