ケインさんは真面目に剣術修行をしているが、俺達はそろそろ飽きたのである。
人の修行を見ているのも何だしね。
アイドルの二人も『モグ』に夢中だが、ケインさんの修行にはあんまり興味がなさそうだね。
「ケインさん、俺達は三人で狩りでもしてきますよ」
「そうか、お昼になったら来てくれ、みんなでどこかにランチに行こう」
「そうしますか」
みんなでお昼は良いね。
それまで、カスミちゃんとユカリちゃんとで、どこかに狩りに行こうか。
「狩りって言ってもねえ」
「言ってもねえ」
「三人で十階から下は危ないね」
それもそうだなあ。
「五階まででぶらぶらしますか」
「それが無難かなあ」
『ゴリラ達がいれば、十階以下でも平気とは思うが』
『まあ、安全第一だよ、アイドルだしね』
そうだねえ。
『モグ』が何か言いたそうに、こちらを見上げていた。
「なによ」
「きゅきゅーい」
「何か着いてこいって言ってるみたいよ」
「ユカリちゃん、なんでわかるの」
「なんとなく」
やっぱり才能というか霊感あるよね、この子。
「面白そう、『モグ』くんに案内してもらおー」
「おー」
「そうだね」
『モグ』を先頭にして歩き始めた。
一面の草原なんだが、どこに連れて行ってくれるのかな。
だまって『モグ』の後を付いていく。
「結構歩くわね」
「迷宮の端まで来て無いかな?」
「端まで来るとどうなるの? 行き止まり?」
「なんだか空間が歪んでいて、上の端に着くと下の端からでてくるよ、左の端だと、右の端からでてくんのよ。凄く広い草原に見せかけているんだけど、実はそんなに広くは無いらしいよ」
「なんだか、凄い魔法だなあ」
ん? なんだか草が茂ってゲートみたいになっている場所に『モグ』は入って行くな。
「どっかでー……、あ、トトロだこれ」
「そうそう、あったねえ」
『モグ』の大きさは子トトロぐらいだけどねえ。
レベルアップしたら大トトロぐらいになるのかな。
草のトンネルをかがんでくぐっていく。
なんだか、子供の頃の森の冒険みたいで楽しいね。
『草迷宮……、こんな所あったか?』
『三階は大昔に居ただけだけど、見た事無いなあ』
『というか、三階は、スライムに角兎であまり美味しく無いから、すぐ四階行っちゃうんだよな』
草で出来た迷宮を『モグ』に案内してもらってしゃがんで移動する。
いたた、もうおじさんなんで腰が痛いね。
「あれ?」
「宝箱だ」
草迷宮の中心あたりに、銀色の宝箱が置いてあった。
「え、隠し宝箱?」
『すげえ、三階にそんな場所が』
『うおお、『モグ』の歩いたルートをプリントアウトだっ!』
『銀箱すげえなあっ!』
「おーー」
「おーー」
「おーー、どうしよう」
「ヒデオさん、宝箱の鍵は?」
「え、そういう物持ってるもん?」
「もんだよ、私持ってるよ」
ユカリちゃんがポケットから小さな鍵を出した。
「開けよう開けよう、銀箱だと良い物入ってるよ。収納袋とか」
「いや、それは超大当たりでしょうよ」
ユカリちゃんが宝箱の鍵穴に鍵を入れて、回した。
カチリ。
銀の宝箱が開いた。
中身は!!
「おー、ポーション三、キュアポーション二、毒消し二の薬品セットだね」
「まーまー」
「買うと高いんでしょ、この手のお薬」
「高いからヒデオさんが持っていてよ」
「いいのかい、君たちの分け前は?」
「『モグ』くんの贈り物だから、ヒデオさんに権利があるし、ヒデオさんが薬品もってたら、みんなに使ってくれて安心でしょ」
「でしょでしょ」
「ありがとうね、二人とも、あと『モグ』も」
「きゅーきゅー」
俺は薬品類をウエストポーチに入れた。
何か合ったときに回復できる手段があるのは良いね。
『三階に隠し迷宮とは……』
『端が解りにくいから盲点だったんだなあ』
『まあ、三階のポップ宝箱だから中身は知れているが』
『子供とかに良いんじゃね?』
『だが取るのはうろうろしているおじさんw』
『おじさんは楽して宝箱取る所が大好きだからなあ』
さて、『モグ』と一緒にうろうろしていたら、お昼ぐらいになったね。
「厳岩師匠のところに戻りますか」
「「帰ろう帰ろう」」
「きゅーきゅー」
こうして見ると『モグ』は結構良いなあ。
土のある階だと潜って偵察に行けるし。
ただ、岩場の洞窟とかだと駄目かもね。
シチュエーションによって使い分けだね。
厳岩師匠の元に戻ると、みんな修行を一休みしてお茶を飲んでいた。
「おう、来た来た、ランチに行こうぜ」
「みんなで行きますか?」
「そうそう、俺が奢るよ」
「おお、ケインさん太っ腹」
「いいのかえ? ケインや」
「師匠への福利厚生ですよ、あと、兄弟弟子とのね」
「ゴチになりますよ」
霧積くんはにっこり笑った。
さて、みんなでランチに行こうか。