「一位だよ?ブッチちぎりで」
ピースサインをしながらそう言い残すと、エイネシアはその場を後にし浴室へと向かっていった。
「えっ……」
ルークは驚きのあまり言葉を見失う。王立アストレア学園を首席で卒業。それが意味すること、それは国内でトップクラスの実力だと言うことだ。王立アストレア学園を首席で卒業をする人はSランクで卒業しているなんて噂まである。
アストレア国内でSランクに認定されている者なんて100人にも満たない。言ってしまえば、国全体で見たとき精鋭中の精鋭ということなのだ。ルークは、改めてエイネシアの凄さに驚きながらも、実際に本格的な修行が始まり学園に通うことになったらという想像をしてみる。
各地から集まる猛者の卵達、これからを担うであろうその人達と肩を並べて切磋琢磨しながら上を目指す自分。そんな未来を想像すると、グッと握る拳に力が入る。それは、嬉しさによる感情の高揚と頑張らなければという決意のりきみからだ。
とはいえ、具体的に本格的な修行が始まったとしてどんな修行になるかはまだ不明である。クエストに同行するのは、大前提としても戦闘に参加となると単純に戦力にならない。むしろ、足手まといになる。
足手まといになるだけならまだしも、最悪本人も含めて死ぬ可能性が出てくる。それはもはや、修行とは呼ぶには程遠い。ルークはこれからの修業がどういったものになるのかたのしみなのと同時に不安も感じた。
「また後で詳しく聞いてみないとなぁ」
しばらくした後、浴室から出てきたエイネシアと入れ替わりでルークが浴室へと入っていった。
(それにしても、思ったよりバランス良く鍛えられてたなぁ。いい身体に仕上がってたし)
エイネシアは、髪をタオルで拭きながら先ほどの一戦を思い返していた。エイネシアがルークに仕掛けた一撃は、一般兵なら衝撃に耐えることが出来ず、数十メートルは吹き飛ぶレベルだったのだ。
それをまだ10歳にも満たない少年は、5メートル程、滑っただけで飛ばされることなく耐えた事実は、エイネシアの育成欲をより掻き立てた。
(全体的な筋力はついてきてたし、身体を支える体幹とバランス感覚、力の使い方も悪くない。たぶん持久力も問題ないだろうし。問題は、実践経験を積ませることだよなぁ。でも、その前に一つ確かめないといけないことがあるか……)
真剣な顔でエイネシアが考えに耽ていると、浴室からルークが出てきた。
「あ、エイネシアさん。今後の修業について詳しく聞きたいなって思ってたんですけど」
「ああ、そうだね。僕も今そのことについて話そうと思っていたところだよ」
そういって、二人は席につく。するとエイネシアは、右手を前に出して少しの魔力を込めると、空間に裂け目が現れてそれに手を突っ込む。
(すごい、マジックボックスまで使えるんだ……)
マジックボックスという魔法は、空間魔法という無属性系統魔法の中でも上位に位置する魔法で、扱えるものがかなり少なく、またこの魔法は特殊中の特殊な魔法で発動に魔力を行使しているにも関わらず何故か魔力を消費しないという不思議な技なのだ。
一部の学者の間では、発動に使用した魔力に応じて同等の魔力がなんらかの形で術者に還元されているのではないかと言われているが、マジックボックスの術式にはそういった術式と思われる部分はないらしく、使用できる者が少ないことと合わせて、いつの時代でも学者たちの間で話題が尽きない。
「あ、いたいた。こいつだ」
そういってエイネシアがマジックボックスから取り出したのは紐に繋がれた一匹のコウモリだった。もちろんそれはただのコウモリなわけがなく、リトルバットデビルと言われるれっきとした魔物である。単体でのランクこそEランクだが、その凶暴性と相手の魔法を阻害する超音波を発することから複数体いた場合の危険度はランクCにまで跳ね上がる危険な魔物なのだ。
こういった飛行が可能なタイプの魔物は、地上戦を得意とする戦士にとっては相性が悪く基本的に魔法を行使した戦闘がセオリーと言われているが、その魔法を封じる術を持つ飛行系の魔物は大変厄介でしかない。
「ちょッ!なんてもの入れてるんですか!それ魔物ですよ?!」
「いやいや、魔物なのは違いないけど、上位のダンジョンやクエストに行くときにはあえて魔物の力を利用することもあるんだよ。この子なんかは魔法を封じる能力を応用してダンジョン内でのトラップを無効化したり、麻痺や混乱などの魔法を相殺したり結構便利なんだよ?」
「そんな用途として魔物を使うなんて想像もしませんでした……」
ルークがそう思うのも無理もない。学校にいってもそういった実践的な部分、ましてや魔物を利用するなんてことは教わらないからだ。
こういった知識は実際に現場を見て経験しているものならではの発想なのだ。最初こそビックリしたものの、そういう用途でも魔物を利用することがあるのかとルークは純粋に知識として吸収するのであった。