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第二章 三話「寮長」

「寮内は好きに移動したり過ごしてもらっていいから、まぁのんびり慣れていって〜。僕ちょっとこの後忙しいからまたね」


「あ、はい!ありがとうございます!」


 ガイが、元気よく返事を返すとニコッと笑いハルナは寮内へと向かって歩き出す。何を思ったのか、そんなハルナの背中を見てルークがふと剣の柄に手をかけると、次の瞬間、どこからともなく白色と黒色の毛色をした二匹の大きな狼が現れルークを前後で挟み込みグルルッと威嚇する。


「こらこら、やめな」


「しかし、主。今、確実に敵意がありました」

「そうです、彼は武器にも手をかけました」


「いいから、いいから」


 ルークの動きを抑止した二匹は人語を話し、ハルナと言葉を交わすとハルナの横に寄り添う。その様子からハルナに対して絶対の忠誠心を持っているようだ。


「新入生くん、元気があるのは良いことだけど、誰振り構わずそんな感じだとここじゃすぐ死ぬから気をつけな〜。今までがどうだったかは知らないけど、ここの連中は全員が全員仲良しこよしじゃないんだ」


 そう言うともう一度ルークに背を向け、寮の中へと消えて行った。その姿を見送り少しの静寂の後、ガイの荒げた声がルークに飛ぶ。


「お前バカなの?!何いきなり喧嘩ふっかけてんだよッ」


 一連のルークの行動に理解出来ず怒鳴るガイは、どこか少し怒っているようにも見える。流石のルークも驚いたようで、冷静に自分の行動に非があるのを認める。


「悪い。寮長っていうわりに余りに雰囲気が柔らかいもんだから、あんなんでなにかあった時、大丈夫なのかと思って試そうとしたんだ」


「はぁ……。で?試してみて何か分かったのか?」


「ああ、ちゃんと強いよ、あの先輩。今の俺じゃ本気で殺り合っても全然勝てる気がしない」


 ルークが剣の柄に手をかけた時、背筋が凍るような感覚と一瞬で八つ裂きにされる感覚を感じた。思っているよりもこの学園の生徒たちは、曲者揃いなのかもしれないとルークは心の中で思った。


「まぁならいいんじゃねーの。次からこういうのは勘弁だけどな」


「ああ、悪い。気をつける」


 二人も寮の中へと足を進めると、広いエントランスが広がり、テーブルとソファがあちこちに置いてある。休んだり情報交換したりと様々な目的に使われる、言わば憩いの場のようなものだろう。


 そのエントランスを抜け中央を進むと6人程度が乗れそうなエレベーターがついており、上層階へと行けるようだ。二人はエレベーターに乗り込むとそれぞれの部屋がある階のボタンを押す。


 扉が閉まると動き出し、しばらく上昇した所で扉が開いた。


「おっし、じゃあまた後で!」


 ガイが先に降りると、扉が閉まり再び上昇を始め、一個上の階でルークも降りる。各部屋の扉には番号が書かれており、ルークはメッセージに書かれた番号を頼りに自分の部屋を探す。


「あった、ここか」


 ルークはMADを扉の横についてる認証用の魔石にかざすと、ガチャッという解錠された音が鳴る。ドアのハンドルを回し押し込むと扉が開いた。


 部屋の中は簡素でトイレとお風呂の子部屋がそれぞれあり、リビングとキッチンが一緒になった少し大きめの部屋に机とベッドが置かれていた。部屋は特段豪華というよりは質素かつ簡素ではあるが一人部屋にしては少し大きい方だろう。


 ルークは、適当に荷物を置くと少しベッドに横になる。


「6年か……。ついに、入学したよ。師匠……」


 腕で目を覆い呟く。それはどこか寂しげで儚い声をしていた。


 しばらくすると、ピピピッとMADが鳴り、ルークは徐ろに画面を見る。するとメッセージのアイコンが緑から赤くなっており、新着メッセージが来ていることを知らせる。


 ルークはメッセージを開き確認すると、新着メッセージの送り主はララだった。


『私は今着いたよ!ガイも、もうすぐ着くって言ってたから、いつまでも寝転んでないで早く来ること!』


(なんでわかんだよ……)


 寝転んでいることを見透かされて少し恐怖を覚えながら、ルークは起き上がり部屋を後にして中央広場へと向かう。


 少し急ぎ気味で向かうと、中央広場には既に二人は来ており合流していた。


「おっそーい!凄く待ったじゃん!」


「着いたってメッセージ貰ってから10分も経ってないんだけどな?」


ルークの返しにララは目を細めて口を尖らせる。


「さては、君。モテないね?」


 ララの言葉に今度はルークが顔を引き攣らせた。


「当たってるけど、極めて失礼だぞ」


「はいはい、そこまで!合流したんだし、いこーぜ?」


 お互いに向かい合ってバチバチと火花を散らす二人の間にガイが割り込んで入り二人をなだめる。


 もちろん、二人もおふざけであって本気ではない。いつの間にか、こういう冗談が出来るぐらいには打ち解けていたのだ。


「で、どっから見て回るよ」


 ガイがMADで校内マップを開き三人で覗き込んでマップを見る。校内には様々な施設があるらしいが独立している店舗というよりは複合施設に近い。


 中でも、入学式で言っていた学園ギルド。この施設はかなり大きく、ある意味メイン施設とも言える。一階にはクエストを受注したりするギルドホール。二階は武器や防具、薬等を扱っており、三階には食堂がある。


 ここの食堂は、提供される料理の量も多く大味ではあるが価格が安いことから人気を博してるようだ。


「やっぱ、学園ギルドは外せないよな!学生のうちしか潜れないっていう学園が所有するダンジョンは有名だしな!」


「そうだね、稼ぐ必要もあるし早いうちに行っておいていいかも。他には校舎棟が三つに教員棟。闘技ホールと体育館に中央広場の近くには広場もあるんだね」


「大浴場もいいよな!貴族じゃないとなかなか入れないし。混浴じゃないのが残念だけど!!」


「うっわ、ガイさいてー」


 下心丸出しのガイの発言に腐ったゴミを見るような目で睨見つけながら、ララはドン引きする。


「あっははは、冗談だって〜!で、ルークはどっかないのかよ」


「俺は大図書館に行ってみたいな。ポストセンターも中にあるみたいだし」


 ポストセンターでは手紙などを送ることが出来る為、長期休暇を除いた外との唯一の連絡手段。利用する生徒も多く、主要施設の一つと言えるだろう。


「おっし、じゃあとりあえず大図書館いくか!こっから近いし」


 三人は行き先を決め、大図書館へと向かう。道中、沢山の学生とすれ違うが皆が皆自由に過ごしてる感じで、さながら街にいるような感覚になる。


 広場で寝転がって休んでる人も居れば、カフェでお茶してるカップルも居て、各々が楽しんで学園生活を送っているようだ。


「学年ってどこで見分けるんだろ」


 ふと疑問に思ったルークがボソッと呟く。


「んあ?学年?そら、制服の襟とか袖にある線の本数だろ。ほら」


 ガイが、徐ろに正面から歩いて来てる生徒を指差すと確かにルーク達が着ている制服と線の本数が違う。思い返せば、ハルナ先輩の袖の線は3本だった。つまり、学年が上がる事に線の本数が増えるということなのだろう。

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