ウジェニーさんに引っ付かれたままで迷宮の出口を目指す。
ああ、疲れたな、それで歩きにくいのだが。
転移の間を抜けて階段を上がる。
ああ、外の光が見えてきた。
帰って来たんだなあ。
ゲートの係員が冒険者カードを確認する。
「はいどうぞ、お疲れ様です」
「ありがとうございます」
ファイヤードレイクを倒して無いので魔石の申請や素材の買い取りは無しだ。
「ウジェニーさんは買い取りは?」
「もう荷物持ちさんたちがやってくれているのです」
Sランクパーティには事務処理や雑用をしてくれるメンバーがいるみたいだね。
ゲートを出ると、リネット王女が仁王立ちをしていた。
「マレンツ先生、よくご無事で……、あなた邪魔よ」
「ほっといてください、王家のお姫さまでも私とマレンツ博士との絆を壊す事はできませんっ」
リネット王女はウジェニーさんに近づくと鼻の上にシワを寄せた。
「あなた、臭いわ」
「!!!」
ウジェニーさんは一瞬で離れた。
ああ、迷宮の深層で一週間籠もっていたからね。
水場ではオゾンの匂いで解らなかったが、確かに甘ったるい感じの匂いがしていた。
そんなに嫌いな匂いではなかったけどね。
「わ、私っ!! クランハウスでお風呂に入ってまた来ますっ!!」
「ウジェニーさん」
私は踵を返したウジェニーさんを呼び止めた。
「は、はいっ!」
「ありがとうございました、助かりました」
「い、いえいえいえいえいえっ!! マママ、マレンツ博士の為ですからっ!! 愛するあなたの為でしたら、なんでもありませんっ!! またですっ!!」
ウジェニーさんは走って逃げていった。
あっちの方に『黄金の禿鷹』のクランハウスがあるのかな。
クランハウスというのは、パーティのアジトだね。
ホテルに泊まるのもお金がもったい無いので、共同で家を借りているパーティが多い。
『黄金の禿鷹』団のクランハウスはどんな所なんだろう。
「やっと邪魔者が消えたわ。マレンツ博士、あなたのお陰で命拾いしました、本当にありがとうございました」
「なんとか撃退できました。『黄金の禿鷹』団の協力のお陰です」
「よせやい、マレンツが粘ったお陰だ、俺らは何もしてねえよ」
「その通り、あなたはなかなか凄い魔術師でありますね」
神経質そうな青年がそう言った。
「ああ、私はベネデット・カンビアーゾ、黄金の禿鷹団で遊撃手をやっております」
「よろしく、マレンツと申します」
私はベネデットさんと握手を交わした。
さすがはS級冒険者、がっちりとした手であった。
「あと二人、黄金の禿鷹団にはメンバーがいるんだが、ちょっと九十二階でやられちまったんで今はクランハウスで休んでる、今度紹介するぜ」
「お願いします、ウゴリーノさん」
私はリネット王女に向き直った。
「魔王が出ました、竜を連れて転移で逃げていきました」
「魔王!!」
リネット王女と近衛騎士団長が目を大きく開いた。
「俺も見た、こんな浅い階にドラゴンが出たのも魔王の仕込みかもしれねえ」
「魔王……、国境で魔王軍も怪しい動きをしているし、これは何かの予兆かしら」
「わかりません」
「わかりました。マレンツ博士、今回のお手柄への王家からの報償は期待していてくださいね」
「いえ、そんな大した事は……」
「何を言っているのですか、私を助ける為に自分を犠牲にしてドラゴンを誘導したその姿、今でも目に浮かびそうです。ああ、マレンツ博士はそんなにも私を大事にしてくださったのね」
「え、ああ、まあ、そうですね」
リネット王女が死んだら、王国の損失ではあるからね。
これだけ利発な王女様を失う事は出来ない。
「マレンツは姫さんじゃなくて、がきんちょたちと一緒に助けたかっただけだと思うがねえ」
「な、なによ、ペネロペ、嫉妬なんか見苦しいわよっ」
ペネロペはやれやれと肩をすくめて口をつぐんだ。
ギルドの方から、銀のグリフォン団のメンバーが全速力で駆けてきた。
「ハカセ~~!!」
「みんな、怪我は無いかい」
「ないっ、ないっ、ハカセは!!」
「私も大丈夫、黄金の禿鷹団の人に助けてもらったよ」
「そうかっ、よかったー」
四人の子供は私に抱きついてきた。
子供の体温は高い。
ああ、この子達が無事で良かったなあ。
私は、四人をまとめて抱きしめた。
「さあ、レイラさんに報告に行こう」
「いないよ」
「居ない?」
「なんか用事で出てるらしいよ」
どこかに行ったのか、報告を早くしたいのだが。
「ギルドの酒場で何があったか聞きながら待ちましょう。私もギルマスには報告しなければならない事があるし」
「そうですね、リネット王女」
「いこういこう、ウゴリーノ師匠と、ベネデットの兄貴も」
「ドラゴンの戦いを教えて~」
「魔王さん、どんなだった、怖かった?」
「私もかい。小さな
「まあ、ベネデットさんたらっ」
「さすがは迷宮都市の色男ナンバーワンねっ」
ベネデットさんもモテモテだね。
銀のグリフォン団のメンバーに手を引かれて、私たちは広場を横断してギルドへと向かった。
遠い山に日が沈みかけて、街は燃え上がっているように赤い。