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第一章 七話「解呪と第一歩」

 Eランクとはいえ、魔物を前に少し恐怖を感じるルーク。だが臆せずしっかり警戒を続けている。


「それで魔物なんか出してどうするんですか?」


 ルークが問いかける間に、エイネシアはリトルバットデビルに紐をくくりつけて解き放った。もちろん、手綱はエイネシアが握っている為、範囲内でしか飛び回ることができないが、基本的に自由に動けるようになったリトルバットデビルは目の前にいたルークに襲い掛かろうと突っ込む。だが、もちろん紐の長さが足りずルークの目の前で動きが止まる。


「僕が見る限り、君の体内にも身体マナはある。知ってはいるとは思うが、魔法とは身体マナ、要するに自分の中から生まれるエネルギーと大気マナと呼ばれる空気中に漂うエネルギーを混ぜて使う。が、今まで見つかった魔法能力を持たない人は例外なく身体マナを持っていないんだよ」


 それを聞いたルークは目を丸くして驚いた。そしてエイネシアが言おうとしていることに察しがついた。


「僕の仮説が正しければ、ルーク。君は魔法が使えないんじゃなくて使えなくされてる気がするんだ」


 もし本当にその仮説が正しいのだとすれば、そんなことができるのはルークの両親だけだとすぐにわかる。どういう意図があって、その行動に至ったのかは到底想像もできないが、少なからずそれを知ってしまったルークの心には、より深い憎しみと悲しみが広がった。暗くなるルークの表情にエイネシアも心を痛めつつも、それを断ち切るかのよう元気に言葉を発する。


「そこで、こいつの出番って訳だよ!こいつが発する超音波には魔法を阻害する効果があるんだ。たぶん、君にかけられてる魔法はとても高度な術式で行使されてるから、僕でも解除するのはそう簡単じゃないと思う。でも、リトルバットデビルの超音波で阻害した状態に僕の解除魔法をぶつければ、封印もしくは呪いを解くことができるかもしれないってわけよ!まぁ僕の解除魔法も阻害効果を受けるから、上手くいくかは半々の確率だろうけどね」


 エイネシアのその提案には驚いたが、一筋の希望にルークは縋る思いを抱いた。今まで関わることのなかった魔法という世界。それは、ルークの暗い表情を一瞬で晴らすには充分の未知だった。


「もし、本当にそれで魔法が使えるようになるなら是非お願いします!」


「よし!、じゃあ、早速始めようか!」


 ルークの言葉を聞いたエイネシアは早速リトルバットデビルに軽く攻撃を仕掛け挑発する。そして、リトルバットデビルが超音波攻撃の動作に入ると、すぐさまエイネシアはルークの後ろに隠れ攻撃対象を自分からルークへとすり替えた。


「ルークくるぞ。ダメージはないが、身体の力が抜ける感じになるから油断しちゃダメだよ?」


 その言葉に相槌をした直後、ルークに超音波攻撃が当たる。一瞬頭がグラッと揺れたような感覚になり、力が抜けるのがわかった。そして、すぐさまエイネシアはルークに対して魔力を流し込み術式の開示を試みる。すると次の瞬間、ルークの胸から複雑に描かれた魔法陣が浮かび上がった。


「やっぱり、魔力供給源に対する封印魔法だったね」


 リトルバットデビルの超音波による効果で、浮かび上がった魔法陣が歪む。その瞬間、エイネシアはニヤッと小さく微笑むと解呪系魔法のディスペルをルークに向けて放った。何層にも重なった円と術式が弾けながら消えていく。そして、全ての術式が解けた瞬間、今まで止まっていたマナがルークの全身を包み込む。


「これ……が、魔法……?」


「正しくは身体マナだね。それと大気マナを混ぜ合わせたマナで術式を構築して行使するのが魔法。まぁ言わば、ルークは魔法についての第一歩を踏み出したって感じかな」


 初めての感覚に戸惑いながらも確かな実感にルークは拳をぐっと握る。身体を包み込む身体マナは微かに熱を帯びているように感じた。


「さて、魔法も行使できるようになったことだし。具体的な話をしていこうか!具体的な修行についてだけど、基本的には僕がいくクエストに同行して基礎的な戦闘訓練と魔法について知っていってもらって最終的にはAランク相当のクエストならば単独クリアできるレベルを目指そうと思う」


 概ね想像していた通りの内容にルークは特に異論もなく相槌をうつ。ただ、一番の気がかりとなる部分は、やはり六年後のアストレア魔術学園の入学試験。今は目の前のやるべきことに目を向けるしかないが、やはりルークの胸には六年先とはいえ、名門学園の試験というのは不安を隠せないでいる。


「まぁ何事も経験あるのみだよ!早速出発は三日後にしよう!ギルドのメンバーにも紹介するよ!」


「はい!よろしくお願いします!」


 確かに不安は拭いきれないし、学ぶことも多いけれど、まだまだ知らない世界に踏み入ろうとしている今、間違いなくルークにはドキドキとした楽しみが胸にあった。胸躍らせるルークを背に一つの疑問に表情を曇らせるエイネシア。


(――あれは明らかに複数人で行使するような特級レベルの術式だった……、なんであんなもの……。)


 ふと考えを巡らせていると、一気に背筋が凍るようなとてつもない殺気とプレッシャーにすぐさま振り返る。そこには、ただ嬉しそうにニコニコしているルークの姿のみ。額に汗が滲むエイネシアは、その一瞬の出来事に困惑を隠せないでいるとルークが心配そうに駆け寄る。


「エイネシアさん!大丈夫ですか?!いったいどうしたんですか、凄い汗ですよ?!」


「い、いや、なんでもないよ!ありがとうね、少し疲れたから休むとするよ」


 ルークの心配を背に受けながら、エイネシアはその場を後にするが明らかに自分より強者である相手からの殺気とプレッシャーを受け、身体が強張っている。


(一体どこから……、いや、それよりあの殺気はヤバすぎる。 圧倒的な差を感じたのは何年振りだろうか……。 少し調べてみる必要がありそうだね。)


 突然の殺気、圧倒的力量差を感じる程のプレッシャー、ルークに施された特級レベルの封印魔法、色々と考えることは多いがこの一連の出来事がどうもエイネシアには別ごとではないように感じて仕方なかった。だが、現状情報も少なく答えに辿りつくにはまだまだ時間が必要なのは明白。エイネシアはとりあえず、今はルークを育てることに集中しようと決めその日は休みに入った。


 不穏な影が既に動き始めていることを知らずに――。

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