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3. 『レンタル彼女』

3. 『レンタル彼女』



 衝撃的なあまりにも予想外の告白に、ボクの頭は完全にキャパオーバーを起こしてグラグラと大きく揺れた。


 いや……別に、同性愛に対して偏見があるとかそういうわけじゃなくてね?ただただ、ずっと憧れていた手の届かない存在だと思っていた葵ちゃんが、まさか女の子が好きかもしれないという事実に心底驚いてしまっただけなんだ……


 今は多様性の時代だって言うし、誰が誰を好きになろうと、それはその人の自由だと思う。だから葵ちゃんが女の子を好きになるのだとしても全然ありだと思う。


 ちなみに、ボクは別に男の子が好きなわけじゃない。むしろ、普通の男の子と同じように、可愛い女の子が好きだ。ただ、それとは別に、こうして可愛い女の子の格好をすること自体がすごく好きなだけなんだ。この気持ちは、きっと誰にも理解してもらえないだろうけど……


「実はね。私、結構学校では男子から人気あるんだよ?でもさ……みんな、私と付き合いたいだけ、ただヤりたいだけの下心が見え見えで、本当にうんざりしちゃって……それで、だんだん男の子のことが、心底どうでもよくなっちゃったの」


「そっ……そうなんだ……」


 まぁ……こんなにも可愛くて、スタイルも良くて、誰からも好かれるような美少女が彼女になったら、そりゃあ、大抵の男子は色々なことを考えると思う。陰キャでオタクのボクだって、正直なところ、少しばかりはそういうことを想像したりするけれど……


「それで……それからずっと、どうしても男の子のことを好きになれなくなって、もしかして私って……本当に女の子が好きなのかもしれないって思うようになって……でもさすがに友達にはそんなこと言えないしさ?今日、思い切って試しにレンタル彼女サービスを使ってみたんだ。そしたら、まさかの相手がドタキャンっていうオチだったんだけどね。あはは……」


 つまり、葵ちゃんは『レンタル彼女』を利用して、自分が本当に女の子を好きなのかどうか、確かめようとしていたってことか。なんだ……別に、本当に女の子が好きだと確信しているわけではないんだ。でも……自分の気持ちと、真剣に向き合おうとしているんだ……そんなところも……なんだか、すごく可愛いと思ってしまった。


「ごめんね、初めて会ったばかりなのに、こんな変な話しちゃって。でも……私、本気だから。本当に、ちゃんと恋愛がしたいの……自分の本当の気持ちを、ちゃんと確かめたいって、真剣に思ってるんだ」


「……なんで、それを私に?今日、初めて会ったばかりだし、別にそんなこと隠していても良かったのに……」


 戸惑いを隠せないボクが、そう問いかけると、葵ちゃんは少し考えて、ポツリと呟いた。


「うん。なんか不思議と話しちゃったんだ。雪姫ちゃんはなんだか話しやすいし、それに……雪姫ちゃんなら、私の気持ちを、少しは理解してくれるんじゃないかなって……思ったんだ」


「え……?」


 ……葵ちゃんは、これから、レンタル彼女のサービスを、引き続き利用するつもりなんだろうか……もしそうだとしたら、どんな女の子と会うんだろう?少し、胸の奥がざわついた。


 確かにボクも、今日初めて話したのに、葵ちゃんとはなんだか不思議と話しやすかった。それに、憧れの彼女のことについて、もっと色々知りたい、という気持ちが心の奥底から湧き上がってくる。


 そんな想いが頭の中を駆け巡る中、ボクは、まるで何かに突き動かされるように、口を開いていた。


「なら……わっ……私と『レンタル彼女』やってみる?」


「え……」


 口に出してしまった後で、自分が何を言ったのか、ようやく理解して、顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。葵ちゃんの、驚いた表情が目の前で固まった。


「あっ、いや、その……葵ちゃんが、もし嫌じゃなかったら……その……」


 ボクは、一体何を言っているんだ?こんな突拍子もない提案、彼女に迷惑なだけだ。しかも、ボクは男の子なんだぞ?可愛い女の子の格好をしているだけで、中身は紛れもない男だ。


 でも、一度動き出したボクの口はもう止まらなかった。ただただ……彼女のことをもっと知りたいという、抑えきれない気持ちだけがどんどん大きくなっていた。


「雪姫ちゃんも……女の子が、好きなの?」


「あっ、いや、違くて!そういう訳じゃないんだけど!私……あの……友達がいなくて……その……葵ちゃんと、仲良くなりたいって……すごく思って。それに週末だけ!週末だけの秘密の約束。それなら、葵ちゃんも余計なお金がかからないでしょ?それに……まだ、葵ちゃんが本当に女の子を好きかどうか、分からないんだし、私は葵ちゃんと友達になれるし……その……一石二鳥かなって……」


 我ながら、なんて言い訳がましいんだろう……でも、必死だったんだ。


「そっ……そうだね。雪姫ちゃんは、私のこと友達として、私は雪姫ちゃんを。……でも、本当にいいの?私と友達になるなんて迷惑じゃない?それに……私のこと変な子だと思わないの?」


「変だなんて、全然思わない!むしろ、自分の気持ちと、真剣に向き合おうとしているんだなって!それに……私も……また葵ちゃんに会いたいし……」


 本心だった。


 今日、ほんの少しの時間しか一緒にいなかったけれど、葵ちゃんの笑顔は、ボクの心に深く刻まれていた。


「本当に?嬉しい……ありがとう、雪姫ちゃん!」


 葵ちゃんの顔がパっと明るくなった。その笑顔を見て、ボクの胸の奥にも温かい光が灯ったような気がした。


 そして別れる時、ボクたちはぎこちなく連絡先を交換し次の週末にまた会う約束をした。


 こうして、ボクは週末だけ『白井雪姫』として、憧れの葵ちゃんの友達兼期間限定の『レンタル彼女』になったのだ。まさかこんな展開になるなんて夢にも思わなかった……


 これから、一体どうなってしまうんだろう?ドキドキと、少しの不安と、そして何よりも大きな期待が、ボクの胸の中で渦巻いていた。

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