「なるほどなぁ。じゃあ、なんで闘技ホールと体育館ってわけてんだろうな。目的としては一緒なんだから一つにまとめてもよさそうなのに」
「闘技ホールは基本立ち入り禁止らしいよ?イベント事の時にだけ使うみたい。ほら夏にある学年別闘技大会とかさ」
「そんなのがあるのか」
毎年アストレア学園では夏に大きなイベントの一つとして学年別闘技大会というものを開く。全生徒参加のイベントでランキングの見直しに大きく影響を与え、大会後にはガラッと順位が変わることもある。そのため、毎年この大会は白熱し大盛り上がりするのだ。
「MADは何を動力にして動いてるんだろ」
「大気マナらしいよ?どういう原理かはわかんないけど。あ、ちなみにMAD壊すととんでもなく高い請求が来るんだとか……」
魔法を使う際、術者は自身の魔臓と呼ばれる器官から作られる身体マナと大気中に満ちる大気マナを混ぜることで魔力を作っている。
その大気マナを使用してMADが動いていると聞くとつくづく魔法社会なんだなぁと感じるルーク。
「へぇ。じゃあ、なんで――」
「お前はちっさい子供かッ!!」
次々と質問をするルークに痺れを切らしたガイが、思わずツッコミを入れる。当の本人は、え?っと素の表情を浮かべ何でツッコミを入れられたのか全く理解していない。
それもそのはず、ルーク自身はただの探究心から色々なものに興味を持っているだけで、別に嫌がらせでも話を繋げようとしているわけでもなく、純粋に知りたいだけなのだ。
ましてや、本人としては別に問いかけたわけではなく、ただの独り言のような感覚で言っていた為、ルークとガイで話の熱が上手く噛み合っていない。
「はぁ……、戦闘になるとあんなすげぇのに、普段だと別人じゃねぇか。まるで子供と話してるみてぇだ」
「そうか?俺はそんなことないけど」
「だろうなッ!!」
一周回ってワザとなんじゃないかと思いつつも、ルークの表情を見る限りこれも素なのだろう。
「えー、いいじゃん!ぽわぽわしてて可愛いし、私はそういうの嫌いじゃないけどな〜」
ララにはどうやら好評のようだ。ただ、それはどっちかと言うと好みというよりは母性に近しいものなのでは?とガイは思ったが心の中に留めておいた。
そんなこんなで、歩いていると大きなガラスを多くあしらった木造造りの建物の前に着く。出入り口の上部に掲げられた石の看板に大図書館と書かれており、ここが目的地であることを示す。
三人は、中に入り正面に構える大きな扉を開け先へ足を進めるとそこには、ズラッと並んだ大量の本棚とそれを埋め尽くすだけの本があり、二階、三階と視界に入る限りの本がそこにはあった。
天井のガラスから差し込む光と図書館ならではの静けさが、よりその場を幻想的に仕上げ何処か入ってはいけないような場所に来てしまった気がしてその場に立ち尽くす。ただ一人を除いて。
「あれ?ルークがいないよ?」
「は?嘘だろ?!」
いつの間にやら一緒に入ったはずのルークの姿がなくなっており、二人は大声で呼ぶわけにもいかず、仕方がなく歩いて回りルークの姿を探す。
程なくして、ガイが魔法書のコーナーでルークの姿を見つけると、ララを手招きして呼び二人は少し離れた所でルークの様子を伺う。
最初は声をかけようと思ったのだが、ルークの表情は真剣そのもので本を読むルークの姿は声をかけるのを躊躇わせる程だった。
「あれ、なに読んでるんだろうね?」
「魔法書コーナーだから、何かしらの魔法についてじゃないのか?ちょっとこっからだと読んでる本の表紙が見えないからわかんねーけど」
「でも、ルークって自分で魔法がほとんど使えないって言ってなかったっけ?」
ララの言葉に、ガイもルークの言葉を思い出し目を丸くする。確かにルークは入学式前に話した会話の中で魔法がほとんど使えないと言っていた。ルークが余りにさらっと言うものだからガイは気にも留めていなかった。
「じゃあ、なんであいつ魔法書なんか……」
「わかんないけど、しばらくそっとしておいてあげよ?私も向こうの方見てこよ〜っと」
それぞれが、興味のある本を読み漁っていると気がつけば日が暮れ始めていた。集中してたのもあるが館内の明かりがしっかりと灯されていたのもあって時間の経過に全然気付かなかった。
ガイはララと合流すると、ルークを探しに向かうが思いのほかルークの姿はすぐ見つかる。ルークは魔法書コーナーの近くにある机に本の山を作り、今もなお集中を切らすことなく読書に耽っていた。
「うげっ、もしかしてこれ全部読んだのか?」
「ああ」
丁度読み終わったのか、ルークはパタンッと本を閉じ本の山に重ねる。ガイはその積まれた本の一つを手に取り中を読むが難しいことがズラッと書かれており、内容は全く理解できない。
ただ表紙を見る限り、全て魔法書関係だということだけは分かった。
「ここはいいな。良質な資料に研究書、理論論文に統計、幅広く置いてあるし何より冊数が非常に多い。入り浸りそうだ」
「ルークは、本が好きなんだね!」
「んー、そうだな。まぁ正しくいうと魔法について書かれた本が好きなんだと思う。俺は魔法が好きなんだよ」
そう言うとルークは今までに見せたことのない表情を見せる。とても柔らかく、そして優しく微笑む姿には思わずララも驚く。
「そういや、ルークは魔法がほとんど使えないって言ってなかったか?」
「あー……、俺マナ総量が著しく少ないんだよ。たぶんガイの20分の1もないと思う」
「は?!俺は人より多い自信はあるけど、それでも20分1だと?!そんなの一般人より少ないってことになるぞ?!」
ガイが驚くのも無理はない。魔法社会の現代においてマナ総量の少なさは、魔法が使える回数が少なかったり上位の魔法を発動出来ないなどハンデを抱えることになる。つまりそれは、弱いと評価されてしまうことを意味する。
「ちょっと色々あってな……。まぁ、でもよっぽど大丈夫さ」
そう言うと、ルークは本に手をかざした後、本棚の方へと手を向ける。すると、山程積まれていた本達がそれぞれ元あった場所へと飛んでいき本棚へと仕舞われていく。
「魔法の扱いは誰にも負けない自信はある」
「え、何?今の……」
「はぁ?ただの風魔法だろ?魔法適性はなくてもララもあれぐらいは出来るだろ」
ルークが行った一連の行動にララは目を見開いて驚くがガイにはそこまで驚く意味が理解出来なかった。