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【週末の白雪姫 】~憧れのあの子と始めるナイショの関係~
【週末の白雪姫 】~憧れのあの子と始めるナイショの関係~
夕姫
現実世界ラブコメ
2025年04月14日
公開日
9,983字
連載中
ボクは週末だけ『偽りの白雪姫』に変わる。ただ……憧れのあの子に会いたいから。 主人公の白瀬勇輝(しらせゆうき)は高校3年生。学校では陰キャのオタク。身長も低く、顔立ちも幼い、女の子のような高い声。勉強も運動も苦手。毎日クラスメートからバカにされる日々。そんな勇輝はオタク仲間から誘われたコスプレをきっかけに、週末だけ『女装』をするようになる。 新しい自分。外を1人で歩けば周りの男の子から声をかけられ、女の子からも可愛いと言われる。『女装』することで普段のストレスから解放される勇輝。 いつものようにお気に入りの喫茶店に行くと、そこで偶然にも憧れの女の子である隣の席の藤咲葵(ふじさきあおい)と出会ってしまう。 そんな葵は今流行りの『レンタル彼女』サービスをやっていて…… この物語は、お互いの悩みを通して色々変化していく、時に真面目に、時に切なく、時にドキドキ展開……も?『男の娘×恋に真面目な小悪魔系美少女』のただひたすら甘酸っぱいをお届けする新感覚多様性ラブコメディ 週末の土、日更新

1. 週末の白雪姫

1. 週末の白雪姫



 きっかけは本当に突然だったんだ……


 コミュ障で陰キャのオタクのボクが、生まれて初めて、たった一度だけ勇気を出して大勢の人が集まるコミケに『コスプレ』をして参加した時のこと。


 オタク仲間に半ば強引に唆されて、大好きな推しのキャラクターになった。しかも……まさかの『女装』。当日まで本当に嫌で嫌で仕方がなかったんだけど……いざ会場に着いてみると、周りの反応は想像していたものと全然違ったんだ。


『あの子可愛い』って遠くから聞こえてくる声。信じられないことに、写真まで撮らせてほしいって言われて、わけのわからない撮影会みたいになっちゃって。


 普段のボクに対する反応とのギャップに、頭がクラクラしたけど、正直悪い気はしなかった。むしろちょっとだけ嬉しかったんだ。


 ボクの名前は白瀬勇輝。高校3年生。学校では誰からも相手にされない陰キャのオタク。身長も低いし、顔立ちも幼い。それに女の子みたいな高い声のせいで、いつもクラスメートからバカにされる毎日。


 漢字は違えど『ゆうき』なんて名前負けも良いところだよな……って、いつも心の中で思ってる。そんなボクには、誰にも言えない秘密があったんだ……





「う~ん……バッチリ!今日も可愛い!」


 鏡の前でくるりと一回転して、お気に入りのポーズを決めてみる。そこに映っているのは、どこからどう見ても可愛らしい女の子。そう……週末だけ、ボクは『女装』にハマっているんだ。いわゆる『男の娘』ってやつ。


 だって、あのコミケの時の感覚が忘れられないんだもん。普段の自分では絶対に味わえない、新しい自分になれたあの感覚が……


 それ以来、ボクは週末になると、可愛い服に身を包んで外出することにハマってしまった。今日も例外なく、とっておきのコーディネートに袖を通して、意気揚々と家を出る。


「今日はどこへ行こうかな……最近駅前にできたおしゃれなカフェも気になるし、近所の公園でのんびり過ごすのも良いかも……でも……」


 色々と考えたんだけど、結局いつもの喫茶店に行くことにした。あそこはレトロな雰囲気が最高だし、落ち着いたBGMを聴きながらぼーっとするのが好きなんだ。何より、マスターが作る手作りのケーキが本当に美味しいから。


 電車に揺られること数十分。目的の駅に到着したボクは、逸る気持ちを抑えながら足早に喫茶店へと向かった。カランコロン……扉を開けると、いつもの優しいベルの音と、鼻をくすぐるコーヒーの香りがボクを出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ」


「あの……ケーキセットお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 マスターに注文を済ませて、いつもの窓際の席へと座る。ここはボクにとっての特等席。大きな窓からは、どこまでも広がる青い海が一望できるんだ。今日は天気も良いから、海がキラキラと輝いて本当に綺麗。そんな景色をぼんやりと眺めていると、マスターが注文したケーキセットを丁寧に運んできてくれた。


「お待たせしました。こちらがご注文のケーキセットになります」


 早速フォークを手に取り、一口ケーキを頬張ると、口の中にふわっと甘さが広がる。あぁ……やっぱりここのケーキは絶品だ。思わず顔が綻んでしまうほど美味しい。


 幸せだなぁ……この甘いケーキも、落ち着けるこの喫茶店の雰囲気も……そして、こうして可愛い服を着て外出する時間も……何もかもが満たされるような、そんな優しい気持ちになれるんだ。


 そんなボクの、ちょっと間抜けな顔を、マスターがなんだか微笑ましそうに見ていることに気が付いて、慌てて表情を引き締める。


 それからボクは、ゆっくりと温かいコーヒーを飲みながら、目の前に広がる穏やかな海を眺めていた。すると、カランコロンと、入り口のベルが鳴った。珍しいな……他のお客さんが来るなんて。ここの喫茶店は、知る人ぞ知る穴場で、普段はあまり人がいないんだけどね。そんなことをぼんやりと考えていると、マスターと入ってきたお客さんの会話が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


「はい。アイスコーヒーを1つ。あの、待ち合わせなんですけど……えっと……まだ来てないみたいで」


 ……ボクは一瞬、自分の耳を疑った。


 その声は、聞き間違えるはずのない、とても聞き覚えのある声で……


 心臓がドキドキしながら、恐る恐るその子が座った方へと視線を向ける。サラサラとした黒髪のロングヘア。すらりとしたスタイルで、ボクよりも少しだけ背が低い。まさに『美少女』という言葉がぴったりな、可愛らしい女の子だった。


 そして、間違いなくボクの知っている人だった。


 彼女の名前は藤咲葵さん。ボクと同じクラスの、しかも隣の席に座っている子。誰もが認める美人で、頭も良くて運動神経も抜群。誰からも好かれる、クラスのアイドルみたいな存在。いつもたくさんの男子から告白されている……そんな彼女に、ボクはずっと『憧れ』を抱いていたんだ。だって、彼女はまさにボクが理想とする可愛い女の子そのものだったから……


 そんな子が、どうしてこんなところに……?


 混乱する頭で必死に考えようとしたけど、頭の中が真っ白になって、何も考えられない……一体なぜ彼女がここに?そんなことよりも……もしボクが『女装』をしていることがバレたらどうしよう!?


 パニック状態になりながらも、時間は残酷にも何事もなかったかのように過ぎていく。それと同時に、ボクはこの喫茶店を出る絶好のタイミングを完全に失っていた。


 もしかしたら、彼女が待ち合わせしている人物が気になっていたのかもしれない。どうしよう……でも、まだバレたわけじゃないし……このまま、気づかれないようにやり過ごせばいい……はず。すると、ふと彼女と目が合ってしまった。


 まずい!完全にバレた!? 焦ったボクは、慌てて視線を逸らし、窓の外の海を見た。心臓がバクバクして、冷や汗が止まらない。すると、彼女は突然立ち上がり、信じられないことに、ボクの方へと向かってくる。


(あ……もう、終わった……)


 そんなボクの最悪の予想を裏切り、彼女はボクのすぐ側まで来て、優しい声で話しかけてきた。


「あの……少しお時間ありますか?約束していた人に、急にドタキャンされちゃって。もしよかったら、少しお話ししたいなぁって……ダメですか?」


 彼女はボクが男だってこと、いや、隣の席の白瀬勇輝だってことに全く気づいていない?それとも、もしかして気づいていて、あえてスルーしてくれているのか……?混乱しすぎて、思考能力が完全に停止した頭では、何も考えることができずに、ボクは無意識に小さく『はい』と答えていた。


「初めまして。私は藤咲葵って言います。よかったら、お名前教えてもらえますか?」


「えっと……」


 とりあえず、いつもの自分の声じゃない、少し可愛らしい声を作って……名前……どうしよう?今のボクは、女装をしている時の名前なんて特に用意していなかったんだ。早く何か答えなければ!頭の中がフル回転するけど、なかなか良い名前が思い浮かばない。


「し……しら……い……ゆ……きです」


「『しらいゆき』さん?」


「うっ……うん!しらいは、普通に白い色の白に、井戸の井。ゆきは、冬に降る雪……に、お姫様の姫です!」


「そうなんですね?なんだか……『白雪姫』みたいで、とっても可愛いですね!」


 そう言って、天使のような本当に可愛い笑顔をボクに向ける藤咲さん。その眩しい笑顔にドキッとしてしまう。でも、良かった……なんとかバレずに、誤魔化せたみたいだ。


 これが、ボクこと『白井雪姫』と、憧れの藤咲葵さんの、まさかの初対面だったんだ。まさか、こんな形で彼女と話すことになるなんて、夢にも思わなかった……


 これから、一体どうなっちゃうんだろう?期待と不安が入り混じって、心臓がドキドキと高鳴っていた。

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