「石松くん、悪い事はやめなさいよ」
「なんだこの寝癖小太りオヤジは? アアン?」
「悪い事をすると、将来、後悔する事になるんだよ、石松くん」
「うっせっ!! 邪魔するならお前も一緒に血祭りだ、ヒャッハーッ!」
石松くんと半グレ仲間たちはズバンと剣を抜いた。
しかたが無いなあ。
俺はゴリ次郎を前に出して石松くんを懲らしめてもらうことにした。
ゴリ太郎でもいいんだけど、彼はすぐ頭に血が上って殺しちゃいかねないからね。
その点ゴリ次郎はクールだ。
「殺さないでね」
《ウホウホ》
バッキュン!!
ゴリ次郎が腕を振ると石松くんが鼻血を吹き出しながら後ろに吹っ飛び壁に激突して悲鳴をあげた。
「ぎゃああっ!! なんだ、なんだっ!!」
四人の半グレは何が起こっていたか解らず固まった。
そこへゴリ次郎が二撃、三撃、四撃、五撃。
半グレたちが綺麗に吹っ飛び、つぎつぎに壁に激突していく。
「す、すごい、おじさんのゴリちゃん」
「本当に魔法みたい」
石松くんが再び立ち上がり、何だか解らない奇声を上げてこちらに走りよろうとした。
だが、その進路にはゴリ次郎が居るんですねえ。
ゴキュン!!
「はぶああああっ!!」
またも石松くんは壁に激突して悲鳴を上げた。
「おじさんっ、殺しちゃって」
「え、殺したら駄目でしょう」
「ここは迷宮だから、治外法権なのよ、お巡りさんも来ないし、大丈夫っ」
「大丈夫じゃないよ、駄目だよそんな事考えたら」
どんな悪い奴でも自分の一存で殺してはいけないよ。
そんな事をしたら気持ちに歯止めが効かなくなるからね。
危ないんだよ。
半グレどもを床に正座させた。
「さて、おじさんが一番最初に聞きたいのはね、トレインってなに?」
「そこからなのっ!」
「トー、トレインというのはー、自分を魔物に追いかけさせて、いっぱい集めてですねー、他のパーティになすりつける、め、迷惑行為ですー」
「そうなんだ、おじさん迷宮初めてだから初めて聞いたよ。結構ある事なの?」
「滅多に無いよ、こんなの治安の悪い六階から十階でたまにあるぐらい」
ヒカリちゃんが石松くんのお尻をゲシゲシと蹴りながら言った。
「治安悪いんだ、ここらへん」
「日本の法律が通じないからね、半グレとか不良とかが集まって凄く悪いよ」
「でも、このまえ大ボスの人が倒されたのでちょっと治安良くなったかも」
「そうなのかー、で、君たちは誰かに頼まれたのかい? 石松くん」
「え、ああ、そ、それは兄貴が、『サザンフルーツ』を始末してこいって」
「ふーん、みんなは誰かに恨まれてるのかい?」
「うーん何だろう、覚えが無いなあ」
「殺すほど恨まれてる、かなあ?」
「まだ、そんなに売れて無いんだよねえ」
とりあえずこの子たちはアイドルグループで、敵対している人がいるみたいね。
トレインで大事にならなくて良かった。
「では、石松くん、今後悪い事をしないと約束したら、放してあげるよ」
「え、お、おお、その……」
「ヒデオ、甘いよっ!」
「半グレの人なんか信用しちゃ駄目っ!」
「事務所の人に渡して、背後関係を吐かせましょうよっ」
「そんな事を言ってもね、五人の半グレさんをおじさん一人で面倒見切れないんだよ。かといって殺しちゃうのも可哀想だし、だから約束して貰って放す、です」
「……、あー、また俺らが兄貴に言われて『サザンフルーツ』を狙ったら、あんたは、どうすんよ?」
「また懲らしめるね。三回もやれば懲りるでしょ」
「……、わかった、ヒデオが『サザンフルーツ』と一緒に居る時は、俺は襲わねえ。約束する」
「解った。もうみっともない事しちゃ駄目だぞ、石松君たち」
「……、変なオヤジだなあ。じゃあな」
石松君たちは迷宮の奥に消えて行った。
「ヒデオ、甘い」
「甘いです」
「あんな人達を信用するなんて」
「まあ、信用しちゃう方が面倒が無くて良いんだよ。おじさんは裁判官じゃないからね、裁いちゃ駄目なんだよ」
ヒカリちゃんがやれやれと首を振った。
何か軽快な音楽がミキちゃんの方から鳴った。
「あ、社長だ、はい、ミキです。はい、はい、何とか助かりました。山下さんと野末さんの遺体も運んで貰ってます。悪魔教会にお願いしても良いですか。はいはい」
ミキちゃんがスマホを取りだして、誰かと会話していた。
悪魔教会に何しに行くのだろうなあ。
なんだろう、メタルロックの祭典があるような無いような場所だなあ。
「ロビーで社長が待ってるそうです、ヒデオさんにお礼が言いたいそうですよ」
「そんな事良いのに、ほら、触れあう袖も多少の縁とかなんとか言うでしょ」
「まあまあ、命を救われた訳だし」
「ヒデオさんは頼りにならない感じだけど、ゴリちゃん達は頼りになりますし」
「あと、魔石の売り方とか、教えてあげるよ。Dスマホも買っとくと良いよ」
「おじさんには、スマホとか難しくてねえ、まだガラケーなんだよ」
俺はポケットに入れたボロボロの携帯を出した。
「うわ、まだ使えるのコレ?」
「あ、なにげに中はスマホっぽい」
「お年寄りの使う奴だ」
「電話ができればいいのよ」
「もー、お礼に最新型を買ってあげるから」
「え、要らないよう」
「だめっ、ヒデオにIT革命を起こさないと」
そんな事を言いながら、『サザンフルーツ』の三人と俺は迷宮の階層を登って行った。