ルークの前には『しばらくお待ちください』という文字が浮かぶ。
しばらく待っていると扉が現れ、学園の先生と思われる男性が入ってきた。
「これより、試験の合否を発表するのだが、その前に少し面談をしよう。かけてくれ」
そう言い、指を鳴らすと、白い椅子とテーブルが現れる。
(家具も白……)
「学園長の趣味なのだ、許してほしい」
「いや、なにも言ってないです」
心で呟き、隠しつつルークも席についた。
「今回の試験を振り返って、何か思うことはあるかい?」
先生の言葉にルークは言葉を詰まらせる。思い返してみても、正直活躍した場面もなければなにか貢献できたのかという自信もない。これまでは、それなりに自信もあって実際に通用してきたことが多いのも事実。そんな中で、今回の試験ではお世辞にも通用したか?と問われると通用したとは言えない。
自分の無力さを思い知らされたのだ。
「なにも出来なかったと悲観しているのかい?」
ルークの表情から何か感じ取ったのか、先生が声をかける。
「指揮官を倒せなかった……俺の力じゃ足りなかった」
悔しさと情けなさに机の下で握りしめた拳に力が入るルーク。それを察してか、先生が話し始める。
「君は《ソナー》で戦況を把握し自分だからできる動きをした、バルバトスの暴走も止めた。あれがなければ、被害はもっと拡大していただろう。だから、そんなに悲観することもない。それに最初に説明を聞いただろう? 最終試験は君たちが”苦手”と思われる空間へと飛ばされたんだ。おまけに、君が体験したのは二年前の首都ヘンデル、つまり、ここ王都が襲撃されたテロをモデルにされた実戦形式のリアルな試験だ。緊迫した光景に、迫りくる時間と状況に振り回される超緊張状態であれば、思うよりもパフォーマンスは発揮出来ないものさ」
先生の言葉は分かるが、ルークは自分の不甲斐なさからか言葉を素直に受け止められなかった。なんせルークはその二年前のテロで、防衛の戦闘に参加しており自分の弱さを思い知らされたからだ。
「二年前のテロ……あの炎の中で、俺は仲間を守れなかった。敵を討てなかった。師匠の剣なら、あの指揮官を一撃で……俺はまだ遠い」
「そうか、君もあの場に……」
あの惨状を経験したからこそ、努力をし、強くなったと思っていた。でも現実は、テロを実際に経験してようが、必死に鍛錬してようが試験で役に立たなかったというのが答え。
またテロが起こったとして、防衛に参加しても試験と同じ結果になるのが証明されたようなものだ。ルークは自分の慢心に隠れた弱さを再認識する。
そして、バルバトスの存在。彼の存在は今のルークには印象が強い。
「バルバトス――彼は、ちゃんと指揮官を倒していました。俺は今回、指揮官を見つけることすら出来なかった……」
「ああ、彼か。本当はこういうことは教えちゃいけないんだけど、彼は不合格になったよ」
「え……」
ルークは目を見開き驚いた。あれほどの実力と功績を示しながら不合格になったという事実を知り、理解が追いつかない。
明らかに彼は合格し得る結果を出していたはずなのに、何故不合格になったのか。
「彼は半魔の力で圧倒したが、制御を欠いた。しかも、本人は事の重大さを理解していなかった」
半魔とは、魔族と人間の間に産まれた存在のことを言い、両方の特性を持ち合わせて産まれる反面、色んな要因で忌み嫌われることが多い。
魔族と人間は敵対種族、その間に産まれる子供というのはつまりそういうことだ。中には、本当に想いを寄せ合って果ての結果としてというのもあるだろうが、大半はそうじゃないのが現実だ。
「バルバトスは指揮官を倒したが、街を半壊させ、住民を巻き込んだ。試験は街を守るための最善を求める。犠牲ありきの正義は認められないんだよ」
先生の言葉を聞き、ルークは驚いた。結果を追い求めるあまりルークも本質を見失っていたのだ。
「結果だけじゃダメだ。街を守るのが最善だろ? 彼はそこを見失った」
「自分も全然理解して動けていませんでした……」
「そうかもしれないね。でも君は、周りの状況を把握し周りには出来なくて自分にしか出来ないことで誰かの助けになる行動を取った。それはこの試験において、”最善”と言える正解さ。つまり、君は合格だよ」
先生の言葉に驚きつつも、合格の言葉に、胸が震えた。
「あっ……ありがとうございます!」
「君が我が学園で何を学び、どう成長していくのか楽しみで仕方がないよ。ようこそ、ルーク。アストレア学園へ」
先生は席を立つとルークに歓迎の意を示し、後ろに現れた扉へと案内する。先生と共に扉を抜けると、そこは学園の外、校門の前だった。
「入学式は二週間後の朝8時、体育館で行われるから当日はそのまま体育館に来て時間までに自分の席に着いておくようにね」
「はい!」
ルークは喜びを胸に、学園を後にした。
「ここからが本番だ……師匠を超えるために」
気を引き締めるように剣を握る手に力が入る。
こうして、ルークは無事にアストレア学園への入学が決まり、大きな一歩を踏み出したのだった――。