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第二章 一話「アストレア学園」

――天暦732年4月中頃、入学式当日。


 宿屋の布団で目を覚ますルーク。まだ外は薄暗く、日が昇り切っていない。


(懐かしい夢を見たな……。あの日の出会いが今思えば全ての始まりだった気がする)


 過去の出来事を夢に見て懐かしい想いに浸りながら眠い目を擦り起き上がると、入学式に向かう準備を始める。


「師匠が通った学園か、楽しみだな。あいつら、ちゃんと受かったかな」


 新品の制服に袖を通し、身なりを整えると部屋を出て一階へと降りる。一階は酒場になっており、夜は賑わっているが朝は静かなものだ。一階に降りると厨房の方はもう明かりが灯っている。


「あら、おはようルーク!今日も早起きだねぇ」


 ルークが降りてきたことに気付いたのか、奥の方から、ふくよかなお姉さんが出てきた。


「女将さん、おはようございます。オーナーは厨房に?」


「ああ、今みんなの朝ごはん作ってるとこさ!もうすぐ出来上がるから適当に座ってな」


 女将さんが奥に戻っていくとルークは言われた通り、適当なテーブルに腰掛ける。次第に厨房からいい匂いが香ってきた。匂いに釣られてか、次第に他の宿泊客も降りてくる。


 ルークのお腹の音がなると丁度、厨房からスキンヘッドで頭にタトゥーの入った黒色肌の男性が出てきて朝食が目の前に出された。ぐるぐるに巻かれたソーセージと半熟のスクランブルエッグ。焼きたてのパンが籠に入れられており、牛肉と野菜のスープがいい香りを漂わせ食欲をそそる。


「今日からだってな。うちに来たときは、とんでもねぇガキがきたって思ったが居なくなるって思うと寂しくなるぜ」


「オーナー、大げさですって。同じ街にいるんですからまた来ますよ。あ、このスープおいしい!今度自分でも作ってみるか」


 ルークが試験を受けにこの街へ来た日、泊まり先にこの店を訪れると偶然、朝絡んできた大男が他の客と揉めており、ねじ伏せて仲裁に入ったのだ。その大男はちょくちょく来ては問題を起こしていたらしく、ルークがねじ伏せたことでその日は大盛り上がりだった。


「ん?なんだルーク知らねぇのか。学園に入ったら、長期休暇以外は学園の外に出られねぇぞ?」


 オーナの言葉に、ルークの食事の手が止まる。


「え、あそこって牢獄か何かなんですか?」


「あっはっは!すげぇ言い草だな!完全寮制なんだから、どこもそんなもんだろう」


 衝撃の事実に幸先不安になりながら、食事を終える。


「ご馳走様です。それじゃあ、いってきます!」


「おう、色々大変だろうが気張れよ」

「ちゃんとご飯食べて体調には気をつけなね!」


 オーナーと女将さんに見送られながら荷物を持ち宿を後にした。いつも通り賑わう街を散策しながら、学園に向かう。少しワクワクしているのか、緊張しているのか、はやる気持ちがルークの足を急かす。


 学園に近づいてくると、ちらほらと他の新入生と思われる人が学園に入っていく。ルークも、少し緊張をしながら校門をくぐり入学式が行われる体育館へと足を進めると、丁度体育館の前で見覚えのある二人に出会った。


「あ、ルークだ!やっほー!」


「久しぶりだな!やっぱ、受かってたか!」


 そこに居たのは二次試験で一緒にパーティを組んだララとガイだった。二人とも制服を着ているところをみると無事試験には受かったようだ。


「二人とも、無事受かったみたいでよかった。最終試験そっちはどんな感じだった?」


「私のところは全然簡単だったよ?海岸に飛ばされたんだけど、先着順のタイムアタックで魚を100匹捕まえたら合格ってやつで、雷魔法を使った人がいて浮いてきた魚を風魔法で横取りしたら勝てちゃった!」


 それってありなのか?と二人して思ったが口に出すのはやめておいた。


「ガイはどうだった?」


 ルークはガイの方へと視線を移し同じように話を振る。


「俺んとこは、闘技場でバトルロワイヤルだったよ。10人退場者が出るまでの殺し合い。この歳で殺し合いさせるなんてどうかしてるとは思うけどな」


 至極真っ当な意見である。ルークの試験もそうだが、どうやら人によって結構差があるようだ。実戦形式が取り入れられているのは、よりリアルを想定しているからだろうと予測は出来るが、年齢を考慮すると少し早いのでは?と疑問にもなる。


「なるほどな、二人の内容はともかくとして普通の試験だったんだな」


 ルークの”普通の試験”という言葉に二人は引っかかり、言葉の意図に疑問を二人は感じる。


「なんだよ、普通の試験って。ルークのとこは違ったのかよ」


 ルークはその時のことを思い返しながら、口を開く。


「俺のとこは、襲撃されている最中の街でさ、”最善の選択”をせよって試験だったんだけど、ぶっちゃけ落ちかけてたと思う」


「は?」

「え?」


 二人はルークの言葉に驚く。試験内容もそうだが、ルークが落ちかけたということに驚きが隠せない。それもそのはず、二人は二次試験でルークの強さを目の当たりにしているから、試験に手こずるどころか落ちかけるなんて想像も出来ないのだ。


「なにがあったんだよ、それ」


 すかさずガイが問いかける。


「んー、端的に言うと他の人が倒せないような魔物を間引くこと以外何も出来なかったんだよ。俺は魔法もほぼ使えないし、バケモンみたいに強い志願者がいて敵の指揮官倒しちゃうし。まぁ、そいつ落ちたらしいけど」


「ごめん、情報量もツッコミどころも多くて私全然ついていけない」


「まぁ色々言いたいことはあるが、確かに普通の試験じゃなかったのは理解した」


 気になることは多々あるがきりが無いと思ったのか、それ以上聞くのを辞め、3人は体育館の中に入ると入口に先生が立っており、パンフレットと座席表、そして手のひらサイズの小型液晶端末を渡される。


「お、俺とルークは隣の席だな」


 どうやらルークとガイは隣の席だったらしい。


「えー、私だけ除け者みたいじゃん!」


 一人だけ違う席のララは頬を膨らませて少し不貞腐れる。そんなララをガイは笑いながら見送るとそれぞれが席に着いた。


 程なくして、照明が落ちると体育館に声が響き渡る。


「これより、アストレア学園入学式を始めます」


 徐々に壇上だけが照らされ、そこには学園長であるヴェルディ学園長の姿が現れた。

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