少し遡り、2章の春の感謝祭にまつわる、本編に上手く盛り込んで書けなかった小話です。
色々なキャラの視点からとなっております。
少女漫画で言うと巻末の四コマみたいなものです。本当は2巻に付くと良かった。
【寝言と謝罪】 第10話後 ユージーン
「むにゃ……ごめんなさい……」
過労で倒れ寝落ちてなお夢の中で誰かに謝るこのワーカーホリックは本当にどうしたものか。
「あの時……ごめんね……ジーンくん……」
うなされだした。どうしたら良いのか分からない。エミリアも寝ていて頼れない。
「ごめん……」
動転して髪をぐしゃぐしゃにしてしまった。
「間違えて好きなお菓子食べてごめん……。素材棚の並び順勝手に変えてごめん……。ドラゴン語り二時間もしてごめん……」
思ったよりしょうもない。しょうもなくて良かった。
【服に興味がない人】 第11話後 アマリ
「アマリも女の子なんだし、ちょおっとくらい、服にこだわりとかないわけぇ? いーっつもおんなじようなシャツ着て」
ベラは可愛い服が大好き。たくさん作って人に可愛い服を着せたがる。新作ドレスをエマに着せて満足したかと思った(エマには申し訳ないことをした)けど、まだ足りないみたいだ。
「こだわりあるよ。むしろ強いよ。暑くなくて寒くなくて肌触りが良くて高くなくて可愛すぎなくて少しかっこいい落ち着いた服が良い」
「言われてみれば強ぉっ!?」
断り文句を並べると、ベラは頭を抱えていた。申し訳ない気持ちはある。そこでふと思いついた。
「本当にこだわりのない人は逆になんでも着るよ。本当に」
頭に浮かんだ人物を連れてきてみた。
「本当になんでも着るのウケるわぁ」
「こんなことで報酬に素材貰って良いのか?」
フリフリのネグリジェを着せられても真顔で佇む友人にベラは大層ご満足だったようだ。
【掴みどころがない男】 第11話後 ジャスパー
「ジャスパー」
後ろから声かけられてビビった。デカいのに気配がねえ。ギルドにお師匠居るの珍しっ。
「エミリアを舞踏会に誘ったらしいな……」
とか思ってたら突然の怒られチャンスにそわつきマックス。この人怖そうだから怒られてみたかったんよな。
「礼を言おうと思ってた。ありがとう」
って、お礼なんかーい。
「まさかの怒られ発生なし!?」
「弟子に歳の近い友人が出来て良かった」
むしろご機嫌らしい。ちょい笑ってる気する。
「……ふうん、友人ねえ。俺あの子狙ってるよ? 下心ありあり」
そこで言ってやった。お師匠はちょい鈍感っぽい。
「そうなのか?」
「ん、お叱りどうぞ!」
両手を広げて待機。でもお師匠は反応いまいち。
「俺はエミリアの父親でも恋人でもないから怒る筋合いが無い」
「えええ!? 薄情か!?」
「そもそもお前は根が善良だ。傷つけたりしないだろ」
と思ったら突然とんでもねえやこの人。
だって嘘とかお世辞とか苦手そうじゃん。てことはさ。
「俺お師匠苦手かも……」
顔見られたくねえなって下向いてもお構いなし。
「被虐趣味があるならそれは逆に好かれているのか?」
哲学か。良いから早よ帰ってくれんかな。
「それとも普通に嫌われているのか? 俺はそういうのが本当に分からないからはっきり言ってくれ」
「独特の方向に人の心がねえ……。嬉しいです……」
ガチで焦りだすんだからガチだこの人。
【モテモテです】 おまけ2後 エミリア
「アマリさん、さぞやご令嬢の皆様から箱いっぱい部屋いっぱいのクッキーを贈られたことでしょうね……」
ライバルが沢山いることは承知の上。アマリさんが帰宅してしまう前にとっておきのクッキーを差し出します。
「え? いやいや、えーと、合計で六個かな。全部魔道具関連のお礼で貰った物だし」
と、衝撃の事実を伝えられます。
「え!? こんなに素敵な男装女子が爆モテしないなんてこの国のご令嬢の皆さん間違ってますよ!?」
「そんな。戦闘は弱いし、口論だって強くないし、怖がりで意気地がない方だ。ドラゴン好きの変わり者だし、不器用で迷惑をかけることも多い。仮に本物の男性だったとしても多分モテるタイプじゃないよ」
義理六個でも多すぎるくらいだ、と眉を下げてくしゃりと笑ってみせます。
その自虐癖が玉に瑕です。
でもそこも良いのに。
「でもでも、賢くて、優しくて、温かくて、私は大好きです」
「……ありがとう。だからこそ、こうして自分を慕ってくれる人のことは大切にしたいと思ってる。大事に食べるよ」
そっと両手でクッキーを受け取ってくれて、心底嬉しそうに微笑まれました。心臓に悪いほど魅力的な笑顔です。
もう、どうして皆さんこの方の素晴らしい魅力が分からないのでしょうか。
と、憤っていると、後ろで放置された状況を楽しんでいたジャスくんがひょこりと話に入ってきます。
「ここで情報通の俺が余計な情報をご提供。アマリ様が気づいてないだけで六個全部本命な」
「え?」
「ちな半分が男性から」
「あ、うん。そうかも。……え?」
「思ってたのとモテ方の方向性が違ったけど爆モテしていらっしゃる!!」
ああ、ごめんなさい、やっぱり魅力そんなに分かられすぎないでほしいです。