──ここは西暦2142年、地球から遠く離れた火星基地。
ドームの中には、好奇心に満ちた観客たちが集まっていた。中央には、火星探検隊の隊員がひとり、テーブルの上に一本の金属棒と鉱物の板を置いている。彼の名前はジョン・カーペンター、職業・宇宙技術者。
「皆さん、今日は人類が火星でどうやって火をおこすのか、その技術をお見せしましょう。」
静かな期待が場を包む。
ジョンは手袋を外し、慎重に金属棒を鉱物の板にこすりつける。シュリシュリ…という乾いた音が響く。
「地球では木をこすりますが、火星では木がありません。だから、鉄とマグネシウム鉱石を使います。」
観客が息をのむ中、ジョンは手際よく回転を速める。やがて、パチッと火花が散った。
「おお!」
しかし、その瞬間、ジョンは手を止めて観客を見つめる。
「さあ、火がついたか? 煙が見える人は手を挙げて!」
観客がざわめく。「いや、まだ見えない…」
ジョンはにやりと笑い、「では、もう少し本気を出しましょう」と言いながら、マッチのような小さなスティックを取り出す。
「これが、火星版のマッチです。酸素と化学反応で一瞬で火がつくんです!」
彼が火を灯すと、鮮やかな青い炎が揺らめいた。観客の歓声が上がる。
「もっと大きな火が見たい?」
「見たい!」
ジョンは数秒黙り、わざと周囲を見回す。
「ちょっと、酸素タンクを持ってきますね…」
観客、爆笑。
最後にジョンは慎重に炎を小さな燃料の上に移し、静かに語る。
「人類はこうやって、火星でも火を灯すのです。」
青い炎がゆらめく。
「さあ、もっとすごい炎が見たいですか?」
「見たい!」
ジョンは一拍置き、真剣な顔で言う。
「では……500円ください。」
観客、大爆笑。
こうして、火星でも火おこしの伝統は笑いとともに受け継がれていくのだった。