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第2話 干し草OL、いきなり二人暮らし(体一つ)。

『昨日未明、都内の雑居ビルで血まみれの女性が発見され、病院に搬送されました。女性は間もなく死亡。刺し傷が多数あることから、警察は殺人事件として捜査を進めています──』


──う、うぅぅ……ん。


なんか、アナウンサーの声が頭に直接響いてくる。……って、テレビつけっぱなしだった。そりゃ寝苦しいわけだよ。


それにしても、すごい夢だった。

黄泉の国っぽい場所で、謎の亡霊とおしゃべりとか……。いやいや、そんな非科学的なこと、あるわけ──ないよね? ……ないってことでいいよね?


とりあえず、むくりと起き上がる。ふらつくけど、大丈夫、大丈夫(たぶん)。

着替えを済ませながら、ふと首筋に触れると、ほんのり鈍い痛み。転倒したときにぶつけたんだろうか。あの風呂場大惨事の名残か……。我ながら、しょーもなさすぎて泣けてくる。


とにかく、夢は夢。亡霊?うん、あれはきっと、疲労とストレスとアルコールの共同制作だ。


よし、気を取り直して──昨日の続き、読んじゃおうかな。

推し作家の新刊にダイブ!これはもう、現実逃避って名の正当防衛だ。


と、ベッドに身を投げ出した、その瞬間──


『……ねえ、あなたって変わり者なの?』


……は、はいいいいいっ!?!


『だってさ、花鉢の量すごいし、部屋中が本だらけ。おまけに盗撮グッズ?いやー、マニア度高すぎでしょ……ま、贅沢言ってられないけど』


背筋がぞわっとした。

誰も招いたことのないこの部屋で、はっきりと〝女の声〟が聞こえた。


ど、どこ!?誰かいるの!?


『ここよ、ここ。あなたの心の中だってば』


ひぃぃっ!こわっ!!

なになに!?まさかこれ……本当に霊的なやつ!?


『さっき挨拶したじゃん。〝ごめん遊ばせ~〟って』


えっ……ウソでしょ……

夢に出てきた、あの亡霊!?


『自己紹介するわね。わたくし、伊集院ララ。二十六歳。あなたの肉体に宿った霊魂よ。よろしくね』


宿った?

いやいやいや、勝手にそんなことされても困ります。ていうか、割と最近の人だった!?


『だって、あなた死のうとしてたじゃない?だからわたくしが代わりに入ってあげたの。そしたら急に割り込んでくるから、びっくりしたわよ~』


……じゃあ、あれ夢じゃなかったってこと?

いや、そんなはず……でも、声ははっきり聞こえるし、状況的にもヤバいほどリアル。

ああもう、確実に〝現実〟が崩れていってる。


「あ、あの、百歩譲って、そういうことだとして……。やっぱり私、生きることにしましたので申し訳ないですが、出て行ってもらえませんか?」


できるだけ冷静に、礼儀正しくお願いしてみる。


『それはもう無理みたい。ていうか、先に入ったのはわたくしだから、今あなたが〝間借り〟してる状態なんだけど?』


──なんで!?

なんで私の身体なのに、私が〝間借り〟扱いなのよっ!?


『あー、でも……もし、わたくしが出て行くとしたら──』


「出て行くとしたら……なんですか?」


『う~ん、そうねぇ。復讐が果たせたら、成仏できるかも』


「復讐……ですか?つまり、あなたはこの世に未練があって亡霊になっていた。それで、魂が抜けかけてた私に気づいて、ここぞとばかりに乗っかった──と?」


『ふふ、察しがいいじゃない。まさにその通りよ』


「その〝未練〟って、具体的には?できる範囲で協力はしますから……その代わり、終わったらちゃんと出て行ってくれますよね?」


『いいわよ。わたくしの願いは……ある男を抹殺すること。彼を見つけて、殺してちょうだい!』


……は!? こ、殺すって……!?


いやいやいや、それ私が殺人犯になるパターン。できるわけないでしょ、そんなの!


『あら、殺し方ならいくらでもあるわよ?』


だから、そういう問題じゃないのよ……って、ん?


……さっきからずっと引っかかってた。

この人(?)、こっちが口に出してないことにも反応してる。レスポンスが早すぎる。


『ああ、それね。気にしないで。あなたの思考、ぜーんぶ見えてるの。言葉にしなくても、わたくしには丸わかりなのよ。うふっ』


うふって。あのね、気にしないでって言われても、気になるに決まってるでしょ!大問題だわ!

こっちはあなたの考えなんてちっとも分からないのに、それってズルくない!?


『当然でしょ。だってこの肉体の〝主人〟は、わたくしなんだから。お分かり?主人は、


……最悪だ。人生最大のバグ。

なんでこんな訳わからない女に、私の身体を乗っ取られなきゃいけないの。


しかも心の中まで見透かされてるとか……え、これも聞こえてる?やっぱりバレてる?もう恥ずかしすぎる!


『ま、そういうわけで!一つの肉体に二つの魂が共存しちゃった以上、もう仲良くするしかないわよね?ギブアンドテイクってことで、じょさん!』


「その呼び方はやめてくださいっ!!」


……ああ、自分の中に、他人がいる。


──しかも、24時間、常時アクセス可でフルタイム勤務。

これが鬱陶しくなくて何なのよ。

ひとりの世界が大好きな私には、かなりハードモードすぎるんだけど。


どうしよう……

誰かこのバグ、アンインストールして。






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