目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第21話 レッツメイクアマアマブレッド ①

 こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い調術師です。


 そういえば住居さえ知らなかったため、アマリさんに聞き出し、ジャスくんの住む職員寮へとやって来ました。突撃職員寮の朝ご飯。

「と、いうわけで、付き合ってください」

「え? 何? 突然の愛の告白系?」

 単身用のその部屋は少し狭くも清潔で──流石はジャスくんの部屋らしくまるで生活感のないほぼ空っぽの部屋でした。

「違います」

 違います。かくかくしかじか。

「と、いうわけで、爆裂パンを作るための素材採取と、私の修行に付き合ってください」

 事情を説明すると、ジャスくんはニヤリと笑いました。


***


 そしてやって来たるは守りの草原。

「そっざい〜、さいっしゅ〜!」

 4話以来ですね。城壁を出てすぐの、背の低い草木ばかりで見渡しの良い初心者向け探索エリアです。

「うーん、やっぱり空気が気持ちいい。パンに合う美味しい空気ですね」

「平和すぎん?」

 チーズトーストを懐から取り出して食べようとすると、その時、それを奪い取って行った魔物が。

「あ、あれは!」

「トビマウスかぁ。動き止めりゃ一発の雑魚敵」

 空高く飛び上がった魔物を目で追っていると、ジャスくんがアドバイスをくれました。

「さてどうする!? 興奮して来たっしょ! 例えばアマリ様が使う水属性の魔法は凍らせたり泡に閉じ込めたりで相手の動きを奪う制御系に強いんよ! んで、お師匠の使う風属性の魔法は竜巻に鎌鼬にを起こして物理攻撃の威力を上げるし追い風で素早さアップも出来て前衛向き的な! でも光魔法でも目をくらませて落とすのもありだし、雷魔法で磁場を操るのもアリだね、闇魔法で呪いをかけて動きを奪うのもアリ!」

 ジャスくんは戦闘が大好き。長々とアドバイスをくれます。私の周りってこんな人ばかりですね。

「まずは自分で考えますね。ちょっと黙っててください」

「ひゅーっ!」

 私の修行のため、ジャスくんは後ろで下がっていてくれてます。大人しくしているようお願いしたら、動けないように自ら手錠を付け呪いをかけ火の輪を付けその他諸々で自らの動きを封じて興奮した様子でした。

「チーズチキンバーガー、良いですね」

 ではさっそく、動きを止める魔法を、と言いたいところなのですが。私はその魔法が使えません。

 さて、それでは、今までパンと無関係なので触れてこなかった、この世界の魔法の基本について突然触れてみます。ご興味のない方は数行ほど読み飛ばしてくださいませ。

 忘れがちですが、基本的にブライグランド王国は剣と魔法の冒険者の国なのです。

 我が国の魔法学では、魔法は炎属性、水属性、風属性、雷属性、光属性、闇属性の6属性に大別されます。

 多くの魔法使いは、その属性のうち1〜2属性を得意属性とします。

 しかし私の場合は──

「エマっち何属性得意系?」

「ぶっちゃけ全部ダメです」

「マ?」

 そういう人もいるのです。優秀なお偉い魔法使い様たちにはそれが分からんのです。

「へえ、パンを焼く時に使う炎属性とか得意じゃないん? 俺とオソロかと思ったのに」

「え!? ジャスくん炎魔法がお得意なんですね……?」

 こちらも忘れがちな設定なので振り返ってみましょう。ご興味のない方は数行ほど読み飛ばしてくださいませ。

 ジャスくんは戦闘が鬼強すぎて、退屈しのぎに魔法を使わないというセルフ縛りプレイの戦いを楽しみ、その結果隣国の騎士団から追放されたイカレドM騎士です。追放理由に理不尽さのかけらもない至極正当な追放。

 いえ、つまり本当は炎魔法も使える魔法騎士だということです。天は二物を与えまくり。

「…………オーブンとかお好きですか?」

「炭化間違いなしだからやめとき?」

 なんて言っている間に、トビマウスは逃げ出してしまいそうです。

「ええと、ええと、ジーン先生が持たせてくれた魔道具の中に……。あった!」

 ガサゴソと鞄を漁り、泡石の杖を取り出します。

「いち、にの、さん、せいやっ!」

 その杖を振ると、あら不思議。魔物の周りに水の泡が現れ、動きを止めます。

「せいや!」

 さあ、いざゆかん。水属性の魔石、蒼玉魔石を投げると、次の瞬間、強い冷気が魔物を包み込みます。しばらくすると、凍ったトビマウスが地上に落ちて来ました。

「討伐完了です!」

 無事に戦闘を終えました。しかしチーズトーストはもう食べられそうにもありません。

「……戦いって、辛いですね」

 私が肩を落とすと、ジャスくんはぽんと慰めてくれました。


 辛いながらも地道に経験値を積み重ねていくのみです。

「やっぱ魔道具ってすげー」

「まあこれ、全部ジーン先生の作ったものですけどね」

「でもエマっちも同じもの作れるんしょ?」

「昔からのレシピがある魔道具ですからね」

 さて、雑談をしつつ討伐をこなすうちに、日が西に傾いてきました。

 パンに関係のないことをしていると時間が経つのがあっという間です。不思議ですね。

「花実竜、出ませんね」

 撤収を考えていたその時でした。

 オイシーワ、と吠え声が聞こえます。

 花実竜です。花実竜の鳴き声がします。そして鼻腔を擽る甘い匂い。間違えようもありません。振り返るとそこには──

「……え?」

「あ、やべ、エマっち強運?」

 たしかに花実竜が飛んで居ました。

 ──でも。

 しかし、その大きさが、おかしいのです。

 家よりも大きいくらいの巨大な竜が、私達という獲物を見つけ、だらりと涎を垂らしていました。

「これヌシじゃん」

 ぶるりと背筋が凍りました。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?