人類の成長が、技術の飽和によって完全に停滞した。
無限に近い質量生成と超光速技術を獲得し、ビッグバンによって生まれた宇宙全域の観測に成功すると、このビッグバン宇宙もまた、なんらかの全体の一部であると分かった。
拡散する宇宙は、なにかを押し退けているのではなく、空間と言えるものに広がっていると、誰もが観測結果として告げた。しかしそこには「全く観測できる数値の存在しない暗黒」があった。
Numerical Blackと名付けられたそれは、空間と定義していいかもわからない、人類の叡智が通用しないどころか、情緒と知恵、または創造の限界のようだった。
人類は五千万年の時間を用いて、天の川銀河二百億光年周辺の星を観測し、必要であれば上陸した。
生物を有する星はいくつもあったが、人間ほどに知能のある生物は存在しなかった。人間という生物の形も、どの星に移住しても大きく変化しなかった。
人類の原点、地球がそうであったように、人類が地へ降り立つと、その技術を用いて、命を制圧し、干渉し、操作し、その星の歴史を嘲笑するようなスピードで自らの生活圏を築く。
星間での関わりは、光速移動などによる距離的・時間的問題で、情緒的な関係とは程遠いものになる。人類は五十から百億人程度の人口規模の星系または艦隊で独立し、外部の人類とは、輸入・輸出の数字以上の関係を持てなかった。もはや人類の総数を誰も把握していない。
どんな文明を開こうと、ここは暗黒に囲まれた浮島だ。
数値のない暗闇に数多の科学者が挑戦しようと最前線へ進み出た。
「我々は我々の生まれた森の歴史も、その果ても、空の青さも理解することのない、蟻の一群だ。」
そんな言葉を残して、誰もが例外なく、前線から消えていく。もはやこの宇宙全域に、発見など存在しなかった。
そんな中、とある航行計画が打ち出され、全ての星に住む科学者達に伝達された。
それは空間の圧縮と膨張による光速を超えた航行を、その一隻のみで可能な船を作り、数値の存在しない暗闇に向けて発射しようという計画だった。
結果として、五百万人近い人材と十五の星間の行き交いの中、百年をかけてその計画は完成する。
海上から深海へパチンコ玉を投げ入れるだけというような、あまりにも成果のない計画。しかしどうしてもそこに意義を見出してしまう共感に、誰もが苦笑しながら涙を流し、抱き合った。