「ガイ、それ本気で言ってる?!あんな完璧な魔力コントロールも出来ないし簡略構文も浮かばないよ!しかも無詠唱だよ?!」
魔法を扱うにはいくつかのプロセスが必要で、まず発動する魔法の術式には元になる構文と呼ばれる物があり、魔力をインクに例え、魔法を発動する為の構文を書き上げる。
構文は主に、使用する魔力量、属性、何をさせるかの三つの項目で構成され、それを使用する魔力とは別の魔力で書き上げ詠唱することで魔法として発動させることが出来るのだが、構文が長くなればなるほど消費魔力量も増え、暴発しないように構文を書き切る魔力コントロールの難易度も跳ね上がるのだ。これが中級、上級魔法の習得難度が高い理由だ。
そして、先ほどルークがさらっと見せた魔法は、極少量の消費魔力、風属性、本を元あった場所へと戻す、という構文なのだが、極少量の消費魔力にする為には書く魔力もそれに合わせて少なくしなければならない。
つまり、超極細のペンで寸分の狂いもない術式を書き上げるようなもので、魔力コントロールが繊細でなければならず、おまけに属性と何をさせるかを簡略して書いている。
簡略、つまり省略して術式を発動させるのは望んだ効果を発揮しづらく、どう省略し望んだ魔法を発動させるのかで術者の腕が分かる。
何よりこれを無詠唱というのが、とんでもなく技術がいる。無詠唱には、その術式についての深い理解と経験が必須で、ましてや簡略された繊細な術式を無詠唱なんて、それだけで超一流と言えるレベルの技術なのだ。
「んー、俺は一回見た魔法はだいたい出来るからなぁ」
「それは凄いな」
「だろ?まぁ例外はあるけどな」
自信満々にいうガイにララは怪しいと言わんばかりに目を細めて眉をしかめる。
「じゃあ、これやってみてよ。《猛る炎よ、優しき導きに可憐な華となりてその身を咲かせ【ファイアーフラワー】》」
そう言うとララは、炎の魔法で薔薇を作りその周りを花弁が舞う魔法を発動させる。
それを見るとガイはすぐさま魔法を構築する。
「《猛る炎よ、優しき導きに可憐な華となりてその身を咲かせ【ファイアーフラワー】》」
すると、なんとガイは全く同じ魔法を発動させてみせた。それからいくつかの魔法を同じようにララが発動させるも全て知っているかのように、模倣してみせたのだ。
「嘘……、本当に一回見ただけでコピーされちゃうなんて……。全部私のオリジナル魔法だったのに……」
「だから言ったろ?魔力さえ足りてるなら一回見れば充分なんだって」
特異な特技にガイは勝ち誇ったように言うと、ニヤニヤと笑みを浮かべる。その顔を見てより悔しかったのか、ララは、頬膨らませ少し涙目になって怒る。
「じゃあ、さっきのルークのやつもやってみてよ!それができたら私の負けでいいよ!」
「だから、結果は一緒なんだっ……て……?」
ララに言われるまま、ルークがやっていたことを再現しようと本を積み上げ同じように本に手をかざした後、本棚の方へと手を向けるが、うんともすんとも動かない。
それを見てかララは目を見開いて満面の笑みになるとルークの方を振り向く。ルークは、そんな嬉しそうなララをみてクスッと笑う。
「ガイ、それじゃダメなんだよ。魔力コントロールがガサツだから術式が上手く構築出来てないし、無詠唱はこうしたいってイメージが大事だけど、俺が発動時にイメージしてるものとガイのイメージしてるものが違うから、それだと俺の魔法はコピー出来ないぞ?」
「ちょっ!別のやつやってみてくれよ!」
なんだか、今度はガイに熱が入ってきたようで、逆にリクエストをし始めた。ルークも、満更ではないのかノリノリで次の魔法を構築しだす。
(ふっ、少し意地悪をしてみようか……)
悪い表情を浮かべながらルークは、両手を前に出し向かい合わせるとまた無詠唱で魔法を構築し始める。すると、手の内側に赤みを帯びたドス黒い渦が現れ球体の形を形成していく。
「ごぉおらあああああああ!!!何をしているんだお前ら!!館内は魔法禁止だッ!!」
三人の背後から現れた先生の怒号が飛び、ルークも驚いて魔法を中断させるが三人はそのまま外に出され強制退館させられた。
3人はいきなりのことに、少しきょとんとしてから互いの顔を見合わせる。
「「「っぷははははは」」」
それぞれが何を思ったのかは定かではないが、通づるものがあってか、はたまたただの偶然か、大図書館の外で三人は同時に大笑いをした。
「怒られちゃったね?」
「そうだな」
「初日から俺等なにやってんだってな」
三人して思い出し笑いをしながら言葉を交わす。
「はぁ〜、笑ったわ!なんか腹も減ってきたし学園ギルド行ってみようぜ!登録して、飯も食べてこよう」
ガイの意見に全員賛成し、学園ギルドに向かって歩き始める。
しばらく歩くと、もう日は落ち辺りは暗くなってきている中、一際賑わいを見せる建物が見えてきた。
学園ギルドという看板を確認すると三人は建物の中に入る。
「おお……!ここが学園ギルド!」
「凄い活気だね!」
ギルドホールの中は沢山の生徒達で溢れており正面にあるギルドカウンターに座る3人の受付嬢が順番に並んだ生徒達の受付を行っていた。
また、その上部にはボーナス対象の魔物やランキング上位の生徒、新着クエスト等の様々な情報が映像となって流れている。
「これは凄いな。俺の知ってるギルドでもここまでの設備はなかった」
「お?じゃあ、ルークはどっかのギルドに入ってるのか?」
「んー、一応?幽霊メンバーみたいなもんだけどな」
ガイの問いに、歯切れの悪い返しをするルーク。ギルドに所属するには、それぞれのギルドの試験に合格する必要がある為、この歳で所属しているってだけでも凄いことなのにルークの反応を見ると違和感を感じる。
「え、ルークってどっかのギルドに入ってるの?!どこどこ?!私結構ギルド詳しいよ?」
「秘密。ほら、いくぞ」
興味津々に聞くララを軽くあしらうと先導してギルドカウンターに向かう。