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第二章 八話「動機」

「俺は対した理由じゃないけど、家柄の問題って感じだな」


「ほう、なら私と同じですね。とは言っても私の方は少し特殊ですけどね」


 似たような境遇に親近感を抱くリオ。だが、少しその反応は暗い印象を受ける。なにかしら事情があるのだろうとルークは何も言わなかったが、迷わずガイはその言葉に踏み込む。


「俺は別に貴族絡みとかそういうんじゃないぞ?シンプルに出世して親兄弟を楽させてあげたいんだ。うち家族が多くてさ。リオはその感じからみて貴族だろ?」


 悪く言えばデリカシーのないガイに驚きつつも、正直ルークもララもその答えには興味があった。


「ええ、”元”ですが。私の本来のフルネームは、リオ・ブラックリン」


 その名を聞いて、ルーク達3人は目を見開き驚く。メイジスとモニカは知っていた為か、驚いてはいないがリオと同じく少し暗い雰囲気になる。実は、その名にルーク達が驚くのも無理はない。それほどにブラックリン家とは有名な家名なのだ。


「そうです、ご存じの通り私は”元”剣聖の家系であるブラックリン家の血を引き正統後継者でもありました。今では家名を剥奪されてしまいましたがね……」


 そう、ブラックリン家とは代々、剣聖に相応しい実力を兼ね備えた後継者を輩出し、二つ名である”剣聖”を他に譲らず実力で世襲してきた実力派の貴族なのだ。しかし、リオが言うようにそれは今では”元”の話。


 ブラックリン家、最後の当主レグルス・ブラックリンは、二年前のアストレア王国襲撃テロに加担した者として指名手配され、ブラックリン家は家名を剥奪され解体されたのだ。


「私は、先代である父。レグルス・ブラックリンを討ち再び剣聖の地位に就くことを志し、実力をつける為にこの学園の門を叩いたんです」


「そして、リオがその夢を叶える為にはもう一つ壁があるんだ。それが僕の兄、寮長でもあるハルナを超える必要があるということ」


「はぁ?!メイジスと寮長って兄弟なのかよ!」


 メイジスと寮長が兄弟ということにも驚きだが、本筋の話で気になる部分にララが触れる。


「ん?その寮長さんを超える必要があるっていうのはどういうこと??」


「ハルナさんは、大人の人たちを差し置いて次の剣聖候補とされているんだよ。ランキングこそ1位ではないにしろ実力は十分あって、剣技だけで言えば間違いなくこの学園一だね」


 色々合点がいったのか、ルークの中にあった小さな違和感が解消される。剣を持っていなかったのに、八つ裂きにされる感覚。あれは間違いなく斬撃による攻撃の予感だったのだ。今思えば、ハルナが次の剣聖候補でそれほどまでに実力があるならば、剣聖の件も寮長をしているのにも納得がいく。


「つまり、次の剣聖候補であるハルナさんを超えないと私の夢はそもそも叶わないってことです。剣聖候補に勝てないなら元剣聖になんて勝てませんからね」


「なるほどなぁ。じゃあ、メイジスとしても複雑なんじゃねーの?友人が自分の兄を倒そうとしてるわけだし」


「そうでもないさ、僕の目的も兄さんを倒すことだからね……」


 メイジスはそう言い据わった目を浮かべながら飲み物を一口飲む。その表情にルークは覚えがあった。冷たくも黒い感情、戦場で良く見る目だ。


「今日知った仲で言う事じゃないが私怨による殺意はろくなことになんねぇぞ。悪いことは言わんから辞めておけ」


 ルークも飲み物を飲みながら静かに言い放つ。その言葉に少し驚いた表情を浮かべた後、メイジスは少し微笑む。


「忠告痛み入るよ。でも、清算しなきゃいけない過去というものもあるものさ」


 今度はルークが微笑む。


「それには同感だな」


「ルークはどうして入学を?」


「あ、それ私も気になる!ルークめちゃくちゃ強いのに、わざわざ入る必要ある?良い師匠がついてるはずだよね?」


 メイジスのこの質問にはララも興味があったらしく強く反応する。ガイも興味があるらしく、それとなく聞き耳を立てる。


「師匠との約束だったんだ。俺がまだ弟子になったばっかの時、この学園に入学させるって。どういう意図でそう言われたのかは今も分かんないけど、師匠が通っていた時に色々と良い影響を受けたらしいから、今はその師匠が通った学園がどういう所なのか興味でって感じかな」


「ほ〜う?で、ルークを育てたそのお師匠様の名前は〜?」


 茶化すようにララが言うとルークは横目でチラッと見た後、小さくため息をつきながら口を開く。


「エイネシア・フランベル」


 ルークの口から出た名前に全員が黙り目を見開く。まさかの名前に誰もが言葉を失った。


 ルークが言った名前は、今の世代では知らぬ人などいないと言っても過言じゃない。言わば伝説の人物の名前だった。


 「まじかよ!流石に驚いた。お前の師匠って、あの天剣の魔女なのか……。どうりでつえぇわけだ……」


「ええ、私も驚きました……。エイネシア・フランベルといえば、父レグルスと張り合う程の実力者で弟子取らずの”孤高の女帝”なんて言われていましたしね」


各々がエイネシアに対する敬意を持っているのが伝わってくるが、どうにもルークにはピンッとこない。


「たぶん、皆が思っているような人じゃないぞ?あれわ」


「え?そうなの?エイネシア・フランベルってギルド金獅子のエイネシア・フランベルでしょ?めちゃくちゃ凄い人じゃん!この国の英雄だよ?」


「いやぁ……、そう……なんだけどさぁ……」


 ララの言葉にルークが珍しく歯切れが悪い。ルークは弟子と師匠という立場で近くに居たからこそ知っていることも多い。ルーク的には思い返しても、凄い人なのは認めるがそんな尊敬を向けられるような人には思えなかった。


(あの人、ただの天真爛漫なバトルジャンキーなんだよなぁ……)


 そんなことを思っていると、突然モニカが立ち上がる。


 「ルーク君は、ギルド金獅子のメンバー……なんですか……?」


 さっきまでと一変して険しい表情を浮かべながら俯き、小さな声でルークに問い掛ける。


「え、まぁ……一応?」


「じゃあ、金獅子の聖女サシャ。知っていますよね……?」


 モニカの問いに、ルークは驚く。そして、何かを察したように全てを理解した。

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