「うちの校風は、来るもの拒まず去るもの破滅、ですから」
「さ、去るもの、破滅……?」
そう言うと会長は立ち上がり、胸元のネクタイを外し、シャツのボタンを一つ外した。
「え……」
僕は咄嗟に目をそらした。でもそれは恥ずかしさによるものではなくて、彼女の素肌から放たれる魔力の波動に当てられそうになったからだ。これって確か、魅了の自動魔法? しかも、対魔法使い特化型のチャーム……?!
「男性であるあなたなら、社会的に破滅させるのも容易いでしょうが」
会長は低い声で、そう囁いた。今いる場所の名前が、自然と脳裏に浮かぶ。
「ファム・ファタール……!」
「ご明察」
彼女は笑みを含んだ声でそう言った。僕は慌てて離れようとしたが、体が動かない! 彼女の両手が、フードの中にまで侵入してくる。
「ま、待って……!」
「……冗談ですよ」
会長は僕の耳元でパチンと指を鳴らす。するとまるで金縛りから解放されたかのように、僕は自由に動けるようになった。
「この学校も、常に人材不足なのです。どんな理由であれ、私たちはあなたを歓迎します」
彼女はそのまま僕のフードを外すと、床に転がっていたままだった仮面を拾って僕の頭に載せた。まだ頭がクラクラする。そんな僕を見て、彼女はクスリと笑った。
「そして私たちがあなたに求めることは一つだけ。死なないことです」
彼女の声色は、いつの間にか元に戻っていた。
「死なないこと?」
「はい、死なないことです」
「そんなの……言われるまでもない」
僕は反射的に呟いていた。二度も死に損なってきたんだ。世間一般的に、生き残ることというのは幸福なことなのだろう。であれば僕は、そういう星のもとに生まれた、世界一幸福な魔法使いだ。
「合格です」
「え……?」
彼女は僕の手を取ると、その甲に軽く口づけをした。
「今日からあなたは、ファムファタール女学院の生徒です。これからよろしくお願いします、サイカさん」
「は、はい……」
僕はそう答えるのがやっとだった。視線を外すと、レンと呼ばれていた案内役が苦笑いをしながらため息をついているのが見えた。
「……さて」
会長は椅子に座り直すと、軽く伸びをした。
「以上で面接を終わります。私はこれから
「ではサイカさん、ご案内します」
「お願いします……えっと……」
「私のことは、レンとお呼びください」
「れ、レンさん……あの、あれ……?」
僕はまだうまく力が入らず、椅子から立ち上がれなかった。するとレンさんが、そっと背中に手を当てて僕を支えてくれた。なぜか、どこか懐かしい感覚だった。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
レンさんの目が一瞬弧を描いたような気がしたが、すぐに元の表情に戻ったので僕の見間違いかもしれない。
「ありがとう、ございました……」
僕は何とか一礼して、またレンさんの背中についていく。部屋を出る時ふと気になって振り返ったが、生徒会長の姿はすでになかった。
「失礼、しました」
僕たちが廊下に出ると、生徒会室の扉に立ち入り禁止の文字が黒く浮かび上がった。部屋の中には、もう誰もいなかったはずだけど……。
「サイカさん、先程はすみませんでした。会長はすぐ人を試したがる癖があって……。特に、男子生徒の入学は初めてですから」
彼女は申し訳なさそうに笑顔を浮かべた。
「あ……お気になさらず」
僕もまた笑顔でそう答えた。レンさんはそれを聞くと安心したのか、少し息を吐いた。
「ありがとうございます」
「それで……今日はもう帰っても……」
「では次に、あなたの新しいパーティーメンバーを二人、紹介します。もうそろそろ、戻ってくるころですので」
「あっ……はい……」