「こんなに貰って、いいんですか? サッチャンさん」
「いいのよ~♡ きっと配信人気で返してもらえそうだからあ~♡」
そう言って、俺に何か色々渡してサッチャンさんは帰っていった。
「良かったね、Dスマホの最新型だよ、定価で八万とかするね」
「そ、そんなに、困ったなあ、おじさんスマホが苦手なんだよ」
「とりあえず、私の番号入れておきますね」
「あ、私も私も」
「私も入れる~」
「えー、知らないおじさんの携帯に自分の番号入れるのは良く無いよ」
「大丈夫、ヒデオだから」
「ヒデオさん良い人だから」
「善人だから」
「度胸無さそうだしねえ」
ほっといてよ、ヒカリちゃん。
「七万円も儲かったから、何か奢ろうか、ハンバーガーとか」
『サザンフルーツ』の三人は、プッと吹き出した。
アイドルはハンバーガーとかを食べないのかな。
「大丈夫、社長が今来ましたから」
ミキちゃんの視線を追っていくと、何やら精力的そうな出来るサラリーマン風の男性がカッカッカと早足でやってくる所だった。
「やあやあやあやあ、ヒデオさん、初めまして、私は高橋源一郎と言います。Dアイドルの事務所である、リーディングプロモーションの取締役をやっております」
「こ、これはご丁寧に、丸出英雄と申します」
俺は高橋社長さんにペコペコと頭を下げた。
あれだよね、社会の成功者の人ってハキハキして覇気があるよね。
おじさんとは人種が違う感じだなあ。
「ミキ、ヒカリ、ヤヤ、大変だったね、配信を見たよ」
「うわーん、社長~~」
「怖かったです~~」
「ヒデオさんのゴリちゃん達が助けてくれました」
ああ、『サザンフルーツ』の子達も気を張っていたんだろうね。
社長に泣きつくその姿は、見た目通りの高校生ぐらいな感じで、ちょっとほっとしたよ。
高橋社長と俺と『サザンフルーツ』は迷宮ロビーの応接セットに腰掛けた。
というか、ここは勝手に使って良いの?
怒られて追い出されないかな?
「大丈夫だよ、ヒデオさん、ここは配信冒険者達が打ち合わせをしたり、狩りの儲けを分配したりする場所だから」
「あ、ああ、顔に出てた? あははは」
ミキちゃんは人の事を良く見ているなあ。
世話好きそうで良い娘さんみたいだな。
ヒカリちゃんは明るくて言いたい事をすぐ言ってしまうムードメイカーだね。
ヤヤちゃんはやさしくておっとりしているタイプだな。
ミキちゃんは事件の事をかいつまんで高橋社長に伝えていた。
ヒカリちゃんとヤヤちゃんも補足的に情報を足しているね。
「お話は伺いました、改めてお礼を言わせてもらいます」
高橋社長は改まってそう言った。
「い、いえいえ、お礼とかは何にも、大した事ではありませんし」
「ヒデオさん、あなたは我がリーディングプロモーションに所属しているDアイドルの命を救ってくれたのです。どんなにお礼を言っても言い過ぎという事はありませんよ」
「いやいや、そんな、おおげさな」
「ヒデオがいなかったら私たちは死んでるし、凄い事になってたよ」
「ヒデオさんとゴリちゃんは私たちの命の恩人ですよ」
「本当にありがとう、ヒデオさん」
口々にお礼を言われて、おじさんは嬉しいけどなんだか困ってしまうなあ。
「ところで、ヒデオさん、ご職業は冷凍倉庫で、日雇いの冷凍食品の運搬をやっておられるとか」
「はい、冷凍倉庫は結構大変でしてね、かくれてこっそりゴリ太郎、ゴリ次郎に手伝ってもらったりしてましたね」
「ああ、それで倉庫番なんだ」
「なるほどねえ」
「大変そう」
まあ、フォークリフトが使えない時とかだけどね。
基本は人力とフォークで運んでいるんだ。
あんまりゴリ達に頼ると不審に思う人も出るからね。
「ヒデオさん、リーディングプロモーションからあなたにお願いがあるのです。『サザンフルーツ』の専属護衛として雇われては頂けないでしょうか」
そう言うと高橋社長は頭を下げた。
えええええええ。
おじさんなんかを護衛に?
大丈夫なのかい?
おじさんは自慢じゃ無いけど華という物が無いよ。
あ、まあ、護衛だから別に華はいらないのか。
山下さんも、野末さんもゴツかったけど、華は無かったね。
「ヒデオ、一緒に迷宮に潜ろうよ」
「お願いします、ヒデオさん」
「ヒデオさんと一緒なら安心です」
ううーん、どうしようかなあ。
今日はビギナーズラックで七万円も稼げたけど、毎日それくらい狩れるとは思えないしなあ。
だとしたら、芸能事務所でアイドルの護衛の仕事をするのは良いかもしれないなあ。
正直冷凍倉庫の仕事はそろそろ体がキツいと思ってたんだよねえ。
でも、迷宮はコワイ所だし、悩む所だよねえ。
「ええと、その、リーディングプロモーションさんのお世話になるとすると、その、お賃金が頂けるのですか?」
「はい、月給でお支払いしますし、従業員の寮もありますよ。健康保険、福利厚生も完備です」
おお、芸能事務所なのに、ちゃんとしてるんだなあ。
「社長、配信料は?」
「うーん、そうだね、配信を見に来るお客さんはヒデオさんのゴリ君たちを楽しみにしているのだから、リーディングプロモーションじゃなくて、ヒデオさんの直持ちだね」
「そうね、その方が良いと思います」
配信料ってなんだろう?
まあ、問題にして無いみたいだから、微々たるお金なんだろうな。
「それより、まず、どうして、アイドルが迷宮を潜ってるの?」
全員の表情が曇った。
「「「「そこからか~~」」」」