世界には表と裏がある。人は時にひょんなことから裏へと足を踏み込むことがある。
それは誰にでもある話で、高校に通っている水瀬ナギもまた同じだった。
”コードを取得しました。あなたは承認されました。これから送信される指示に従って駅まで来てください”
メールにはそう書かれていた。
「なんだこれ、新手のチェンメ……?」
ナギが訝しむが、その疑問を抱かせないかのように次のメールが届いた。
”xx時xx分、秋葉原駅にある古びたエレベーターまで。それにのってください。あなたが向かう場所はそのあとに気づくでしょう”
メールの内容に困惑しつつも、好奇心には勝てずに内容に従ってしまった。
指定された時間、指定された駅、そこにはないはずの”古びたエレベーター”が存在していた。
恐る恐るボタンを押すとガシャンと音を立て扉が開いた。
警戒しながらエレベーターに乗るとボタンを押す前に扉が閉まり降りていった。
「何なんだ!?」
ナギの声はただエレベーターの中で反響するだけで誰も答えてはくれなかった。
エレベーターが下へ向かい続けて数分が経過したころ、到着を知らせる音とともに扉が開いた。
ナギはエレベーターを出る。すると見たことがない駅舎が広がっていた。
光源などない、闇に包まれ……看板もかすれていて読めない。
ただ一つわかるのはすぐそこのホームに列車が一両止まっていることだけ。
「ここまで来て引き返すのも違うな……」
ナギは列車に乗り込んだ。そこにはすでに乗り込んでいた数名がいた。
「君も呼ばれた感じ?よろしくね!」
一番最初に話しかけてきたのは琥珀色の目をした金髪の少女だった。
少女は自己紹介を始める。
「私は結城リサ。メールを受け取ってきてみたらここに来たって感じ?君もそうだよね!」
「そうだね、みんなもメールを?」
そういうと同乗していた全員がメール文を見せるように携帯の画面を見せた。
「俺は三峰ユウマ。よろしく」
周りが自己紹介する中、一人だけ携帯を凝視し操作していた。
「君は?」
リサが問いかけると顔を上げた。
「えっと……私は伏見ハルカ。みんなと同じでメールを見たらここにいて……」
「みんな従ってたらここにいた感じだもんね」
「あんなチェンメスルーしておけばこうはならなかっただろ」
「でも従ったからここにいる」
”まもなく列車が発車いたします。皆々様お忘れ物等ございませんようお気を付けください”
割り込むように発車アナウンスが鳴り響く。しかしどこかノイズが走っており聞き取りづらくなっていた。
「動き出すみたいだな」
「これからどこへ向かうんだろう」
列車が動き出したと同時に携帯に一つの通知が入る。
”Archiveの断片を入手しました。生み出すか保持するか選択してください”
突然の通知に困惑する。
生み出すか保持するか、それが意味するところは分からないが全員はひとまず保留にした。
「意味が分からない……」
「アーカイブって何のことだよ」
怪訝そうに話し合う中列車はドンドン前へ進んでいく。
ハルカがあることに気づく。
「みんな!窓見て。大変なことになってるよ!」
その声を聞いて全員が窓を見やる。
窓の外はまるで映像が壊れたかのようなノイズが走っており、見ているだけで目を痛めそうな光景だった。
「なんだよこれ……」
「わからない。でもこれだいぶヤバいんじゃない?」
「ヤバいなんてもんじゃない。もっとマズい何かに巻き込まれたんじゃ……?」
車内のどよめきを気にしないかの如く進み続ける列車。
やがて列車は動きを止め駅のような場所へとたどり着いた。
その場所は光など一切通らず暗闇が続いていた。
暗闇が続いているが周りはちゃんと見えている。不思議な場所だった。
そしてまた携帯に一つ通知が入る。
通知を見ようと携帯を取り出すと形が変わっていた。
しかし携帯としての機能は失われていないため通知を見ることができた。
内容を見てみると───
”ようこそミッドナイト・アーカイブへ。この世界へ降り立ったことを歓迎いたします。これから指示をする場所に来てください。私はそこで待っています”
「なんだよまた指示かよ」
ユウマは頭をかきながら一人愚痴を吐く。
「でも今回は地図にピンを指してくれてるみたい、行ってみよう!」
リサが提案すると各々の反応が違うがいってみることにした。
指定された場所は事務所の一角のような場所だった。
「なんでわざわざこんなところに?」
「しらないよ」
そんな会話を交わしているうちに背後から声がした。
「お待ちしておりました。新たなプレイヤー」
黒いローブを身にまとい女性であること以外何もわからない人物がそこにいた。
「プレイヤー?どういうこと?」
ナギが問うとローブをまとった女性は答えた。
「最初に送った問いはまだ答えていないようですね。それは構いません。今からあなた方は100の記録を集めてもらいます。そうすればここから出られるでしょう。運がよければ」
女性は含みを残しながら説明していった。
ここはミッドナイト・アーカイブと呼ばれる世界で、陰陽の陰の世界ともいえる場所だという。数多の記録が眠り、時に欠片が表層に現れる。現実世界、つまり陽の世界で存在する記録は氷山の一角でしかないということ。この世界は失われ忘れ去られた記憶たちが眠る墓場でもあるのだ。
「それにしても多すぎない?いきなり100種類って」
「それだけ集めるころには難しいことに気づくはず」
「そんな難しいか?」
「いずれ気が付くときが来るわ」
あの通知、いい加減選びなさいな。あれは私からのプレゼントよ。と言い残しローブの女性は姿を消した。
「こいつをどうしろって……」
「とりあえず、記録を集めろってことだから保持でいいんじゃない?」
「さんせーい!」
「じゃあ保持にするね」
全員が保持を選んだ。
「じゃあ次にどうするかだけど」
「とりあえず記録がありそうな場所を探そう!」
リサの声とともに事務所の一角から退室し、記録探しの旅に出た。