美春さんの軽自動車に乗り込んで金閣寺に行った。
嵐山から意外に近いのか。
大きい駐車場が割と空いているね。
「まだシーズンじゃないからね」
「行楽シーズンは混みそうですね」
「すっごいわよ、お祭り時期の京都とか」
「一度行って見たいですね」
「今度の山矛にいらっしゃいな、泊まりは家で良いし」
「いやあ、申し訳無いですよ」
「Dリンクスさんなら大歓迎よ」
美春さんは意外にDチューブファンなのかな。
「美春さんは陰陽師も陰陽鍛冶もやってないんですか」
「やってないわ、陰陽師になるには神力が足りないって、あと陰陽鍛冶は女性はなれないのよ」
「そんな、前近代的な」
「陰陽関係なんて前近代よ」
美春さんはほがらかに笑った。
ん、なんか、Dチューバー系半グレな感じの奴らがいるな。
三人、Dスマホで何か連絡しているようだ。
「網を張られたかな」
「まあ、三億円だからねえ」
「え、なになに?」
「あ、こっちの話」
とはいえとっさに武器とリュートが出せるようにしないとな。
半グレ相手なら鏡子ねえさんが良いんだが。
居ないからしかたがないね。
拝観料五百円を払って総門をくぐる。
落ち着いた感じで良い場所だなあ。
「金閣寺って一休さんの将軍様が作ったのよね」
「そうだねみのりさん、よく知ってるね。足利義満三代目将軍が別邸として作ったんだよ」
「泥舟君は歴史に詳しいわね」
「いや、それほどでも」
泥舟が照れて笑った。
しばらく歩くと池が見えて来た。
そして、その奧に金閣寺が見えてきた。
ああ、良い景色だなあ。
「舎利殿だねえ」
「中に入れるの?」
「入れないなあ、外から見るだけだよ」
金色の建物が池に映って夢の中みたいな光景だな。
「綺麗ねえ、今日は晴れていて綺麗に見れてよかった」
「前の時は天気悪かったのか」
「小雨で、傘さして見たよ、それでも綺麗だったけど、今日の方が良いなあ」
そう言ってみのりはこちらを見て笑った。
「タカシと見れて良かったよ」
「うん、それは本当」
「ありがとう、泥舟、みのり」
うん、なんだか嬉しいな。
そうか、この寺は千年も前、金時の籠手と同じぐらい昔に出来たんだなあ。
そう思うと感慨深い。
千年前から俺たちを待っていてくれたんだなあ。
「そういや、金閣寺、何回か燃えているんだよね」
「二回だね、応仁の乱の時と、昭和のアレな人の放火で」
な、なんだよ、昭和に再建されたのかよ。
ま、まあ、綺麗だからいいや。
道は金閣をぐるりと回るように続いていた。
結構近くまで行けるんだな。
ピカピカだ。
道は森の中に入り、泉とか小さな滝とかがあった。
石段を上がって行くと小さな池があった。
「Dチューバーになってレベルアップしてね、疲れにくくなったよ」
「それはあるね」
「昔は石段とか上がるとハアハア言ってたけど、今はすごい平気」
確かにそれはあるね。
心肺機能とか持久力が高くなるから疲れにくくなるんだ。
意外とダンジョンアタックは体も使うしね。
茶室があって、御朱印所があった。
あと、お不動さんだな。
「あ、抹茶ソフトだって」
みのりがでででとお茶屋さんに寄って行った。
「あ、お抹茶セットだって」
「美味しそうだね」
うむ、五百円か、なかなか安いかな。
「ちょっと一息ついていきましょうか」
みんなでお茶屋さんに入る事にした。
外の茶席でみんなで座って、お茶を頂く。
うーむ、抹茶だな。
「うん、なかなか美味しいね」
「泥舟君、お茶の味解るのか~」
「まあね」
「和の達人だねえ」
俺は良くわからないから金箔が付いた和菓子を食べるぜ。
わ、餡がしょっぱい、不思議な味だ。
でも、嫌いじゃ無いかも。
ああ、良い雰囲気だなあ。
だけど、駐車場に戻ると、たぶん半グレが居るんだよなあ。
面倒臭いね。
「みんなで京都に来れて良かった、鏡子おねえちゃんが居ないのが残念だけどね」
「ねえさんは騒ぐからなあ、でも居ないと確かに寂しい」
「ふふ、それはあるね」
「みんな仲良しなのね」
そうなんですよ、美春さん。
まあ、メインはねえさんの装備作りなんでしょうがないんだけどね。
階段を降りると、金閣寺の参道は終点だ。
お土産物屋さんの向こうに第一駐車場が広がり、半グレが五十人ぐらいうんこ座りをしていた。
「また、ずいぶん集まったわねえ」
美春さんが呆れ声を出した。
あれ、気が付いていたの?
奴らは駐車場の出口を塞いでいるので排除しないと出られないな。
美春さんは自動車の後ろハッチを開けた。
金属製の弓を取り出す。
「もう一個あるからみのりちゃんも使う?」
「あれ、これって?」
「素材工学の粋を集めた新型コンパウンドボウ、うちの研究室の製作の物」
そう言うと美春さんは矢壺を腰に付けて弓を引き絞った。
どう見ても
「えへへ、お爺ちゃんには内緒よ、レベルは15、ワーウルフは突破済」
「そうだったんですか」
なるほどね。
「初手は定石通り、鏑矢で開戦の合図ね」
鏑矢は放たれ、ピュイイイイと甲高い音を立てて、半グレの群れの真ん中に突き刺さった。
半グレどもが立ち上がる。
俺は収納袋から『暁』、手盾、泥舟の手槍を出した。
「みのり、リュートは?」
「今回は美春さんの弓をためすよっ」
「足狙ってね、足、頭に当たると死んじゃうから」
「はいっ」
よし、開戦だ。